闇の紫玉

闇の紫玉/その16・フェアリーの女王

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ダークホビット村の酒場で、銀の玉を使ってテニスをしているフェアリーの姉妹のことを聞いて、そこへ向かうゼノー。
銀の玉は確かにゼノーが探しているムーンティア。
しかし、姉妹は大切なものだからあげられないという。
どうしたらもらえるのかと考えながら、飛びながらテニスとしている姉妹のあとを追いかけるゼノー。

闇の紫玉、その16・フェアリーの女王

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

闇世界・フェアリーの女王

どれほど走っただろうか、酔った時にお腹の中のもの全て出してしまっていたゼノーは、空腹と疲れで倒れそうになっていた。
それでもフェアリーはテニスを続けている。

一体いつまで続けるつもりなんだろう、どこが楽しいんだろう?と思いながらふと立ち止まって見上げると、銀の玉がすうっと落ちてきた。

「!」
ゼノーは疲れた足で必死になってその落下地点に急ぎ、拾い上げた。

手の平のそれは、間違いなくムーンティア、ゼノーがブラコスにもらった物と同じやさしい銀色の光を放っている。

確かに間違いない、ほっとしてそれをシアラにもらった指輪に近づける。
と、銀の玉はすうっと小さくなるとその中に吸い込まれていった。

「やはり、あなたは闇王様。」

上空から声がしてゼノーは慌てて見上げる。
そこには先程の小さなフェアリーの姉妹ではなく、ゼノーと同じくらいの大きさのフェアリーがいた。

彼女はゆっくりと地上に下りるとゼノーに頭を垂れる。

「失礼致しました。私はフェアリーの女王、ミスーファと申します。
人間界にいる事ができなくなり、数年前からこちらに住まわせていただいております。」

ゼノーは彼女の美しさに目を見張った。
透き通るような白い肌、ほんのり紅い頬、緑の目、形のいい唇、エメラルドの輝きの長い髪、そこから出ている長い耳。
銀色に光る半透明の薄絹をまとった身体全体から淡い輝きを放っている。

さっきの姉妹の時はムーンティアの事ばかりに気を取られて何とも思わなかったのだが、今回は目の前に いることもあり、その美しさに気を取られてゼノーは返事をする事も忘れ、じっと彼女を見ていた。

「闇王様?」

「あ・・す、すみません。あまりにも綺麗だったから、つい・・・」

「まぁ、お上手ですこと。ほほほほほ」

口に手を充てて笑った彼女はその美しさを一層増していた。

「その銀玉は、私たちがこちらに来る前、人間から盗み取った物なのです。
そのお蔭で私たちはこちらへと逃れてくることができました。」

「人間から?」

「はい、バンパイアの娘が持っていた物なのです。
彼女は私の部下に、闇の世界へ行き、今はいないが、いずれ現れるであろう、闇王様に渡してほしいと頼むと、自害しました。
人間の玩具にはされたくなかったのでしょう。可哀相な娘です。」

ゼノーはミスーファからその時の状況を聞いて、心の底に沸き上がる人間に対する怒りを抑えきれなくなっていった。

「なんて奴らだ。人間が何様なんだ!屑じゃないか!」

ゼノーの固く握られた拳は、怒りで震えていた。全くどうしようもない生き物だ、人間とは、と感じていた。

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「闇王様・・・」

彼女はゼノーのその手を取り、やさしく包むとじっとゼノーの目を見つめた。

「どうか、一日も早くムーンティアをお集めになり、この闇の世界を人間の魔手からお守りください。それと・・・」

「それと?」

彼女はゼノーが落ちついた事を確認すると、彼の手を離し、微笑んだ。

「ここはあなた様の世界。
何人もあなた様の命令には逆らえません。
もっと自信をお持ちになり、威厳を持って、お命じなさいませ。
頼まなくとも命じればよいのです。」

「で、でも私はまだ・・・」

「歳も姿形も関係ありません。
毅然とした態度で命じあそばせれば、あなた様を取り巻く闇の気で、誰しも分かり得るのです、あなた様が闇王、この世界の源、主だという事が。」

ミスーファはゼノーの右頬にそっと口づけをすると、空へ舞い上がって行き、ゼノーは慌てて見上げた。

「ミスーファ!」

「第六層への入口は、その姉妹がご案内致します。
どうか、一日も早くこの闇の世界に平和をもたらして下さいませ。崩壊を止めて下さいませ。」

彼女の姿が遠く見えなくなり、視線を下げたゼノーの前に、飛びながら額ずく先程の姉妹がいた。

「先程は大変失礼致しました、闇王様。入口はこちらです。」

2人口を揃えて同時にそう言うと、彼女たちはゆっくりと飛び始め、ゼノーはその後に付いて歩き始めた。

歩きながらゼノーはつい先程までの空腹感も疲労感も失せている事に気がついた。

ミスーファがいつの間にか回復してくれたんだ、そう思ったゼノーは足取りも軽く歩き始めた。

 

▼その17につづく…

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