数日前、貿易船プリンセス・ブルー号のみんなに囲まれて17歳を祝ってもらったばかりの少女、ニーナ・シャピロ。
彼女は、一人乗り込んだ小型艇のコクピットでじっとメインスクリーンに映る宇宙空間を見つめていた。
いや、正確には、彼女の目は何も捕らえていない。今目の前で起きたことが信じられず、その思考は停止し、心は空虚に満たされていた。
一瞬にしてマンチー艦に囲まれ、その集中したエネルギー波により消え去った彼女の母船、プリンセス・ブルー号。漂流艇であるこの船に調査のため乗り移った時の二等航海士ジャンからの最後の交信が彼女の頭の中を駆け回っていた。
「Good luck!! 片づいたら一杯やろうぜ。」
それは、ニーナが無事船内の調査を終え、プリンセス・ブルー号の貨物庫エリアにある発着場へ小型艇を収納し終えたらという意味。
つい今し方までつながっていて声が聞こえていたのに、もはや、オープンになったままの無線機からは何も言って来ない。
そう、それだけではない。ニーナには、もう帰るべき船はどこにもない。そして見習いとして乗船してからずっとかわいがってくれていたクルー達も。
「頑張れよ、ぼうず!」
どじを踏んで落ち込んでいるといつもそう言って誰かが励ましてくれた。
ほんの数分前は確かにいっしょにいたのだ。漂流艇の調査などすぐ終わるはずだった。すぐまたみんなの元に戻れる予定だった。
そのほんの数分の別れが、まさか一生の別れになるとは、誰が予想しただろう。
「頑張れい!ぼうず!」
ふと、後ろからそう言われたような気がして彼女は振り返る。
だが、そこにはいつものように「ぼうずじゃないって言ってるでしょっ!」と言い返す相手はいなかった。
とはいえ、どうやらその空耳のおかげで放心状態からは抜け出たらしい。
改めて船内を見渡す。
と同時に、彼女は今起きたことの整理をし始めた。
異種族ではあるが、マンチーは何故ただの貨物船であるプリンセス・ブルー号などを襲ったのか?交戦的な彼らのこと、何故と言う方がおかしい。だが、あれだけ大群で襲ってくるということは今まで聞いたこともない。
それにこの漂流挺。武器庫は空っぽというものの他はどこも故障などなくスターシップとしてりっぱに使えるのに、それを放棄してクルー達はどこへ行ったのか?
一体何が起きたのか?
現状では何一つ想像できえぬ事ばかり。
彼女に分かっていること・・・
それは、ひとりぼっちだということ、ひとりでなんとかして生きていかなくてはならない。
そのことと、
『所有者不明の漂流艇は、発見者のものとなるというサルベージ法の適用により、この船の所有を自分が認められる』ということ。
この2点だけだった。
「とにかく船内をもっと詳しく調べよう。」
幸い、十隻以上いたマンチー艇は、プリンセル・ブルー号を壊滅させると、瞬時にして消え去った。次は、自分の番?と身構えていたニーナは、肩すかしをくらった結果にはなったが、ともかく、運が良かった。
彼らは、ニーナが乗船している小型艇など見向きもせず飛び去ったのだから。
のろのろと、ニーナは重い足取りで船内を調べ始めた。