闇の紫玉

闇の紫玉/その8・狂気の狩人

投稿日:

リーに会いに来る途中、村の少女シャンナは運悪く狼に襲われその命を落とす。

その無残に食い散らかされたシャンナの残骸を発見した村人は、彼女の日記から双子につながる少年のことを知り、狼におそわせたのが悪魔の双子なのだと決めつけ、山狩りを決めた。

闇の紫玉、その8・狂気の狩人

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

シャンナの不幸

その前日、雨だというのに、シャンナはいつものとおりジロと山に入った。

両親の出掛けるのがいつもより遅いお昼すぎになり、何故だか今日会わないと、もうずっと会えないような気がた彼女は山道を急ぐ。

「ウウウウウ・・・」

「どうしたの、ジロ?」
急に立ち止まり唸りだしたジロに、シャンナは何かあったと悟った。

「ガルルルル・・・・・」

「狼?こんな昼間から?」

まさか、昼間は出ないはずと彼女は焦る。

「ガウッ!・・・・」
ジロが彼女を守ろうと襲ってくる狼に向かっていく。

が、その狼の数が余りにも多すぎた。

ざっと見て、少なくとも十匹はいると判断したシャンナは、助けを呼びに来た道を戻ろうと振り返った。

その時だった、来た道からも一匹の狼が現れ、ジャンプするとシャンナの喉に噛みついた。

「ヒャッ!」
シャンナは声らしき声も出ず、そこに崩れ落ちる。
その瞬間、シャンナはリーの笑顔を見たような気がした。

痛みを感じるまもなく彼女の魂は身体から離れていたことだけが、せめてもの救いだった。

大きくそしてその鋭い牙は、シャンナのその細い首を簡単に突き抜けていた。

その夜、どしゃぶりとなった雨の中を、帰って来ないシャンナを探しに山に入った家族は、狼にその内蔵を喰われた酷たらしい彼女の遺体とジロを見つけた。

村では当然のように狼狩りをする事が決まった。

そして、リーとゼノーにとって不運な事に、シャンナの日記を彼女の両親が見る事によってその所在が判明した。

『銀の髪と青い目の年下の少年、その友達と2人だけで山の洞窟にいる。』

彼らはそれだけで悪魔の双子だと思い込んだ。
狼狩りは急遽双子狩りとなり、狂人のようになった村人はその手に斧、鋤、鎌などを持ち、山へと入る。

スポンサーリンク

悲しい発見

村人が怒濤のように山へ入ろうとしている時、リーとゼノーは旅支度も終え、そろそろ出発しようとしていた。

本当はいつもシャンナの来る時間までそこにいて、きちんとお別れが言いたかったリーだが、シャンナの事はゼノーに話してなかったため、その事を言いだすことができなかった。

そして2人はまさか村人が襲って来るとは思いもせず、その洞窟を後にした。

洞窟を後にして十分ほど歩いただろうか、熱を出して寝ていて道を知らなかったゼノーは、ただリーの後をついてきただけだったが、リーはいつの間にか村の方へと向かっていた自分に気がついた。

が、もしかしたらそのうちシャンナが走ってくるかもしれない、そうすればお別れもきちんと言える、そう思ったリーはただ黙って歩きつづけた。

そうするうちに、以前リーが狼に襲われた場所に出た。

「何だろ・・これ?」
ゼノーはそこらじゅうに散らばっているクッキーのかけらのような物を一つ拾ってみた。

泥がついてはいるが、確かにクッキーのようだった。そして、それだけでなく、まだ辺りには布切れだとか、その辺りのものではない草なども散らばっている。

ゼノーは何故このような物があるのか分からず、そのかけらを拾ったまま不思議に思っていた。

が、リーには、それがシャンナのクッキーだと、彼女の服の切れ端だと、一目見た途端に分かった。

それと同時に狼に襲われたのだろうということが不思議にも頭に浮かんだ。

リーは呆然としながらも小枝に引っ掛かっていた布切れを手に取ってみる。
それは彼女がどうなったのかを暗示するように真っ赤に染まっていた。

「シ、シャンナ・・・」
その途端、リーの脳裏には首を噛まれたシャンナの姿が鮮明に浮かび上がった。

「そ・・そんな・・・」
リーは信じたくなかった。

が、実際その場を見た訳ではないのに、不思議とそれが本当の事だと感じていた。
リーはその布切れをじっと見たまま突っ立っていた。

スポンサーリンク

狂気の追跡

「リー!」
ゼノーの声にはっとしてリーは彼の方を見た。

ゼノーは村の方向を向いていた。

そして、それまで気が動転していたリーには聞こえなかったのだが、わぁわぁという何人もの声が聞こえ、それは徐々に大きくなり近づいてきている。

「に、兄様・・・?」
二人の目に入ったのは、荒野でルチアとジャンを襲ったのと同じように、いやそれ以上に異常な気を発し、鬼のような形相をして走ってくる村人の集団だった。

「リー、逃げよう!」

「う・・うん。リリー、ゼノア、行くよ!」

2人はそのただならぬ雰囲気を感じ、きびすを返すと反対方向に走り始めた。

だが、2人はその地域には全くの不慣れ。
その反対に村人たちは知り尽くしている。
それは、絶対的に双子には不利な条件。

「リー!こっち!」

すぐに逃げ場を失ってしまった2人は、茂みに隠れることくらいしか思いつかない。

なんとかそこでやりすごせれば、と見つけた茂みの中にリーを引っ張って一緒に隠れる。

幸いまだ身体の小さい2人は見つかりにくく、その茂みのすぐ横を通っても気づかれずにすんだ。

「おい、向こうにはいない。この辺にまだいるはずだ。」

「よし、俺は向こうを見てくる!」

が、村人もなかなか諦めようとしない。

「兄様……」

「しーっ!」

捕まったらどうなるのか…恐怖に震えながら、2人はひたすら茂みの中でじっと背を丸めて小さくなる。

心臓の鼓動が周囲に響いてないかと思えるほど、大きく打っていた。

 

▼その9につづく…

闇の紫玉/その9・分かたれた道

「逃げろ、リー!」 鬼の形相で迫り来る村人たちを目の前に、兄、ゼノーを1人にしちゃダメだと思いつつ、恐怖に負けてその場から逃げ去るリー。 見送るゼノー。 弟のリーだけ助かるだろうことにほっとする気持ち ...

-闇の紫玉

Copyright© 異世界スリップ冒険ファンタジー小説の書棚 , 2024 All Rights Reserved.