SFスペースファンタジー「星々の輝き」23・バスルチの悲劇

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アークチュラス星系。
帝国の威光の輝けるシンボル、ISS・コス。
軍人は苦手意識があるが、船を修理する為には立ち寄らなければならない。
このまま次のワームホールに突き進む腕もないし、船の状態も良くない。

ニーナはグリフォン星系からのマリーゲートを出ると、真っ直ぐコスへと向かう。

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SFスペースファンタジー「星々の輝き」23・バスルチの悲劇

「無事着いた事は、着いたんだけど・・・。」

ニーナは、小惑星との衝突で受けてしまったダメージと、ワームホールでのダメージを修理すべく、まず、コスへ向かうことにした。

役に立たなかった航海日誌

アークチュラス星系に常駐している帝国の威光の輝けるシンボル、ISS・コス。
先の連星間戦争でその名を馳せたコス提督の名前を持つ航空母艦である。

勿論自動操縦の間、スキャンすることも忘れてはいない。

スキャンしながら、ニーナはカロノスとグリフォンのマップに書かれていたメッセージを読み返していた。

「カロノス星系の船が遭難していた座標に隠されてたメッセージが、やっぱり最後なのよねぇ・・途中で切れてるし。この後、一体何があったのかなあ?」

2月23日

苦痛が激しすぎて思考することもできない。
公妃に警告しておかなければ・・・・・

「うーーん・・・公妃様の部下か何かかな?」

12月13日

我々の作り話は上手くいった。
彼らは、こちらが分裂したと信じている。

「こっちの方が日付が古いのよね・・。我々って誰だろう?」

-ピピピ!-

メッセージがあることを知らせるビープ音が鳴った。

「とと、いけない、見過ごすところだった!ええーと、何々?」

12月17日

戻ったら、ハウスキーパーに家賃を払うのを忘れないようにすること

「何よー、これはぁ!!グリフォンのより後だけど、意味ないじゃない、こんなの!」

結局、マップの隅から隅まで探して得られたのは、このメッセージだけだった。

「期待して損したあ!」

ニーナは、膨れっ面をすると、ドスンと勢いよく背にもたれるようにシートを倒し、仮眠すべく目を閉じた。

航空母艦、ISSコス

航空母艦、ISSコスに着く。

その広さと他を威圧する雰囲気には圧倒されたが、やるべきことはやらないと宇宙では生きていけない。ひとまず彼女は一番最初に船の修理を依頼した。

そして、船の修理が終わるまで、コスの中で見学可能な所をガイドロボットに付いて回る。
期待した情報収集が航海日誌から得られなかった代わりに、何か小さな事でもないかと思ったのだが、いくら彼女が話しかけても、兵士達は何も話さす、全く情報は得られなかった。

「全く・・一民間人だと思って馬鹿にして無視してるんだからぁ!」

 

拓殖基地・マイコン2の狂人とバスルチ事件

そして、ニーナは、マイコン2へとやってきた。

ここで、彼女は、気の狂った男に会った。
目も片方が悪いらしく、白く濁っている。

「へへへ・・明日シギュアの太陽が新星になる。みんな死ぬんだ。へへへへへ・・・」

「触らぬ神にたたりなし…よね?」

話しかける前は普通の人に見えたのに、話しかけた途端、うすら笑いをして同じ事を口にするばかりで、まともな話は全くできない。

それと『ケール』と言う名の賞金稼ぎとも会った。

ニーナはもしかして、ヒアスラのバーの主人の息子を知っているのでは、と思い聞いてみたのだが、全然知らないようだった。

そこのバーの主人から、バスルチの事件のことを聞く。

小惑星バスルチのステーション内には、ファーアーム、いや、帝国内屈指の遺伝子工学研究室がある。

そこでの実験中に、何らかの突然変異で凶暴極まりない怪獣が生まれてしまい、それが暴れ回り、当時そこにいた人々は、全員殺されてしまい、今もって封鎖されているというのだ。

確か、1人だけ坑夫が生き残っているとコンベック・イーストの酔っぱらいからニーナは聞いたことを思い出していた。

あの時は、酔っぱらいの言うことだから、そんなに真剣に聞いてなかった彼女だったが。

「そうそう、俺も聞いたぜ、何でも酷い有り様だっていうじゃないか。」

ニーナがバーの主人と話していると、賞金稼ぎのケールが話に参加してきた。

「凶暴なんてもんじゃない、動きはすばやいし、どこかに隠れていては急に襲ってくるっていうじゃないか。
とんだ化けもんを創っちまったもんだよな。
そのグロテスクないでたちは、見ただけで身体が凍っちまって、動けなくなるんだってよ。
襲われた奴は、酷いもんで、喰いちぎられ、引き裂かれ、跡形ないんだそうだ。
まるで、ホラー映画だぜ。」

「ケールは行ったことがあるの?」

「いくら俺様でも怪物退治には行かねーよ。命が欲しいしな。」

「そういえば、コンベックの酔っぱらい・・何て言ったっけ・・・名前、思い出せないけど、とにかく、その人が、そのただ1人の生存者とは知り合いだって言ってた。
確かゼッド星系にいるらしいんだって。
でも『バスルチ』って言っただけで、ブルブル震えてきちがいの様になるって言ってたから、まともな話はできないんじゃないかな?」

