「おおーーい!ある程度のマップできたか?シナリオは?音源は?」
大和第二高校、パソコン部部室。部長である山崎洋一が叫ぶ。
「桂木ぃ、だいたいの世界観できてんだろ?マップは?」
つかつかと、副部長である桂木渚の席に近寄ると、いきなり彼女の頭を手に持っていた本でぽん!と軽く叩く。
「もう!何よ、部長!叩かなくてもいいでしょ?」
いつも部長にからかわれている渚は、軽く睨んであしらう。
「マップは、今のところタスロー大陸と大陸内のシセーラ公国のおおよそのマップってとこ。世界は・・黒の魔導士の出現により、崩壊に向かってるってとこが、大ざっぱな内容よ。」
「ホントに大ざっぱだな・・・で、次はその魔導士を倒す勇者ご一行様ってとこだな。・・桂木の大好きな・・・」
にやっとする部長をきつく睨む渚。
「大好きな、で悪かったわね!ワンパターンだと思うんなら、部長が設定すれば?」
「別に悪いなんて言ってないぜ、オレ。」
軽く渚の視線を交わして半分おどけたような表情を残し、彼は自分の席に戻る。
「もう!私、家でしてくる!」
PCの電源を切りながら、渚は周りに聞こえるように言った。
「いいけど・・部活はほぼ毎日あるから、夏休みだからって、休むんじゃないぞ。世界観とマップは基本なんだから、桂木が遅れるとみんなに響く。文化祭に間に合わなくなるからな!」
「はい、はい!わかってます!」
「じゃ、またね、ちーちゃん。」
「うん、いいイベント思いついたら報告するね。渚も頑張ってね!」
軽く返事をすると、渚は横の席にいる親友、結城千恵美に手を振ると部室を後にした。
「うーーーんとぉ・・・、この先はーー・・」
客間においてあるPCの前で考え込む渚。
「えっとぉ~~~~~・・・」
いつしか渚は夜が更けるのも忘れて、ゲームの最初のころの舞台となるマップデータ作りに専念していた。
「・・あれ?もう1時すぎ?・・早いなぁ・・・そろそろ寝ないと、またお母さんがうるさいから・・。」
1人呟きながら後ろを向いた時だった。
マップが大写しになっていた画面に黒いもやのようなものがかかってくる。
急速に広がったそのもやは、数秒後には画面から滲み出てきていた。
そんな事が起きているとは、全く気づかずPCに背を向けたまま何やら本を見ていた渚は、ふいに自分を包み込んだそのもやに驚く。
「な・・何?これ?」
もやに気づくと同時に、ぞっとする声が渚の耳に低く響いた。
「・・見つけた・・・闇の女王となりうる娘を・・・」
「え?」
地の底から重く暗く響きわたるような男性の声。その声に問いかけるまもなく、渚は、その地の底へ引き込まれるように、意識が遠のいていくのを感じ、次の瞬間、人型になったそのもやに抱かれるように、渚の姿は部屋から消え失せていた。
「き、きゃあああああ!」
▼その2につづきます。
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創世の竪琴/その2・夢の世界で
「き、きゃあああああ!」 (このシーンにつづく創世の竪琴その1はここをクリック) 叫び声をあげながら渚は、がばっと起きあがる。 「はぁはぁはぁ・・・・ゆ、夢・・・?」 どうやら彼女は悪夢にうなされてい ...