(問題は、無事スターベースにドッキングできるかどうか…よね?)
宇宙ひとりぼっちになった17歳の少女、ニーナ・シャピロ。ともかく今現在自分が乗っているスターシップが飛行しているカロノス星系のスターシップを目指していた、そう、自動航行で。
同一星系内なら可能なその航行は、宇宙嵐や海賊や帝国と敵対しているマンチー艦からの攻撃でも受けない限り、自動的にスムーズに、ニーナが操縦することなく、ロックオンしたヒアスラ・スターベースが見えるところまで連れていってくれるのだ。
Contents
ヒアスラ・スターベースエリアに到着
ぽ~~~ん♪
自動航行が終了し、Nスペースに出た事を知らせるベルがなり、それとともに、ニーナが横たわっている透明なカプセル型のシートは、再びゆっくりとそのカプセルを脱いで行く。
ウィィィィィィ・・・
背もたれがゆっくりと起き上がる。
「う、う~~ん、もうスターベース・エリアに着いたんだ?」
目をこすりつつ、前面のフロントスクリーンを見る。
「わ!スターベースだ!やった!トラブルなしでここまで来られたんだ!」
ぱちん!と指を鳴らして、その幸運な事実を正直に喜ぶニーナ。
フロントスクリーンには、緑色に輝くピラミッド型のスターベースが見えた。
それは、真ん中の円柱によって2つのピラミッド型の構築物が上下に(宇宙空間に上下があるのならば)連結された宇宙ステーションだ。
カロノス星系にあるこの”ヒアスラ・スターベース”は、ファーアームの統括者である皇妃アベンスターの居住区があるデネブ星系のスターベースに次いで大きく、また公機関やスターシップの修理や商業施設など各施設も十分に整ったところなのである。
ニーナはここで正式なパイロットライセンスと通関手続き申請書をもらい、そして彼女の命綱、今後の生活を支えてくれるスターシップ、ジョリー・ロジャー号のスペックアップと商取引ができそうな品物の購入を予定していた。
…全てはここから始まる…
そんな感慨を感じつつ、フロントスクリーンをニーナはしばし見つめていた。
ドッキング開始!
「さてと、いつまでも見ているだけじゃ、何も始まらないよね。それに、スターベースが見える領域だとしても、敵船が出ないとも限らない。早いところ、安心安全なスターベースにドッキングしなくっちゃ……」
と、独り言を言いつつ、なかなか操作に移らないのは、ひとりでドッキングの操作をするのが始めただからである。
過去数回、パイロット見習いとしてプリンセス・ブルー号の二等航海士、ジャンから手ほどきは受けたが、最終的にドッキングしたのはジャンだったからである。
最後の最後が、どうも危なっかしい。
勿論、本式でなく、シミュレーションでの練習もできるのだが、最後のツメに、いつも失敗して、ステーションから離れた空間にはじき返されてしまうのである。
しかも、はじき返されたということは、スターベースの保護シールドにぶつかったことを意味するから、船体もタダではすんでいない。
そう、どこからともなく飛来してきた小隕石など、ぶつかった衝撃で木っ端みじんになってしまうというスターベースを守っている強固なシールドである。
いや、船体も”アーマー”と称される保護シールドで守られているから、そのアーマー値が下がるだけなのだが、戦闘後でそのアーマー値が下がっていると直接船体への打撃もありうる。
どちらにしろ、シールド対シールドでぶつかるのだから、衝撃はかなりある。
「…ともかく、ドッキングできるまでやってみるしかないよね?」
ごくり、とつばを飲み込むと、ニーナは操縦パネルの上に手を乗せる。
「よーーーし、行っくよーーーーー!!」
すでに肉眼で確認できるスターベース。それに向かってともかく直進していくジョリー・ロジャー号。操作はニーナ・シャピロ、新米パイロット。
「ベースまで、あと…800…800…300……」
目指すは、自動ポートインエリアへのドッキング。それにさえドッキングできれば、あとのポートへの格納は、スターベースのシステムが引きうけてくれる。
「…150……」
やった!ドッキング成功・・・・するかと思ったその瞬間、スルリとスターベースの横を通り過ぎてしまうジョリー・ロジャー号。
それもそのはず、自由な宇宙空間に浮かんでいるスターベースは、上下左右も何もない。一応星系内で漂うエリアは、システムによって定められてはいるが、固定されてはいない。
それは、自由に空間を漂う風船を捕まえようと言うようなもの。
ドッキング時のスピードと角度が問題なのだが、こちらではその角度を維持して近づいていっても、スターベースの方がふわりと避けてくれてしまうこともあるのだ。
「え~~~・・・そんなぁ・・・なんで避けるのよぉ?」
ズッガアアアアアンッ!
のんきに文句を言っていれば、避けられたおかげで、ステーションのシールドにぶつかった衝撃音と振動がジョリー・ロジャー号を遅く。
「きゃあっ!行けない!やっちゃった!」
衝撃とともにはじかれ、ジョリー・ロジャー号は、またしてもスターベースから遠く離れてしまった。
「しかも…今の衝撃でアーマー下がってるし・・・・」
操縦パネル横のアーマーを示すゲージを見て、ニーナは青くなる。
繰り返しぶつかっていれば、アーマーは確実に下がる。そして、下がりきれば船体は、直に衝撃を受けることになり、その結果………
「ぼくのスターパイロット人生、始まったばかり…ううん、まだ始まる手前なのに、人生終わりだなんて、ごめんだよ!」
決意あらたに、フロントスクリーンに小さく写るスターベースをにらむ。
「よーーし、今度こそぉ!!」
ズッガァァァンッ!
ガン・ゴン・ガン!
ビービービーッ!
満身創痍でヒアスラ・スターベースにポートイン
何度試みたあとだったのだろうか。
それは、アーマーが0になる直前まで試みられた。
そう、失敗しようが、なんだろうが、ともかくドッキングするしかニーナの生きる道は、未来はないからである。
やるしかない!
その思いが、彼女にムリなドッキングを試み続けさせた。
「やったああああ!!」
【貴船のドッキングを認証しました】
衝撃なく、無事スターベースの誘導システムにロックオンされ、その無線が入った時の気持ちといったら、どう表現したらいいかわからないくらい、ニーナにとって天にも昇る安堵と嬉しさだった…らしい。
そして、積み荷もなにもない為、税関などのチェックを受ける必要もないニーナは、すんなりスターベースへの投降許可も下りた。
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「ふう…なんだか、どっと疲れた。ひとまず、アーマー修理は必要だよね。それと…ライセンスをもらいに行く前に、どこかで飲み物でも。」
極度の緊張が続いたせいで、のどがからからだった。
ポートでジョリー・ロジャー号のアーマー修理と一応船体の点検の依頼をすると、ニーナはステーションの居住区へと向かった。
「確か、ヒアスラスターベースには、居酒屋があったよね。”トゥエルブ・スラスター”という名前だったっけ?」
広大なスターベースに飲食店が1つということはないが、ニーナは、プリンセス・ブルー号の仲間から聞いたことのある居酒屋に行ってみることにした。
スターベース中央案内所で聞けば他の店も教えてくれるのだろうが、そこが一番安くて味も悪くない、かつ、情報のルツボだと言う事を、かつての仲間から聞いていたからでもあった。
「えーっと、確かこっちの方角?」
リスト型ガイドブック(手首に装着できる小型スマホのようなものだと思っておいてください)に映し出されるマップと通路を見比べながら、ニーナはステーション内を、バーに向かって歩いていった。