沼底に住む巨人がムーンティアを持っているらしいと情報を得たゼノーは、見つかれば一緒に行くというだろうダークエルフの姫に内緒で城を出をその沼へ向かう。
闇の紫玉、その21・沼底に住む巨人グレンデル
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら)
追いかけてきたダークエルフの姫君
うっそうと植物が繁った森の中にあるその沼には、水蛇が群れを成して泳いでいた。
「けっこう大きいんだな・・・向こう岸があんなに遠くに・・・。」
相手は巨人。その巨人と交渉するのなら少しでも大きいほうがいいと思ったゼノーは、その臭いと苦さに顔をしかめながらも、老婆にもらった薬を飲む。
そして、沼の淵に座り込むとゼノーは意識を集中し、グレンデルに呼びかけた。
沼底にある巨人の館まで果たして声が届くのかはわからなかったが、闇の気にのせれば届くのではないかとゼノーは思った。
エルフの老魔法使いによるとその館はあらゆる金属や宝石で飾られているそれは美しく飾られた館だという事だった。
が、日が沈んでも、再び日が登っても何の手応えもない。
「ふう・・留守なんだろうか?」
ゼノーは溜息をつきながら目を開けた。
呼びかけている間に、彼の体は元に戻っていた。
薬を無駄遣いしてしまったと思いながら、ゼノーは沼の淵の大木にもたれると、疲れていたのかそのまま寝入る。
「ゼノー様、ゼノー様。」
聞き覚えのある声にゼノーはふと目を開けた。
目の前に立っていたのは、モーラだった。
「モ、モーラ?」
驚いてゼノーは起き上がった。
「ゼノー様、私、来てしまいました。」
「来てしまったって・・・まさか、デクアスヴァル王に黙って?」
「だって、ゼノー様のいない城になんて一時たりともおられませんわ。
お願いです、一緒にお連れ下さいませ。
足手まといになるような事は致しません。」
モーラが一度言いだしたら決して後には引かないことは、この半年間の城での暮らしでゼノーにはよく分かっていた。
「分かりました。でも、もし足手まといになった時は、構わず置いていきます。いいですね?」
溜息をつくとゼノーはできるだけ冷たく言い放った。
「はいっ!ゼノー様。」
彼女はゼノーの両手を自分の両手で包み込んで喜んだ。
「ふう・・・」
また溜息が出た。
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闇の世界が危機だというのに、その為に一刻も早くムーンティアを捜し出し、闇の貴石にたどり着かなくてはならないというのに、ダークエルフの王、デクアスヴァルは、ゼノーの足を自分の城に引き止め、その娘モーラとの仲を取り持とうとした事は、いくらその方面に鈍感なゼノーでも薄々察していた。
そしてその思惑どおり、ゼノーに対して恐れしか感じてなかったモーラは、いつしかゼノーに好意を抱くようになっていた。
が、当のゼノーは全くその気はなかった。
薬で身体は大きくできるものの、心がそうなるには、まだまだゼノーは幼すぎた。
「そう言えばシアラは何をしているだろう?」
今のゼノーが考える女性と言えば、前闇王の想い人、一人浮遊城を守っている年老いた魔女。
(シアラの若い頃って、どんなだったんだろう?
きっと綺麗だったんだろうな。
闇王が愛した黒髪と黒い目の巫女・・・か。)
「ゼノー様っ?」
一人ぼんやりと考え事をしていたゼノーに、モーラが叫んだ。
「あ・・ああ。」
「何を考えてらしたんですか?」
ゼノーの考えていた事が分かったかのようにモーラは睨んだ。
「べ、別に・・・そ、その・・・この沼のどのくらいまで潜ればいいか、と思っていたんです。」
「この沼の中に?」
モーラの怒った顔は、沼の中に群がって泳いでいる水蛇を見た途端、恐怖の顔となった。
「へ・・蛇が一杯・・・ゼ、ゼノー様、こんな所に潜らなきゃならないんですか?」
「そうですよ。沼の底にある館に住んでいる巨人が持っているらしいんです。」
「こ、ここで呼ぶのでは駄目なんですか?」
「丸一日呼び続けましたが、応答ありませんでした。」
「じゃ・・留守なのかしら?」
「そうかも知れません。それとも、ぐっすり寝ているか、ですね。
館が沼のどの辺りにあるのか分かりませんが、とにかく潜って探さないと。」
「わ、私、ここでお待ちしてます。」
モーラは震えながら言った。
「それが賢明でしょうね。でも、ここもあまり良い環境ではないと思いますよ。
蜘蛛は、大丈夫ですか?」
「蜘蛛ならなんともないわ、いくら大きくても!
大丈夫、私、ここで待ってます!」
蜘蛛も苦手で城へ帰ると言い出すことを期待していたゼノーは、その言葉を聞いてがっかりした。
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水蛇がたむろす沼の中へ
そして、ゼノーは彼女をそこに置いたまま、一人沼の中へ入った。
彼女と話しているうちにふと、闇の気をまとえば例え水の中でも大丈夫なのではないかと思ったゼノーは、その意識を集中し、気をまとった。
思ったとおり、水中でもゼノーは苦しくも何ともない。
その上、水蛇はゼノーに襲いかかるどころか、館まで案内してくれた。
その沼底深く、宝石で装飾された館があった。
ゼノーはその玄関に立つと扉を叩きながら、巨人を呼んでみる。
「グレンデル、グレンデル、いますか?」
何度呼んでも応答はなかった。
仕方なく、ゼノーは闇移動を試みる。
水中では無理かとも思ったゼノーだったが、何でも試みてみるもので、数十分気を集中し続けた結果、館の中に入る事ができた。
▼その22につづく…
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闇の紫玉/その22・巨人と力比べ
ムーンティアを持つという巨人グレンデルの住む沼にきたゼノー。 いくら呼んでも応答がないため、ゼノーは最終手段ともいえる闇の気をまとい、沼の中へ入ってみた。 闇の紫玉、その22・巨人と力比べ このページ ...