闇の紫玉

闇の紫玉/その6・逃亡生活の中の少女との出会い

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狂気に染まった実の母親と乳母からの拒絶。
寄る辺を失った双子は、ともかくそこを離れるしかない。
「どこへ?」……答えてくれる人はどこにもいない。

闇の紫玉、その6・逃亡生活の中の少女との出会い

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

街道沿いの立て札

森を出て、行くあてもないまま2人は街道沿いに歩いていた。

「あんな所に立て札があるよ。」

ソマー城から一番近い町、チサーセの道しるべの横に、来た時には見なかった立て札を見つけ、2人は、道に誰もいないのを確認してから見に行く。

「え~と・・『悪魔の双子』銀色の髪と1人は紫、もう1人は青い目をした4,5歳の少年。上記の者の居所の提供者には10ピルク、2人の首又は紫の目をした少年の首を持参せし者には……50ピルク支払うものとする。……領主、ガルデニア侯爵・・・こ、これって!」

読んでいるうちに2人の顔色が変わってきた。

これは明らかに自分たちの事をさしているのだと判断できた。

幸か不幸か、彼らはルチアの行き届いた教育で、字の読み書きだけでなく、同い年の子供たちよりはるかにいろいろな知識を得ていたため、今の自分たちが置かれた状況をしっかりと理解できた。

「兄様・・・・」

「・・・・・」

2人は顔を見合わせた。

何故、何故こんなことされなくてはならないのか、2人には全く理解できなかった。

とにかく、ここにいては、いつ通りすがりの者に見つかるか分からない。

そしてもし見つかればただではすまない事は確かなことははっきりと悟っていた。

フードをより深くかぶると、2人は狼たちと共に森の奥へと入っていく。

そして、2人にとって本当の放浪生活が始まった。

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幼き逃亡者

とにかく、見つからない所へ逃げよう、終われないところまで、と思った彼らはそれまでと同様、いやそれ以上注意を払いながら旅を続け、南へ南へと下って行った。

ガルデニア侯爵領南部ロースタン地方は、山岳地帯だった。

2人はその山奥へと、誰も来ない所へ行こうと決めたのだが、2人の手配書が領地内には全て渡っているらしく、食料を手にする為に行った村で捕まえられそうになったり、見つかって追われたりと、散々な目に合いつづけた。

