SFファンタジー・SpaceRogue星々の輝き7・海賊崩れのフリッチ

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「おい、ぼうず、朝飯でもどうだ?」

翌朝、まだ寝ているニーナにバーの主人が声をかけた。

「えっ・・?」
彼女はまだ眠い目をこすりながら、カウンターにふせていた顔を上げる。

「あ・・あの、私・・ああ、そうか、昨日あのままここで寝てしまったんだ。痛っっ!」
頭が割れそうなほどの痛みが走った。どうやら二日酔いになってしまったらしい。

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二日酔いにはトマトジュースが効く?

「大丈夫か、ぼうず?」主人が心配そうに顔を覗いた。

「大丈夫です、すみません。思いっきり迷惑わけちゃったみたいで。痛っ!」
ニーナは頭の痛みを堪えながら答えた。

「はははっ、まあ、いいってことよ。俺もついついすすめちまったからな。
ところで、朝飯、食べるんだろ?」

主人は自分のと同じ朝食をカウンターに出した。

「遠慮はいらないよ、若いうちは腹一杯食わなくちゃな。」

「すみません。・・でも・・・」
頭がガンガンするニーナは、食欲がわかなかった。

「おいおい、俺の好意が受けれないってんのかい?」

「そ、そうじゃないんですけど・・・。」
彼女は主人の気迫に押されてしまった。

「まぁ、その様子じゃ、食べれないかもな。じゃ、どうだい、迎え酒といこう!」
主人はカウンターにグラスを置くとワインを注ぎ、ニーナに差し出した。

「うっ・・・」
その臭いだけでニーナは、吐きそうになってしまった。
もう当分アルコールはいらないと彼女は思った。

「無理みたいだな・・・じゃ、これでも飲みな。」
ワインを下げると別のグラスにトマトジュースを注いでニーナによこした。

「すみません・・・。」

何も口にしたくない気分だったが、主人の好意をこれ以上無視するわけにもいかず、ニーナは一口飲んでみた。
冷たいトマトジュースは口当たりがよく、喉がすっきりしていくのが分かった。

「ごちそうさま、おいしかった。」
彼女はグラスを空にすると主人に差し出した。

「お代わりはどうだね?」

「いえ、もう結構です。」

「そうかね、落ち着いたんならこっちはどうだ?そう大したもんじゃないがな。」

ロールパンとハムエッグと野菜サラダ。

「食べられるだけでいいから食べておくといいよ。」

「すみません、じゃ、いただきます。」
まだ頭はガンガンする。
あまり食欲はわかなかったが、ニーナは少しずつ食べ始める。

情報屋は海賊業がおすすめ?

「おやじ、俺にも朝飯くれよ。」
1人の男が、ニーナの横のイスにひょいと座った。

小柄なその男はアイパッチをしており、まるで、子供向けのビデオに出てくる海賊の下っ端そのものといった風体だ。彼はニーナの方を向くと話し出した。

「俺、フリッチってんだ。お前、新顔だな、名前何てんだ?」

「ニーナ。」

「ふーん、女みたいな名前だな。まっ、そんなこたぁ、どうでもいいけどよ、何でも話にのるぜ。
仕事でも、情報でも。このフリッチ様にまかしときゃー、間違いねーよ、但し、お代はたんまりいただくぜ。」

ニーナは暫く考えた。
仕事はほしい、でも、この格好からいくとまともじゃないみたいだ。
やばい仕事くらいしかないかもしれない。

「いくら?」
とにかく聞くだけ聞いてみようと決心する。

「そうだな・・・25クレジットでお望みの物をやろう。」
朝食をがつがつ食べながらフリッチは言った。

25クレジット・・今の彼女にとって例え1クレジットでも無駄遣いはできない、が、仕事も何もない彼女は、藁をも掴む気持ちで金を差し出した。

「はい、25クレジット。」

「よっしゃー!そう来なくっちゃ!で、何が欲しいんだ?言ってみな。」

彼女はまず、船について聞いてみた。
勿論、彼女が今乗っている『ジョリー・ロジャー号』のことや、マンチーが貨物船を襲う事なんてあるのか、という事が聞きたかったのだが、イチキと同じようにそれについては全く知らなかった。