「ま、それだけ、恐ろしい目に会った。
多分生き地獄だったんじゃないでしょうかね。だいたい生きて脱出できたってこと事態、奇蹟だって言われてますよ。お代わりは?」

話にばかり夢中になっていて、グラスが空になっても次の注文をしない私たちにしびれをきらせたのか、バーの主人が口を挟んだ。

「命辛々、なんとか脱出できたってとこだもんね。」

ニーナとケールがグラスを差し出すと、主人はご機嫌よくお代わりを注ぐ。

「そういえば、このステーションにも1人いるよね、何かおかしい人が。
あの人は、そうじゃないの?」

ニーナに聞かれ主人は苦笑しながら答えた。

「ああ、彼は、いつごろだったか・・・いつのまにか住み着いたんですがね。
バスルチとは関係ないようですよ。
それにあれは、もう、完全に狂ってますよ。
『NSB』を飲ませても駄目かもしれませんね。」

主人は、不潔なものに触りたくないとでも言うように言った。

「『NSB』って?」

「『NSB』ってのは、そのバスルチの科学者が発明した、狂人を一時的に正気に戻す薬で、えらく高い特効薬なんだ。」

ケールが自慢げに話し始める。

「なかなか手に入らねーもんだから、研究所に残ってるらしいからってわざわざ取りに行くやつもいたくらいだ。
手に入りゃ大儲けだからな。」

「しかし、命を落としてしまったら、儲けも何もないですよ。」

「おっほ♪するどいね、おやじさん。
行って帰ってきたやつはいねぇからな。
っつーか、行くやつの気がしれねぇぜ。
地獄なんだぜ、あそこはよ?
命がいくつあったって足りやしねぇ。」

一気にグラスを空けると、くわばらくわばらとでも言うようにケールが言う。

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「まさか化け物に占拠されるなんて思ってもないですからね、NSBの作成方法を書いたディスクも、でき上がっている現物も、研究所にあるままだとか聞いてますよ。
この前立ち寄ったお客さんがこぼしてました。
何でも、代金を払い込んで、あとは、取りに行くだけだったとかで。
船の事故ならまだしも、そんな風なので、保険会社も保険金の支払いを渋っているらしいんです。
全財産をそれにつぎ込んだんだそうですよ。」

主人は、ケールのグラスにワインを注ぎながら言葉を足す。

「そいつは、痛ぇ話だな。気の毒によ。」

「取りに行ってくれた人には、『NSB』を分けてやるとか言ってましたが、そんな命知らず、ファーアーム広しと言えどもいないでしょうねぇ・・・。」

「いるかよ、そんな奴。
普通の怪獣じゃないんだぜ。
俺だって海賊やマンチーならいくらでも相手になってやるが・・命有っての物種だ、御免こうむるね。」

「そう…なんだ。」

「いいか、坊主。いくら金を積まれたって間違ってもNSBを取りに行く仕事なんざ引き受けるんじゃないぞ。
第一、いつ闇から飛び出てくる化けモンに引き裂かれるか分からねぇなんていう恐怖もそうだが、命がいくつあったって足りやしねぇんだからな?」

「あ、うん、もちろん、そんな危険な仕事なんて受けないよ。」

話で聞いただけでも身ぶるい、いや、多少事件の内容を知っていて話す方も身ぶるいするほどの事件だ。
そんなところに好き好んで行こうなんて思うわけがない。

「ごちそうさま。お先。」

主人とケールの話はまだまだ続きそうだ。
話もお酒ももう十分だと、ニーナは席を立つ。

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「毎度どうも。またお寄り下さい。」
代金を受け取ると主人はにこやかに彼女に言った。

「ああ、またな。いいか、もう一度言うが、間違ってもNSBを取ってきてあのきちがいを治してやろうなんて、仏心を起こすんじゃねーぞ。
坊主は、人が良すぎるみたいだが、あそこだけは止せよ。
殺されに、いや、エサになりに行くようなもんだ。
お人好しも度がすぎると痛い目以上の目にあうぜ。」

ケールは振り向きもせず、呑み続けながら、手だけ振ると言った。

「うん、ありがとう。分かってるよ、命あってのモノダネだもんね。」

「おう!」

(それに、今は、それよりやらなくちゃならないことがあるから)

そう思いながら、ニーナはバーを出ると鉱石を仕入れ、次は、デネブ星系に繋がるマリーゲートへ向かった。

そう、カロノス星系とデネブ星系を繋いでいるワームホールより、アークチュラス星系と繋がっているワームホールの方が短いのだ。

(と言いつ、2つワームホールを通過するよりも、1つのワームホールの方が結局近道じゃないか?という意見もあるのだが、にーナにとっては、1つが長すぎて集中力が続くかどうかの問題の方が大きいのである。
急がば回れの精神で。…単にまだ操作が未熟だという事実もあるが。)

 

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