闇の紫玉

闇の紫玉/その24・種の絶滅の危機

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水中から第四層に入ったゼノー。
その水底に、巨人グレンデルからムーンティアをだまし取っていったヴォジャノーイ族の女性が住んでいるはずだった。

闇の紫玉、その24・種の絶滅の危機

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

真珠の宮殿

横穴の奥の逆巻く渦の中へ入ったゼノーは、闇の気を纏っているとはいえ、そのすさまじさでいつしか気を失い、気がつくとゼノーは、水中を漂っていた。

「ここは・・・グレンデルの沼ではないようだ。沼というより湖かな?と言うことは、第四層に来た、という事・・ですよね?」

闇の重圧が増していた。
第四層に間違いないと思いながら、ゼノーはその湖の探索を始める。

ゼノーの身体は流されていた間に元の子供に戻っていた。

その湖にはグレンデルのいた沼と違って水蛇は一匹も見つからなかった。

いや、水蛇だけでなく、何もいなかった。
ただ、透き通った水がどこまでも続いている。

そして外の光も届かないような暗い湖底に、眩いばかりに輝く宮殿があった。
近づくと、それが無数の真珠で造られている事が分かった。

ゼノーは宮殿の入口に立つと、しばらくその見事な造りに見とれていた。

「闇王様?闇王様でしょうか?」
宮殿の奥から女の声がし、ゼノーが覗くように見ていると、一人の女性が出てきた。

「闇王様、よくいらして下さいました。」

「何故私が闇王だと分かるのですか?」

「水鏡の精が知らせてくれました。
第五層からの水流を通っておみえになると。」

「ここは、ヴォジャノーイ族の宮殿でしょうか?」

「はい、そうです。」

「では、その姿は偽りの物なのでしょうか?」
ゼノーはそれが化けているとは、信じれなかった。

確かに肌は薄緑色、髪も緑だが、姿形は、整っていた。
聖女のような気品さえ感じられ、とても蛙顔の半魚人とは思えなかった。

「ご存じなのですか。人間の姿の方が闇王様には、よろしいかと思ったのですが。」

少し悲しげな顔をしてじっとゼノーの顔を見るその女性に、ゼノーは一瞬どきっとしてしまった。
その黒い目はシアラを思い出させていた。

「べ、別に悪いという事ではありません。
ただ、…そう、グレンデルが騙されたと怒っていた事を思い出したので。」

「グレンデル・・・ああ、渦の向こうの沼に住む巨人ですね。」

「そうです。彼からムーンティアを貰ったという人が一族の中にいるはずなんですが、ご存じありませんか?」

「このような所では・・どうぞ宮殿の中へお入り下さいませ。」

その女性は深々とお辞儀をすると、ゼノーの手を取り中へと歩を進めた。

グレンデルの館同様、宮殿の中まで水中ではなかった。
しかも、宮殿の内側も全て真珠で覆われている。
その美しさにゼノーは見とれながら奥へと案内されていった。

ちょうど宮殿の中央辺り、そこはドーム状の大広間になっていた。

そして、その中央には噴水があり、そこにある飾り台の上の水晶の中に、探していたムーンティアがあった。

「ムーンティアが!」
慌てて駆け寄るゼノーの前に、一人のヴォジャノーイが駆けつけ、跪いた。

「お願いでございます。今少しお貸しくださいませ。」
見ると、案内してきてくれた女性もその横で跪いている。

「貸せ、という事はどういう事なのですか?」
顔を上げたそのヴォジャノーイは、先の女性と全く同じ顔をしていた。

「双子・・なのですか?」
ゼノーは驚いて聞いた。

「いいえ、私たちはどちらも女王様の顔を模倣しているにすぎません。」

そう言うと2人は同時に本来の姿、蛙顔の半魚人に戻った。
ゼノーはそのあまりにもの違いに眩暈を感じる。

「私は、エリオナと申します。」

「私は、サリオナ、私たちヴォジャノーイは、皆変身できるのでございます。上半身のみでも下半身のみでも、全身でも。」

「人魚…もそうですか?」

「人魚は人魚。私どもは私どもですが、人魚の形態にもなれます。
そして、その擬態では、最たる美しさを誇るのが私どもの女王なのです。でも…」

声を詰まらせ目を潤ませたエリオナの肩をサリオナはやさしく抱くと、ゼノーを真っ直ぐ見て言った。

「今、私たちの女王様は瀕死の床にあるのです。」

「瀕死の?」

「はい。」

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種の危機

ヴォジャノーイは女性のみの種族だった。
子を宿す事ができるのは、その女王のみ。
人間界にいる時は、その容姿で人間の男を騙して子種を得、子孫を増やしていた。

そして、ここ闇の世界でもそうしていた。
が、半年ほど前、以前住んでいた湖が暗黒の崩壊の渦に飲み込まれそうになった時、女王はその力を振り絞ってこの湖へと宮殿諸共移動させた。

ただ一人、宮殿の外に出、暗黒の渦にその半身を引き込まれながらも必死で力を振り絞った結果だった。

宮殿と一族が無事移動した後すぐ自分も移動したのだが、それから女王の身体に異変が起こった。

美しかった銀の髪は白髪に、銀の目は濁って盲目となり、白かった肌もその艶を失せ青白くなってきていた。

まだ若い女王に、そんな事は起こりうるはずのない事だった。

誰が考えても原因はあの暗黒の渦に引き込まれたせいだった。

そして、治療方法もまた治る見込みもなく、確実にその命を縮めてきているのは、誰の目にも明らかだった。

代々の女王はその命尽きる前、次ぎなる女王を産み、死んでいく。
だが、今回は突然の発病で、子供は授かっていなかった。

そして何とかその寿命のあるうちに新しい女王の種を貰うべく、その姿を一時的だが元の美しい姿に戻してくれるムーンティアを必要としていたのだ。

が、本来その身に着けるべきではないその玉は、持ち続けていると余計生気を取られてしまう為、休んでいる時は、そこに保管してあるのだった。

「それで、女王は何処に?」

「奥の離宮におります。
少し前、水面から戻って来た所なのです。
でも・・・多分駄目だろうと・・・女王様のお顔がすぐれなかったものですから。」

「そうですか、お会いすることは可能でしょうか?」
しばらくムーンティアを見つめいたゼノーは、静かに尋ねた。

 

▼その25につづく…

闇の紫玉/その25・瀕死の女王

ヴォジャノーイ族の宮殿にたどり着くゼノー。 ムーンディアは確かにそこにあったが、一族の窮地を脱するため、今しばらく貸してほしいと言うヴォジャノーイ族の女王に会うことになった。 闇の紫玉、その25・瀕死 ...

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