「ははははは、ぼうず、やつに見切られたな。」
そこはヒアスラスターベース内のバー「トゥエルブ・スラスター」。
ニーナがあやしげなバーキリの情報屋に声をかけられたところから、袖にされたところまできっと興味深げに見ていたのだろうバーの主人が、カウンター越しで笑っていた。
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情報屋くらい手玉に取ってやるくらいでないと
「ファーアームじゃやっていけないぞ?」
バーの主人は、ちょっと太り気味の気のよさそうな中年の男だ。カウンターの向こうで、向きかけだったジャガイモの皮をむき始めながら、まだ笑っている。
「だ……」
(だって仕方ないでしょ、ないものはないんだからと言うところだったニーナは、良いわけは余計バカにされるだけだとその先を飲みこむ。
「よく来るんですか、あの人?」
カウンターのイスに腰をおろしながら主人に聞いてみる。
「そうだな、ちょくちょく来るよ。なんといってもヒアスラはカロノス星系一の基地だからな。それなりの情報も入りゃ、お客さんも多いからな。
ところで喉が乾いてるようじゃないかね、何か呑むかい?俺のとこはアーム帝国一のビールが置いてあるんだよ。」
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「ビ、ビールですか、あのぉ・・アルコールじゃないのはないんですか?ミルクとかジュースとか、それともコーヒーとか紅茶、なんてあるわけない・・ですよね?・・あはははは。」
ニーナの声はだんだん消えそうな声になっていった。
「おいおい、ぼうず、このファーアームじゃぁ、酒くらい呑めなきゃやってけないぞ!見たとこまだ若いようだが、いけるんだろ?」
「呑めないってことはないんですが・・・。」
喉を潤すには、アルコールより普通の飲み物の方がいいのだが、そうも言えない雰囲気のようだ。
「よし!それでこそファーアームの星々を渡り歩くスターパイロットってもんだ!グリーンヘッドとブラッブライト、それにリゲリアンがお薦めだが。どれにする?」
ニーナがビールを飲むものと決めてかかった主人は、おススメを彼女の目の前に差し出す。
「じ、じゃぁ、グリーンヘッドっていうのを。」
「よっ、なかなか目が利くじゃないか、ほらよ。」
コポコポコポコポと気持ちのいい音をさせながらグラス注いだ。
「さぁ、ぐいっといきな。大丈夫!。これは軽い方なんだから。喉がすっきりするよ。」
言われるまま彼女はグラスを持つと、乾いていたせいもあったのだろう、ニーナは一気に飲み干してしまった。
「ふーーーっ・・」
確かに口当たりもよく、喉の通りもとてもよかった。
「なんだ、なんだ、いける口じゃぁないか。もう一杯どうだ?その呑みっぷりに惚れたねぇ。気に入ったぜ、こいつは俺のおごりだ。」
返事を待たず主人はなみ々とグラスに注いだ。
「さぁ、ぐ、ぐっといきな。」
彼女は一瞬ためらったものの、笑顔の主人に断れない雰囲気。
「ごちそうさまです。」
そしてまたしても一気に飲み干す。
「ん~~~、おいしいね、これ。ぼく、気に入っちゃった。」
「そうだろ、そうだろ?」
そんなニーナの飲みっぷりに、主人も嬉しそうに満面の笑顔。
「どうだ、もういっぱい、いくか?」
酒くらい軽~く呑めなきゃな?
主人にそう言われ、引くに引かれず、進められるほどに飲んでいく。
3杯、4杯・・彼女は次第に舌が回らなくなってきた。
「おっかわりぃーーー・・」
「おいおい、ぼうず、そろそろそのへんにしておいた方が・・?」
酔いがまわってきたニーナを心配して主人が止めた。
このままではどのくらい呑むか検討がつかないようにも思えたからだ。おごると言ったからには、いくら飲んでくれても売上には繋がらない。
それにそろそろ閉店の時間でもある。他の客はもう誰もいなくなっている。
「なんだってえ?呑めって言ったのはそっちの方だろぉ?・・注いでよったら、注いでよぉ・・ヒック!だっておいしいんだもん………」
ついに、ジョッキを主人に差し出しながら、ニーナはコトンとカウンターに突っ伏した。
「…むにゃむにゃ……おか…わり……ムニャ…」
「参ったなぁ、酔いつぶれちゃったよ。」
主人は少し後悔しながら、そんなニーナを見てため息をつく。
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「おい、ぼうず、もう閉店なんだがな?ぼうず?寝るなら帰って寝ろ?」
ゆっさゆっさといくら揺すっても起きようともしない。
「しゃーないな」
大きくため息をつくと、仕方なく主人はニーナを起こすことを諦め、奥から毛布をもってきて彼女にかけてやる。
「ま、寒くはないから風邪を引くようなこともあるまい?」
苦笑いをすると、出入口のドアをロックし、店の奥にある自室へと入って行く。
-バチン-
電気も消されたバーのカウンターで、ニーナは一人夢を見続けていた。
何やら楽しく、浮かれた気分の夢を。
「よ~~し!マンチー艇なんて、けちらせ~~~!!…ひぃっく!ZZZZZzzzz………」