星々の輝きに囲まれる。それはまるで宝石のようにも見えるが、一人っきりになったばかりの少女ニーナにとって、その輝きは冷たい輝きとして心に響く。
ニーナ・シャピロ、17歳。広大な宇宙にひとりぼっち。しかも、未経験なスターシップで遠く離れたスターベースまで航行しなくてはいけない。
自動運行モードがあるにしても、それは決して安全とは言えない。
ひとりで全てに対処し、ひとりで生活の糧をみつけ、生きて行かなければならない。
まずは、現在いるカロノス星系内にあるヒアスラ・スターベースまで。
生きていくために!かわいがってくれたプリンセル・ブルー号のみんなの為にも!
Contents
ひとまず自分を落ち着けよう
自動航行モードに入ったジョリー・ロジャー号のコクピット。眠った方がいいとは思ったが、どうも眠れない、寝付かれない。
それは、そうだ、一気にいろんな事がありすぎた。疲れもしたがニーナの脳は、それ以上に興奮状態でもある。
「そうだ!カードでも引こう!」
カードとは、オラクルカードというもの。占術にも使われるそれは、宇宙に多種多様なものが存在する。
その中で、ニーナがプリンセス・ブルー号に見習いとして乗船したときに、入れ替わりのように船を下りた一人のドクターがいた。そのドクターからの挨拶兼選別としてもらった『星のオラクルカード』なのである。
カードは、そのドクター手製のもので、ファーアームではない、どこか遠くに存在しているらしい宇宙の写真で出来たものだった。
その写真をドクターがどこで手に入れたのか、あるいは、ドクターの想像世界のCGなのかは定かではないが、その美しさに一目で気に入ったニーナは、時折箱から取り出しては眺め見たり、引いてみたりしている。
独立1日目のオラクルカード
「えーっと、今日はどんなカードが出るの…かな?」
しート横にあるサイドテーブルにカードを広げると、しばらく見つめていてからおもむろに1枚引く。
「わ~♪いて座のカードだ!これ、赤と青でキレイだから好きなんだ♪
なになに?『全てのものはただそこにあるだけで、その価値はそれに接触する人によって決まる』ということなんだよね。なるほど~」
宇宙ひとりぼっち、初航行
改めて船内を眺め見る。
「そうだよね、ジョリー・ロジャー号。あなたの元の持ち主は、あなたを一人置いてどこかへ行ってしまったけど、今は私がいる。お互いひとりぼっち同士、仲良くやっていこうね!」
一応スターパイロットの見習いとしてプリンセス・ブルー号のクルーになったニーナ。
つい今しがた起きたハプニングは、この上なく突然でショックで悲しい出来事だったが、この船は無傷だ。武器庫も貨物庫も空っぽだが、航行には支障はない。
ファミリー用として一番流通しているスターシップだとはいえ、正規パイロットになっても、その給金では、いつ買えるのかどうか分からない代物だ。
それがタダで手に入った。貨物庫付きだからある程度の荷を運ぶことができ、貿易商としてやっていける。標準装備では貨物庫は4基だが、8基まで増やせることも嬉しい。一度に運べる荷物の量が多ければ、行き来する手間も時間も少なくてすむ。
考えてみればおいしい話しである。
但し、先立つものは必要だが。
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「そうだよね、これって…ちょっと…ううん、かなり?予定してた時より早くなっちゃったけど……独立ってことだよね、スターパイロットとして、一人の人間として。」
その考えに達すれば、ニーナの両手は、自ずから拳を作っていた。
その両の拳にぐっと力を入れる!
「とにかく…無事にスターベースまで行くんだ!なんとしても!何があっても!」
と、意気込んでもやることがない(笑)。
Nスペースなら直接操縦するのだが、自動航行中は、冬眠も可能だ。
「そう気負わなくてもいいよね、出来ることからで…。」
そんな言葉をつぶやきながら、ニーナは、カードの写真の方を上に向けて1枚ずつ並べていく。
「キレイだよねー……もしもこの宇宙に行けるのなら、行ってみたい…かも?」
そんなことを思いつつ、いつしかニーナは眠りに入って行く。
ウィーーーーーーー…
操縦者の眠りの妨げにならない程度の動作音を静まり返ったコクピットに小さく鳴り響かせながら、シートがゆっくりと倒れていく。
ウィーーーーーーー…
シートが床と水平になるまで倒れると、透明なマユ型の保護カプセルがシートを覆う。
ジョリー・ロジャー号は、ニーナを乗せ、ひたすらスターベースを目指して航行する。それは、宇宙嵐や攻撃がなければ、静かでおだやかな航行なのである。