「うわああああ!!!!アーマーが!シールドがゼロになる~~~~!!!!じゃーないんだってば!」
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拓殖基地を目の前にして撃破…直前?
コクピットで一人叫ぶニーナ・シャピロ、17歳。天涯孤独な少女ニーナは、それでも、小さいながらもこのスターシップ、ジョリーー・ロジャー号の所有者、つまり船長であり、貿易商のいわば個人事業主なのである!
「じゃー、なくてぇ!まだ後ろには、保護シールドつけてないんだから!撃ってこないでよお!!背後から狙うなんて卑怯すぎて海賊らしすぎるんじゃないのっ?!」
焦っている彼女。めちゃくちゃな言い分である。
自分が拓殖基地へ逃げ込もうと敵に後ろ見せたというのが事実なのだから。
「うっきゃああああ!!!ミサイルなんてやめてぇえええ!!ぶつかちゃうでしょおー!!!」
もちろん、ジョリー・ロジャー号のお尻である。シールドがないからまともに船体にヒットするに間違いない。今現在まではなんとかヒットはのがれていたが、誘導ミサイルだったとしたら逃れようもない。
400…300…250…100……
容赦なくミサイルは近づいてくる。
230…80…50!!
と、同時に拓殖基地に近付いているのはジョリー・ロジャー号である。
「助けてーーマイコン1ー!!神様仏様女神さまーーーー!」
ズシン!ズガガン!ガガッ!
「きゃあああ・・・・・・」
背後に衝撃を受けたその瞬間、ニーナの意識は吹っ飛んだ。
コンベック・イースト社、マイコン1へようこそ
『コンベック・イースト社、マイコン1へようこそ……コンベック・イースト社…マイコン・・・・』
「う、うーーーん…」
意識がふっとんでからどのくらい経ったのだろう。気がつくと船は停止、無線機のインターコムからは、ジョリー・ロジャー号の停泊を歓迎する音声が繰り返し流れていた。
「た、助かったの?……だよねえ?…う……」
最後の最後、駆け込み寺よろしく、駆け込み拓殖基地は成功したようだが、船尾からの煙がコクピットまで届いていた。
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「ば、爆発は…しないよねえ?」
のろのろと立ち上がるとコクピット背後にあるドアの前に立つ。
-シュン!-
ドアが空いた通路には、やはり煙が薄く立ち込めていたが、爆発音はない。
「と、とにかく船から降りて、修理屋さん探さないと!」
火を吹いていいるわけでもないことを確認するとニーナは、入管事務所で手続きと、そこでついでに修理も頼んだ。
ニーナ・シャピロ、歓迎される?
「おおー!」
ぱちぱちぱちぱち!
「ぼうず、運がよかったな!」
「儲けさせてもらったぜ!」
「え?…な、なに、なに?」
ハラハラドキドキ、初めての戦闘後、もうだめかと覚悟した後だということもあり、のどもからから、ニーナはまたしても初めての宇宙ステーションで初めてのバーに来たのである。
ドアが開き、一歩中に入ると、なぜかやんややんやの喝さい。
とは、反対に、苦虫をかみつぶしたようにニーナをにらんでバーから出て行く者もいる。
「な、なにが?どうなったの?…ぼ、ぼくがなにかしたんだろうか?」
そんな事を考えつつカウンターへ歩み寄っていくと、その原因がわかった。
「あーーーーーーーー!」
思わず、ニーナに原因を教えてくれたモノと指さして声をあげる。
そこには、基地エリアの宇宙空間を映し出している大画面のスクリーンがあった。
「ひっど!みんな、酒の肴にして見てたんだ!もしかして、賭けてたりした?」
「はっはっは!まー、そう怒るなって!滅多にない愉快でハラハラドキドキチェイサーシーンを見せてもらって、みんな機嫌がいいんだ。」
カウンターの中にいるバーの親父が笑った。
「えー、だって…普通救助にくるんじゃないの?」
「ぼうず、その考えは感心しねえな?」
「え?」
トン!とニーナが腰を下ろしたカウンター席の横に移動すると同時にグラスをニーナの前に置く男がいた。
「ま、飲めや、あんちゃん。あんちゃんのおかげで儲けさせてもらったからよ?」
「え?」
-くっくっくっくっく……-
鳩が豆鉄砲をくらったような顔のニーナに笑いをこらえきれなかったらしい。
-がーっはっはっはっはっはっは!-
「そ、そんなに笑わなくても・・・・」
「ああ、すまん、すまん…いや、あんちゃん、まだスターシップに乗って日が浅いだろ?」
「あー……あ、うん、1年ほど見習いパイロットはやってたけど」
「そっか、そっか、じゃ、処女航海ってわけか?」
「まー、船はそうでもないみたいだけど、ぼくは、そうなる…かな?」
「だろ?だからな、あぶなっかしくてなぁ?ほぼ全員が撃破される方にかけててなあ?」
「…………」
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撃破される方に賭けたい気持ちは、ニーナ自身にもよーくわかった為、文句は言わない…言えないが、自分自身が情けなくて、無意識に口をとがらせる。
「ギリギリセーフの逃げ込みは圧巻だったぜ!いやー、見ていてハラハラしたわ。映画でもめったにないシーンだったぜ?良くがんばったな、あんちゃん!きっと大物になるぜ?」
「…………それは……どうも。」
”大物になる”と言われても素直に喜べないニーナ。
「まー、そうふくれっ面すんなって!ほら、飲め!今は休暇中だから普通のおやじの格好してるが、こう見えてもオレは帝国軍人でな、だから、独り占めしても誰も文句は言わねえ。」
「文句は言わないって、だって賭けに買ったんだから当たり前じゃない?」
「甘いな、あんちゃん。とことん甘いぜ。そ~~~んな甘い考えじゃあ、この荒くれ者が闊歩しえるファーアームじゃ商売していけねーぜ?」
「…そう…なの?」
「オレの腕っ節が弱けりゃ、賭けに買ったとしてもカツアゲにあってるさ?」
「………」
「ま、いいこともあるから、そう落ち込むなって!慣れりゃ、ファーアームも天国さ?」
ぽん!とニーナの頭を軽くこづいて男は自分のジョッキを持ってカウンターから離れていった。
美味しい話?
