SFスペースファンタジー「星々の輝き」45・バスルチの勇者

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救世の勇者よろしく、ファーアームの未来が自分の肩にずっしりとのっかっかってきた。その重圧にともすると逃げだしたくもなるが、逃げる気にはならない。

複雑な想いをひきずってニーナは公妃居住区から酒場へとやってきた。

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SFスペースファンタジー「星々の輝き」45・バスルチの勇者

意気消沈

「おや、ニーナ、いらっしゃい。
どうしたんだ?いやに沈んでいるじゃないか。」

ヒアスラのバー、トゥエルブ・スラスタ-の主人は、いつもなら元気一杯で入ってくるニーナが今日はばかに沈んでいるので、心配して聞いた。

「うん・・。」

ニーナはカウンターに座りながら答えた。
主人が指摘したようにその声には、いつもの彼女らしい元気が全くなかった。

「どうしたっていうんだい?
この前というか、いつもの元気はどこ行ってしまったんだ?」

「うん・・・。」
彼女は相変わらず気の無い返事をしていた。

「ビールでいいだろ?」
主人は彼女の返事を待たず、ビール注いだ。

-ごくっごくっごくっ・・-
黙ってそれを一気に飲み干すニーナ。

「おいおい、本当にどうしたんだ?」

「う・・ん・・・・」
彼女は辺りを見渡すと言った。

「後で話す。今はお客さんが多すぎるから。」

主人は彼女の態度から何かを悟ったのか、それ以上聞かなかった。

ニーナもまた黙って飲んでいた。

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陽気な海賊崩れのフリッチ

「よ!ニーナ、元気でやってっか?」

彼女の横に座りながら声をかけたのはフリッチだった。
相変わらず海賊でもないのに海賊風の格好をしている。
彼は、アイパッチを取るとカウンタ-の上においた。

別に目が悪いわけではないのだが、彼は好んでこの格好 をしていた。
彼の言い分によると『この方がいかにも海賊の親分という感じ」が出ていいのだそうだ。

「ああ、フリッチ、ん、まあまあね。」

「あれ?いつものニーナらしくないぜ・・。」
フリッチは勢い良くニ-ナの背中を叩いた。

「元気を出せって!!」

「痛いなあもう!」
ニ-ナは、わざと怒った顔をした。

「ホント、どっかおかしいぜ、今日のニーナはよ!何かあったのか?
このフリッチ様に 相談してみなって!
俺にできることなら一肌脱ぐぜ!」

フリッチはニーナの顔を覗き込むようにして言った。

「できることなら・・・ね。」
ニ-ナは大きくため息をついた。

できるわけないのである、今ニ-ナが直面している事は!
というより出来るかもしれないが、気軽に頼めることではないのである。

海賊情報

ふと彼が海賊ではないにしろ、海賊の事についても詳 しいという事を彼女は思い出した。

「ねぇ、フリッチ、ガットに会うにはどうすればいい?」

「へ?ガ、ガットだってえ?」

フリッチは飲みかけのビールを吹き出して驚く。

「奴はスカーレット・ブラザーフッドの代表なんだぜ。
言わば、 海賊の大親分だ?
何だって奴となんか会いたいんだ?」

「何だってって言われると・・・・」

お気楽人間のフリッチにコスの息がかかっているとは到底思えないが、それでも事実を話すのはためらわれる。

「ま、まさかニ-ナ・・・。儲からないからって、海賊になるってんじゃないだろな?
止めときなって、堅気が一番だぜ?地道に商売すりゃー、なんとかなるってもんなんだぜ。」

「おいおい、ニーナが海賊に?」
バーの主人も驚いて、グラスを拭く手を止めて大声でニーナを見つめる。

「そういう訳じゃなくて、どうしても会う必要が出来たんだ。
別に、海賊になるわけじゃないし、なる気もないよ・・。」

「じゃー、なんでガットになんか?
下手すりゃ、身ぐるみはがれて簀巻きにされて宇宙空間へぽい!だぜ、ぽいっ!」

ぺっぺっと手で捨てるジェスチャーをするフリッチ。

「海賊なんて奴ぁ、気まぐれだからよ、そのときの気分でどうとでもされちまうぜ?」

「でも、会わなくちゃいけないんだ。
フリッチ、教えてよ、お願いだから!」

ニーナはやけっぱちとも言える表情でフリッチを見る。

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「そ、そりゃー、頂くもんさえ頂きゃ、教えねぇってこたぁねーけどよ。」

ニーナの勢いに押されるフリッチ。

「じゃあ、はい、情報料、25クレジットでよかったんだよね。」

「あ、ああ。」

毎度ありぃの声も小さく、フリッチはポケットにニーナが手渡した25クレジットをねじ込む。

「ニ-ナに海賊は似合わねぇと思うんだが・・まっ、いっか。」
もらうものをもらって教えなかったら、いくら底辺の情報屋だとしても信用問題にかかわる。結局、彼はニーナに教えることにした。