「船についてはだなぁ・・・まず、帝国艦隊の『タイタン』、あれには逆らうな、あの船はでっけいし、徹底的に装備されている。まっ、手を出すなら、商船の『スコウ』か『タンカー』がいいぜ。


タンカーの方が、金目の品を積んでやがるが、防衛力が結構あるからな。
その点、スコウは正面にシールドをつけてないから格好の獲物ってわけだ。
マンチーの『ワスプ』は早いだけだ、シールドもついてねぇし、けど、『バルチャー』はなかなか手強いぜ。大型だし、しっかり前後にシールドもついてる。
どっちにしろ、マンチーの攻撃艇は絶対に退却しねーからな。
気を引き締めてかかんねーと、痛い目に会うぜ。
で、他にはねーのか?あんちゃん?」

「海賊船はどんな感じ?」
私は海賊じゃないんだぞ!と思いながら聞く。

「もう25クレジットよこしな。」

「待って、どうせ払うなら・・何か仕事ない?」

ニーナは、海賊のことよりも、まず仕事の方が、と思って聞いてみた。
海賊の事なら他の人に聞いてもでもいいだろうと思ったからだ。

「仕事ね・・・そうだ!あんちゃんにうってつけの仕事があるぜ。
俺のダチで、チーシャってのがいるんだけどよ、そいつが、小型艇を操る奴をずうっと探してるんだ。彼女ならおめえにたんまり、はずむだろうよ。」

フリッチはストラップのついたIDスクランブラー・チップをニーナの目の前でぶらぶらと揺らす。

「こいつを彼女に渡すんだぜ。それからの交渉はあんた次第だ。」

「そのチーシャさんってどこにいるの?」
ニーナはゆらゆら揺れているIDチップを見つめながら聞く。

フリッチは何も答えず、黙って手を差し出した。

「な、何よ、また取るの?だってチーシャさんの居所が分からないと行けないでしょ?同じ用件じゃない。」

「ファーアームは広いんだぜ、あんちゃん?!」

さっさとよこしな、と言うようにフリッチは、手を差し出している。

「・・・あっ!」

フリッチは、ニーナが渋々出して覗いていた財布をひったくると、中から25クレジット出し、財布をぽんとニーナに返す。

「毎度ありぃ!チーシャなら『フリーギルド拓殖基地』にいるぜ。多分な。」

「フリーギルドのって・・・海賊の本拠地じゃ?」

またしてもお金をよこせというように、手を差し出すフリッチをにらんで、ニーナは財布をぎゅっと握る。

「しゃあねーな。ま、がんばんな、あんちゃん。そこに行くまでにやられんようにな。他に何かあったらまた俺様にいいなよ。」

フリッチは、アイパッチを持ち上げ、どこも悪くない目を見せてウインクした。

彼は、これ以上ニーナからお金を取れないと判断したらしく、朝食代をカウンターに置くとさっさと出ていった。

「ふう・・・」
ニーナはフリッチからもらったIDチップを財布にしまうと、席を立った。
「親父さん、いくら?」

「いいよ、俺のおごりだ。」
バーの主人は笑って答えた。

「でも・・・」

「いいってことよ。実は、俺にも息子がいてな、ちょうどぼうずくらいの頃、ハンターになって名を上げるんだ、とか言って出てっちまいやがったが・・・。」

「親父さん・・・」

ニーナは寂しそうに笑うバーの主人に言う言葉がなかった。

「ははは、そのうちひょこっと帰ってくるだろうよ。
そうそう、あんた、スターパイロットのライセンスをもらいに行くって言ってただろ?
役所のオフィスは、そっちのドアから出て、真っ直ぐ行った突き当たりだ。
船の修理は金さえ出せば、やってくれるが、武器や商品なんかは、そいつがないと売ってくれないからな。早くもらった方がいいよ。」

「はい、すみません。アーマーの修理代もかかるし、商品も仕入れないといけないので助かります。じゃ、ちょっと行ってきます。ごちそうさまでした。」

あまり好意に甘えても、とも思ったニーナだったが、ここで断わるのも悪いと思い、そうさせてもらうことにした。

(今回だけは甘えさせてもらって、次からはきちんと払おう、そうだ!儲けたら親父さんに何か買って来よう。)

 

>>>SFファンタジー・SpaceRogue星々の輝き8につづく

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