「良いやつもいりゃ、悪い奴もいる。それはファーアームだけじゃなく、どこへ行っても同じだろ?」
「うん…まー、それは、そうだけどね?」
それでも、不安がぬぐいきれないといった表情でバーの親父に答えるニーナ。
「そう気に病むな。あそこまで追い詰められても逃げ延びたんだ。きっとあんちゃんには幸運の女神がついているに違いないよ。」
「単なる偶然かもしれないけどね?」
「はははっ!そういうことは考えっこなし!物事良い方に考えりゃ、良い方に進むってもんだ。」
「そんなもの?」
「ああ、そんなものさ。ところであんちゃんは、ヒアスラから来たのか?」
「あ、うん、そうだよ。って、そうだ!ハイテクグッズ満載してきたんだけど、少しでも高く売るにはどうしたらいいか、おやじさんなら知ってるよね?」
「……なかなか心臓が強いじゃないか、坊主。」
「あ……ご、ごめ…そ、そうだよね、初対面で聞くのは失礼だった。」
「いや、気に入った!」
「え?」
「ハイテックグッズをより高く売る知恵はないが…」
「え?ないの?」
一瞬期待したニーナは肩透かしを食らってがっくり。
「小さな拓殖基地だからな、買い手も売り手もほぼ決まってるからな。」
「そう…ですか。」
「だが、ハイテクグッズの儲けより、うんと儲かる話がある。」
「え?」
思わず目を輝かせてバーの親父を見つめるニーナに、親父はウィンクして、ちょいちょいと顔を近づけろと手で招く。
「ヒアスラのオレリアン司令官を知ってるか?」
「あ、うん、知ってる。というよりパイロット試験を受けに言った時、なぜか受付にいたから会っただけなんだけど」
「そうか、そうか。普通なら滅多に会えないんだが、坊主はやはり運がいいらしい。じゃーだな…」
バーの親父は、カウンターに置いてあったメモ帳を1枚引きちぎると、ペンを走らせた。
「ほら、これ持ってこの拓殖基地1番の大金持ちの『サー・エルド』のところへ行ってみるといいよ。」
「え?サー・エルド?」
「そうだ。ハイテクグッズをさばくのも、ヒアスラで高値で売れそうなものを仕入れるのも、サー・エルドのところに行く方が手っ取り早いし、なによりオレリアン司令官と面識があるんなら、きっととある仕事を頼まれるだろうからな。」
「面識があるというほどじゃないけど…とある仕事って?」
「さて、それはあたしが言えることじゃないんでな。だが、受けて悪い話じゃないことは確かだ。後部シールドどころか、前後最高値アーマーにまでグレードアップ。いやいや、上手く事が運んだら、武器でさえグレードアップできてしまうかもしれないよ?」
「そ、そうなんですか?」
「そう。だから早く行ってみな?他の人がその依頼を受けないうちに、な?」
「あ、はい、そうします!ありがとう、おやじさん!」
ニーナは、もしかしてぼくってバーの親父受けがいいんだろうか?などと思いながら、その拓殖基地1番の大金持ちという『サー・エルド』の居住区に向かった。バーの親父が書いてくれた基地内マップ付きの紹介状を握り締め……。
「どんな仕事なんだろ?お金になるってことは、やっぱりヤバイ…こと?」
そんな不安も感じつつ、だが、背に腹は代えられない。船の装備のグレードアップは、少しでも早く充実させた方がいいに決まっている。
「命あってのものだね、だもんね」
どうやら、多少のヤバいことなら、やるつもりのようである。