人間にとらえられていたプチでビルとダークエルフを助けたあと、闇雲に進んだゼノーは、大木に住居を構えるダークホビットの村に着く。
闇の紫玉、その15・気さくな闇世界の住人
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら)
闇世界・ダークホビット村
しばらく明るさを遮るようにうっそうと繁る森の中を進むと、前方の木々の幹に明かりを見つけたゼノーは一目散に走って行った。
「うわー、ふっとい木!」
それぞれ直径が三メートルから五メートルあるだろうか、その大木の上の方に明かりはついていた。
「何か用かね?」
ゼノーが一番近かった木の根元でその明かりを見上げていると、後ろから声がした。
振り向いたそこには、プチデビルを肩に乗せたダークホビットが立っていた。
「ここは、ダークホビットの村。
余所者は残念だけど、入れませんよ。
最近は特に人間がうろうろしていて、物騒だから。」
ちょうどゼノーと同じくらいの背のそのホビットはそっけなく言うと、ゼノーの横を通りすぎようとした。
「キーキー!」
「な~んだ、それならそうと早く言いなさいって!」
ゼノーが何の事だか分からず、突っ立っていると、そのホビットは、かぶっていた帽子をぬぎ、丁寧にお辞儀をする。
「先程はこのペペが助けていただいたそうで、ありがとうございます。
私はホビット村のギコギコ、よろしく」
「ゼノーです、よろしく。」
そのプチデビルは先程のデビルだった。
ギコギコの案内で、ゼノーはホビット村に入ることができた。
それは、何本かの大木の上にある家々。
「ま、ま一、杯。しかし、ペペを助けてくれた時といい、迷いの森を難なく通ってここへ着いた事といい、あなたはただ者ではありませんね。」
ギコギコがゼノーを連れてきたのは彼の家ではなく、酒場。
「あ、あの・・ぼ・・わ、私は・・・。」
「遠慮しなくていいんですよ。ペペを助けていただいたお礼です。」
ギコギコはグラスに酒をなみなみと注ぐとゼノーに勧めた。
「あっ、ほら、ピンクデビルのダンスが始まりますよ!」
ゼノーはギコギコが舞台を見た時、空になった彼のグラスと自分のをそっと交換した。
が、それから数分後、ゼノーは、ピンクの蛍光色のデビルダンスに眩暈を覚え、グラスを交換したせいでいける口だと思われた為、それからじゃんじゃん呑まされ、死にそうな苦しみを受けていた。
胃のなかの物を全部吐きだしても、吐き気は無くならない、心臓は今にも破裂しそうに打っている。
闇王がこんな事では、と思いながら、ゼノーは真っ青になって長イスの上に転がっていた。
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いつの間にか眠っていたゼノーは、ふと、話し声で目を開ける。
「な~んだ、てっきり人間の道具かと思ったら、夜中に銀の玉を使ってテニスだなんて。全く、人騒がせな!」
「だろ~?いつまで落とさずにできるかってんだから、ようやるよな!」
「あ・・あの、その銀の玉って?」
がバッと起き上がるとゼノーは、話しているホビットに聞いた。
「痛っ・・・あ、頭が、割れそうに痛い・・・・。」
ゼノーは、動いた途端、頭の中をまるで稲妻が走るような痛みを感じた。
「はっはっは!呑みすぎたな、あんた。」
「あの、今の銀の玉って?」
「ああ、ここへ来る途中フェアリーの姉妹がテニスをしてたんだ。
俺はてっきり人間のランプだと思って、ぎくっとしてしまったんだ。
ほら、よくランプを左右に振って合図してるだろ?
遠目にはおんなじ様に見えたんだ。」
「で、さっき青い顔して駆け込んで来たってわけさ。
よく見れば分かるのにさ、おっちょこちょいなんだから、こいつ!」
もう一人のホビットがからかうように言った。
「それ、どの辺ですか?」
「う~ん・・・南へちょっと行ったとこくらいかな?
なんせ飛びながら続けてるからなあ・・・。西に向かってたよ。」
「ありがとう!行ってみます。」
ゼノーは勢い良く部屋を出た。
その途端、平衡感覚を失って危うく木から落ちそうになる。
「わっ!」
「ほらほら、気をつけなくっちゃ、ここは木の上の酒場なんだからな。」
もう少しで落ちるところを、話をしていたホビットが助ける。
「ど、どうもありがとうございました。」
ゼノーは礼を言うと、一段一段階段を確認しながら下りた。
テニスをするフェアリー
「ほほほほほ・・・」
「ふふふふふ・・・」
二日酔いの頭痛に悩まされながら、20分ほど南西に走ると、笑い声が聞こえてきて、空中で飛び交う銀の玉が見えた。その輝きは確かにムーンティア。
「す、すみませ~ん!」
ゼノーは下から大声で呼びかけた。
が、二人は気づかないのか相変わらず笑いながら、玉を打ち続けている。
「すみませーーーんっ!」
「なあにぃ?」
ゼノーの声を聞いた二人は玉を打ち合いながら下りてきた。
ゼノーの手の平程の大きさの姉妹だった。
「何の用ですの?私たち、忙しいんですのよ。」
「あ・・あの、その銀の玉を・・・」
「銀の玉を?」
「あの、もらいたいと思って。」
「もらいたい?まぁ、せっかく私たちが楽しんでいるのに。
その楽しみを奪うおつもり?」
「で、でもそれがないと・・・・」
ゼノーは困った。
どう言ったら分かってもらえるのだろうか、と考えた。
「それに大事な物なんですもの。
例え、この変わりの物を用意して下さっても、差し上げられませんわ。」
「だ、大事なものって?」
「な~いしょ!」
二人は口に指を充てシーっと言うと再び上空に上がり、テニスを続けた。
「待って!待ってください!」
ゼノーは上を見上げながら、二人を追いかける。
▼その16につづく…
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闇の紫玉/その16・フェアリーの女王
ダークホビット村の酒場で、銀の玉を使ってテニスをしているフェアリーの姉妹のことを聞いて、そこへ向かうゼノー。 銀の玉は確かにゼノーが探しているムーンティア。 しかし、姉妹は大切なものだからあげられない ...