何も手にする事ができず、森で待っていたリーたちのところに手ぶらで帰って来た事も頻繁にあった。

それでも何とか生き長らえていたのは、狼親子のおかげだった。

彼らは自分たちが捕らえてきた野兎や鳥を持ってきてくれ、そして、夜は寒さを防ぐ為に身を寄せ合って眠ってくれた。

彼らが南部ロースタン地方に入ってすぐのこと。

それまで病気一つした事のないゼノーが高熱を出した。
彼らは母狼が見つけてきた森の洞窟に身を寄せていた。

季節はすでに初冬、狼たちの獲物も冬眠に入り、食料の調達は、村で何とかするしか方法がなくなっていた。

が、その役目はいつもゼノーであった為、リーは困っていた。

それまで何度か食料を手に入れようと(盗みを)試みたものの、いつも失敗に終わっていた。
それどころか、リーが村に行くと必ずといっていいほど、追手が付いて来た。

そのせいもあってゼノーはリーには行かせない事にしていたのだが…。

「兄様・・大丈夫?」
洞窟の中でリーは赤い顔をして横たわっているゼノーを心配そうに見つめていた。

その横では狼のリリーとゼノアがぴったりと寄り添っている。

熱が随分高いのだろう、ゼノーは苦しそうな息をすると共に寒けがするのか全身がガタガタ震えている。

その頭に乗せた近くの川で濡らしてきた布は、すぐ乾いてしまう。
食べ物ももうなく、リーは一人で困惑していた。

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ひとときの安らぎ

そんなある日の夕方、リーは意を決して、食料と、できたら薬を手に入れに一番近くのテヘロ村へと一人で向かった。
勿論、ゼノーが寝ているうちに。

「だあれ?誰かそこにいるの?」

村はずれの一軒家の納屋。何かごそごそと音がするのを聞きつけたその家の子供、シャンナは、飼い犬のジロと一緒に納屋に入った。

「ウウウウ・・・ワンワン!」
干し草の下にいるリーを見つけたジロが吠える。

「誰?誰なの?出てきなさい!」

まだ8歳にしかならないシャンナは、それでもしっかり者として村でも評判だった。

だから今日も今日とて1人で留守番をしていたのだ。
それに彼女には頼もしい友人ジロがいた。
そう、ジロとは彼女とほぼ同じくらいの大きさの猟犬である。

がさがさと干し草の音をさせ、リーはびくつきながら顔を出す。

「あんた、誰?」
ジロがいるとはいえ、やはり緊張していたシャンナは出てきたのが自分より小さい子供だと分かるとほっとして聞いた。

「ぼ、僕・・・リー。あの・・あの・・・。」

「あたし、シャンナよ。どうしたの?」

リーのすぐ前にしゃがみこんでシャンナは話しだした。
犬のジロも彼女のすぐ横に座った。

「あの・・・お腹がすいて・・・ご、ごめんなさいっ!」

リーは勢い良く枯れ草の中から出るとぺこりと謝った。

「ごめんなさいって・・・あんた何か悪いことをしたの?」

「あ・・あの・・・・・」
リーはばつが悪そうに、少し前失敬した軒下に干してあった大根を見せた。

「そっか・・それは、それは・・・」
彼女は少しいたずらっぽい目でリーを見た。

「でも食べてないところを見ると・・・他にも誰かいるの?」

「あ・・あの・・に、兄・・と、友達が・・森で・・」
言いかけてリーは、はっとして止めた。

「ふ~ん・・・ここん所、戦を逃れて山越えしてくる難民をちらほら見るからね。あんたもそうなんでしょ?」

どっちからかと言うとその反対から来たリーたちである。
戦の事など知るはずもなかったが、何となくそうしておいた方がいいと思ったリーは黙って頷いた。

「知らない人は家に入れちゃいけないって言われてるから、そうはできないけど、・・でもあんた、いい子みたいね。」

「な、なんで?」

「だって、ジロがおとなしくしてるもん。
悪い奴ならとっくの昔にかみ殺してるよ!」

「か・・かみ殺して・・・?」

「うん、そう!とっても頭がいいんだ、ジロは。半分狼の血が入ってるんだ。」
シャンナはジロの頭を撫でながら得意そうに言った。

「ぼ、僕にも狼の友達がいるよ。リリーとゼノアっていうんだ。」

「ほんと?」

すっかり気の合った2人は、その夜遅くシャンナの両親が帰ってくるまで納屋で話し込んでいた。

それは、リーにとって久しぶりに笑い、楽しい時間。

ずっとシャンナと話していたかったと思いつつ、リーは暗くなりかかった森の中を嬉しそうに走っていた。

手には、そっとシャンナが渡してくれたクッキーと薬草。

その薬草はシャンナが風邪をひいて頭が痛い時、いつも煎じて飲むかそのまま噛むという薬草で、効果はてきめんと聞き、これでゼノーの熱も下がるだろうと、ともかくうれしさにあふれていた。

「グルルルル・・・・」

「え?」

ふと足が止まる。
耳に入ったのは、獣の低いうなり声。

狼のうなり声

「ま、まさか、シャンナが言ってた狼?」

その唸り声は聞きなれたリリーのでもゼノアのでもない事は確かだ。

「ど・・どうしよう?」

その唸り声は、洞窟へ向かう方向にある茂みからのようだった。

 

ゼノーが待つ洞窟への道は、今進もうとしている道しか知らない。
回り道も分からなければ、何より今にもそのうなり声を発した狼が襲ってきそうな気配がする。

「に、兄様………ぼ、ぼく……」

せっかく薬草と食べ物を手に入れてきたのに。
これを渡せばゼノーも治るのに、と、薬草とビスケットの入った袋を持つ手に力が入る。

「リリー……」
長旅をしてきた母狼を無意識に呼んでいた。

 

▼その7につづく…

闇の紫玉/その7・ひとときの穏やかな日々

少女がくれた薬草とビスケットを手に持ち、急ぎゼノーが待つ洞窟へと山道を急ぐリーを野生の狼が襲わんとしていた。 その窮地を救ったのは、他ならぬともに旅をしてきた母狼 リーは助かり、ゼノーも徐々に回復する ...

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