「やっぱりフリー・ギルドにいるの?」

「ああ、そうだ。
だが、ガットの片腕、表向きは秘書って事だが、オマーってのが新入りのチェックをしてるんだ。
ったく、あんなごっつい秘書がいてたまるかってんだ。
まっ、誰しも奴等が海賊だってこたぁ知ってるけどな。
で、奴がOKしなけりゃ、ガットには会えねぇぜ。
それにな、ガットもそうだが、オマーってのもすごいんだぜ。
顔を見ただけでも普通の奴ならションベンちびっちまうくらいの威圧感と、魔法降臨っつーくらいの恐い顔してるんだ。
そんな奴らと、ニーナは話をする勇気があるのか?」

その脅迫とでもいうような言葉に、ニーナは思わずぞっとした。
出来たらそんな海賊の大親分クラスになど会いたくない。
そのときの気分次第で、ニーナのような少女(彼らは少年と思うかもしれないが)、鶏の首をひねるようなものである。

(やっぱり、海賊は海賊だよねー。)
が、ここで後込みするわけにもいかない。

「してやろうじゃないの!海賊がなによ!
バスルチ研究所の怪物と比べたら、かわいいモンよ!」

半分ひきつっているようにも見える表情で、ニーナは右の拳をぐっと握る。

「へ?バスルチ・・の?」

「ええ、そうよ!ちょっと前に行って来たよ!NSブースターを取りに!」

「はあ?NSブースター?マジかよ、ニーナ?
じゃ、お代たんまりはずんでもらったんじゃね?
今更海賊するこたーねーんじゃねーの?」

「ニーナ、あのバスルチへ行ったのか?」
バーの親父がビールを注ぐ手を止めて、目を見開いてニーナを見る。

ーざわざわざわ-

小声で言ったニーナに反して、フリッチとバーの親父の声は大きかった。
それだけバスルチに行って無事帰ってきたことが奇跡的なことなのだが、その声を聞き、店内は騒然とする。

「あいつが?まだガキだろ?」
「うそうそ、大ぼら吹いてやがるんだ、きっと。」
「そうだ、そうだ、そうに違いないぜ。」

ニーナにちらりと視線を飛ばしながら、店内の客という客は、勝手な憶測をしゃべっている。

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「あら、ニーナ、シシャザーンの対面調査の次は、バスルチの怪物と会ってきたの?」

声がした方を見ると、シシャザーンの調査をニーナに依頼した宇宙大学教授のフェルセーン博士が笑って近づいてきていた。

「やだなー、ボルフならまだしも、バスルチの怪物とは目を合わせたら最後、その瞬間にもう原型とどめてないよ!」

ボルフとは、ニーナがナーシー星系のバーで出会ったシシャザーン種である。

シシャザーンは、巨大爬虫類。つまり見た目が恐竜なので、あのときも確かに食べられるという恐怖に襲われたが、高度な教養を持つ知的生物であり、しかもボルフは哲学者だったため、意思通じができた。

博士に答えてから、バスルチで危機一髪で船に戻ったときのことを思い出したニーナは思わずぶるっと震える。

「あら、その震えと表情は・・・どうやらウソでは、なさそうね?」

ざわっと、再び店内がどよめく(小さく)。

「さすが心理学博士だけど、もしかしてまた何か論文用に必要な調査?
そうだとしても、バスルチへは二度と行く気はないよ!」

ふっと笑い、フェルセーンは頷く。

「ボルフと呼び捨てにするくらい仲良くなったシシャに、また会って来てほしいのよ。できたら彼の生活に密着して、ライフスタイルなども調査してきてほしいんだけど。」

「はあ~~・・・・」
ニーナは大きくため息をついた。

(何をのんきなことを…今はそれどころじゃないのに。
このファーアームが壊滅させられるかどうかなのに・・・)

しかし、それを口にするわけにもいかない。

「分かった。予定していることをした後でもいいのなら。」

「ありがとう、助かるわ。お礼はまたはずむから。」

ウィンクして立ち去る博士の姿がドアの向こうに消えると、ニーナはくるっとフリッチに向きを変える。

「今思いついたんだけど、フリッチ、
NSBを手土産に持っていったら、ガットの秘書っていうオマーは会ってくれると思う?」

NSBを手土産にというのは、今話していてふっとニーナの頭に浮かんだことだ。
ファーアームどころか帝国本国にも無い、NSBは、”狂人を瞬時にして正常に戻す画期的な新薬”である。
高値で売れる物を持って行けば、ひとまず会うくらいはあってくれるはずだとニーナは踏んだ。

「お、おう。…そ、そりゃー、会ってくれると思うぜ?
海賊の仲間にしてくれるかどうかまでは、分からねーけどな。
うまく話を持っていきゃー、ガットにだって会えると・・思う。
なんだ、依頼を受けて取りに行ったんじゃねーのか?」

「うん。必要に迫られて自発的行為。
っていうか、今思うと自発的行為というより自的行為って言った方が正しいかも?」
遠い目をしたままニーナは答えた。

「な、なんか深い事情がありそうだが・・
じ、じゃーな、ニーナ、俺はこの後約束があるんで、またな。」

なんとなくニーナの行く手にヤバそうな気配を感じたフリッチ。
それ以上長居をして「一緒に来て」と言われるといけないと思たのか、フリッチは慌てて去ってしまった。

「なんだか、やけにハクがついたじゃないか、ニーナ?」

「え?やだな、親父さんまで。あたしは今まで通りだって。」

「お代わり、いくかい?」

「うん!」

話している内に、ふさぎの虫もどこかへ行ったようである。

 

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