闇の紫玉

闇の紫玉/その19・ダークエルフの姫君

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闇世界第6層。誤解によりダークエルフの王にとらえられたゼノーだったが、その誤解も溶け、エルフの国の貴賓としてゼノーはしばらく滞在することになった。

闇の紫玉、その19・ダークエルフの姫君

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

闇世界・ダークエルフの姫君

しばらくしてテーブルに食事の用意が整う頃、ヤンが目を覚ました姫を連れてきた。

「おお、モーラ、こちらへ。」

王はモーラに近くに寄るよう言ったが、モーラはヤンの後ろに隠れ出てこようとしない。

「どうしたのじゃ、モーラ?」

「お、お父様・・・ご、ごめんなさい。私・・私のせいで。」

そう小声で言うと彼女はゼノーの前に走り寄り、そこにひれ伏す。

「も、申し訳ございません、闇王様。
お父様は何もご存じないのです。
私が、私一人が悪いのです。
どうか、罰するのでしたら、私を。」

「ひ、姫?」

「ひ、姫様?」
ゼノーが闇王だとは思っていなかった王とヤンが叫んだ。

「そうです、お父様、ヤン。
この方こそ闇王となられる方。
私たちが長い間待ち望んでいた闇王様なのです。
私は確かにこの方がムーンティアを指輪に仕舞われるのを見ました。
闇王の指輪に。」

「な・・なんと!」

王の方を向きなおして説明する姫の言葉に、王は立ち上がりヤンは驚きの余り立ちすくんでいた。

「で、では何故・・・何故あのように・・あのような態度を取ったのじゃ?」

「そ、それは・・・」

「それは?・・それは何なのじゃ?よいか、事と次第に寄ってはただでは済まされぬ事なのじゃぞ!
・・わ、わしは・・・わしはよりによって闇王様に無礼を・・取り返しのつかぬ無礼を働いてしまったのじゃぞ!」

「ご、ごめんなさい、お父様・・・・。」

モーラは床に頭を付け、その全身をガタガタと震わしていた。

「いや・・・お前が悪いのではない。
わしが早とちりしたのじゃ。」

震えるモーラの側に近寄ると、王はゼノーに跪いた。

「デクアスヴァル王、誰も悪いものはおりません。
どうぞお立ちください。」

ゼノーは王とモーラの手を取ると二人を立ち上がらせた。

「誤解は溶けたのです。
それでいいではありませんか?」

「・・・闇王様。」

「さあ、せっかく用意して下さった食事が冷めてしまいます。
姫もご一緒にどうですか?後の話は食事をしながらという事で。」

こうして3人は食事を取ることになった。

「ですが、何故姫が逃げたのか聞きたいですね?」

ゼノーのその言葉にモーラは一瞬びくっとした。
そしてその顔を真っ赤にしながら話し始めた。

「あの・・・私、その人間の中の・・・・」

「何じゃ、聞こえぬぞ?」

最後が聞き取れないほど小さな声になってしまったモーラに王がきつい口調で尋ねた。

「あ、あの・・私の好きな人が・・・・・」

「な、なんじゃと、好きな?・・・お、お前、よりによって人間なんかを?」

「国王、そう興奮しなくても。」
ゼノーは立ち上がり今にもモーラに掴みかかりそうな王を制した。

「そうですか、それは気の毒な事をしてしまいました。
ですが、あの人たちはあなたを捕らえて他の人間に売ったんですよ。」

「・・・分かってます。でも・・でも・・・私・・・」

「なかなか凛々しい人でしたからね。」

「すみません。私、あの人が闇王様に倒されて・・仕方ないとは思うのですが・・あの・・・気が動転してしまって・・・すみません!」

モーラはテーブルに頭を付けるようにしてゼノーに謝った。

「いいんですよ。でも私の方こそ、悪い事をしてしまって。」

「い、いえ、いいんです。
あの人が闇王様に火炎など浴びせるから・・・当然の事です!」

「火炎?」

ゼノーは自分の考えている事と合わず、不思議そうな顔をしてモーラを見た。

「まさか・・姫の愛しい人と言うのは・・?」

「・・・・・・」
真っ赤になってうつむくモーラに王が聞いた。

「じゃから、姫はその人間らが言う勇者とやらに恋しておったという事であろう?」

「そうじゃなくって・・・・魔技の・・・」

「なんじゃ?聞こえんぞ?」
しつこく聞く王にモーラは思い切ったように大声で答えた。

「お姉様なの!私が好きだったのは、その人間の魔法使いなんです!」

「・・・?」
思ってもみなかった事に王はその目を丸くして言葉を失っていた。

「お、お姉様・・・お姉様ぁ・・・」
必死に抑えていたが、ついに我慢しきれなくなったモーラはそこに泣き伏した。

「姫様・・さ、お部屋へ・・・。」
ヤンが気をきかしてそっと姫を連れていく。

2人が立ち去ったのを確認すると、王はゼノーに向き直り、再び頭を下げると謝った。

「申し訳ございません。何ともお見苦しい所をお見せ致しまして。」

「い・・いえ。」
ゼノーも少し呆気に取られていた。
まさか勇者でなく魔技だとは思ってもみなかった。

「ところで、デクアスヴァル王、先程姫が言った通り、私は真の闇王となるべくムーンティアを探しているのです。
この第五層のどこかにある、または誰かが持っているというような事を聞いたことはありませんか?」

ゼノーは、姫の事から話を切り換えて王に聞いた。

「ムーンティアですか・・・いえ、私は聞いたことはありません。
ですが、しばらくこの城に滞在していただく訳にはいかないでしょうか?
ただ闇雲に捜し回ってもお疲れになられるだけです。
一人よりも二人、二人よりも数人と申します。
我がダークエルフ一族の総力を挙げて調べますので。」

知らないのならいいと一度は国王の申し出を断ったゼノーだが、どうあってもそうしたいと言う国王に負け、ゼノーはしばらくそこに滞在する事にした。

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ゼノーがダークエルフの国に滞在するようになってから一月が経ち、二月が経った。

が、一行にそれらしき報告はなく、しびれを切らしたゼノーが何度となく尋ねても国王からの答えはいつも『只今総力を挙げて探しております。』の繰り返しだった。

その間、どこへ行くのもゼノーのお供としてモーラ姫と数人の屈強な部下がついてきた。

モーラ姫がゼノーに慣れてくるにつれて、時には、一緒になってそっと城を抜け出した事もあったが、ほとんど姫と行動を共にしていたといって良かった。

 

▼その20につづく…

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