月神の娘

続・創世の竪琴【月神の娘】14・突然の再会

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イルとのことが気になり、あれもこれも手が付かない。
とはいえ、大学生としてやるべきことはやらなくてはならない。
課題の提出日の締め切りが過ぎていたことに気づいた渚は、急ぎ書きかけだったレポートをまとめると教授のところへ持って行く。
…と……

月神の娘/14・突然の再会

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら
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思いがけない再会

「すみません、教授!」

大慌ててまとめ直したその翌日、とっくに期限が過ぎていた未提出だったレポートを持参し、渚は大学へ顔を出していた。

「どうしたんだね?いつもなら期限数日前に出すはずの君が。」

「は、はい・・ちょっと、いろいろありまして。」

「いろいろ?」

「あ…はい。」

いろいろとと言ったのみで口ごもる渚の様子に、家庭内のことだろうと判断した教授はそれ以上追求することはやめた。

「まー、いい。これが常習犯なら再レポートを提出させるところだが、他ならぬまじめな桂木くんだ。今回はこのまま受け取っておくことにしよう。ところで・・」

教授は渚のレポートを机の上に積んであった書類の山の一つの上に置くと、隣の応接室に視線を向けた。

「ちょうど良かったかな?」

「え?」
渚も教授の視線に合わせてドアを見る。

「いや、実は正式には2学期からなんだが、休みの内に少しでも慣れておきたいとかで来てるんだ。」

「あ・・・留学生・・でしたっけ?」

ヨーロッパにある小さな国、イトジニアという国から留学生が来るらしいという情報は、渚にも入っていた。

「そうだ。構内を案内しようと思っていたのだが、私より同じ学生の君の方がいいだろう。」

「は、はー。」

それどころではない渚は気が進まない。
が、教授の頼みでは断るわけにも行かず、後について応接室に入った行った。

「シュッテンバウムくん。」

「はい。」

背を向けてソファに座っていた青年は、返事をしながらゆっくりと振り返った。

(え?)
そのとたん、渚の思考も身体も硬直した。

「私の生徒の桂木君だ。
私は少し用事ができたので、構内の案内は桂木君に頼んだんだが、よかったかな?」

「あ、はい、勿論です。」

「桂木君、こっちがイトジニアから来たイオルーシム・シュッテンバウムくん。」

教授の言葉など耳に入ったいなかった。
渚は、振り返りざまにこっと笑った留学生の顔から視線を離すことができなくなっていた。

「私の優秀な生徒の桂木渚君だ。なんでも聞いてあげてくれ。」

「あ、はい、先生。ありがとうございます。」

「じゃ、頼むよ、桂木君。」
丁寧にお辞儀をする青年に微笑みを返し、教授は部屋から出ていった。

「よろしく、桂木渚さん。」

青年が硬直したように突っ立っている渚に握手の手を差し伸べながら歩み寄る。

「桂木さん?どうかしたんですか?」

青年の顔もその声も渚が知っているものだった。
ずっと会いたいと思っていたイオルーシム。
偶然名前が同じということではなく、目の前の青年は確かにイオルーシム。

「相変わらずだな、渚。」

「や、やっぱり・・イル?」

瞬き一つせずじっと自分を見つめたままの渚に、イオルーシムはくっくっくっと笑い始めていた。

「なんだよ、それ?もっと感動的な再会を期待してたのに・・・全く色気がないっていうかなんていうか・・。」

すっと当然のように腕を延ばしてくるイオルーシムに、渚は思わず後ずさりする。

「渚?」

「ホ、ホントにイル?」
大きくため息をついてイオルーシムは、すっと渚の手を取る。

「これを見ても信じられないか?」

「こ・・これ・・・・」

渚の手に乗せたそれは、女神ディーゼの武具であるイヤリング。
ゼノーを倒し、世界を修復させた創世の竪琴と月神の剣。

「ど、どうして?どうやってここへ来たの?
女神様のイヤリング、持ち出して良かったの?」

「うん・・・それなんだけど。」

誰かが廊下を走っていく音が聞こえた。
隣の部屋でも何か捜し物でもしているのか音がする。
外へ出ないかと視線で誘ったイオルーシムに渚は従う。

「実はさ・・・渚を迎えに来たんだ。」

「え?私を迎えに?」

キャンパス内の庭園をゆっくりと歩きながら2人は話していた。

思わずどきっとし、渚は横のイオルーシムを見上げる。

ようやく会えたのに恥ずかしさが先に出て、なぜか戸惑いを覚え、イオルーシムの胸に飛び込みたいのにできずにいた。

横を歩くイオルーシムは以前よりまた一段と青年らしく、そして逞しくなったように思え、眩しさを感じていた。

「でも・・・・私・・・」

「ここって向こうと違うっていうか、習慣ないんだって?」

「え?」

木陰のベンチを渚にすすめながらイオルーシムは明るく笑う。

「オレは・・渚を探しに来て・・・・偶然にもこんなに早く見つかって・・・会った瞬間、抱きしめたかった。」

「イル・・」
一気に渚の顔は真っ赤に染まった。

「こっちでそんなことをしたら、おかしな目で見られるって聞いてたから、なんとか踏みとどまったんだけど。」

渚がそっと腰かけたのを見計らって、その横にイオルーシムも腰かける。

-どきっ!-

イオルーシムの体温をすぐ横に感じ、渚の心臓は飛び出るかと思うくらい激しく鼓動した。

「そ、そうね・・・・でも、い、今は結構そういうのも見かけるけど・・・あ、でも、さすがに構内では、ないわね。」

何を言ってるのか渚には分からなくなっていた。

「渚?」

-ドキン!-

心臓が破裂しそうだった。
渚をじっと見つめるすぐ横のイオルーシムの顔が今にもその距離を縮めてきそうな感じを受ける。

目一杯緊張している渚にやさしく微笑みながらイオルーシムはディーゼのイヤリングを持っている渚の手に、自分の手を伸ばす。

「つけてあげる。」

「つけて・・って・・・・でも、これ・・?」

女神に返したはずなのに、どうしてなのか、と渚はイオルーシムの目を見つめていた。

「必要なんだ。」

「必要?」

「そう。闇を滅ぼす為、渚と、そしてこのイヤリングが。」

「闇を・・滅ぼす?」

渚の中から、イオルーシムに会えた嬉しさが一気に流れ去っていった。
と同時に高校の部活でのことが渚の脳裏に蘇る。

『主人公は、闇の大元を破壊する旅に出るんだ。
魔族や闇王復活を計る闇の女王を倒して闇世界を冒険するんだ。』

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滅ぶべき闇世界

「2,3ヶ月前だったか・・光の神殿から使いが来て、再び闇王が現れないうちに、闇を根絶してほしいと頼まれたんだ。」

イオルーシムはそっと渚の耳にイヤリングを付ける。

「光の神殿からの使い?」

「そう。向こうの世界では、オレ、そこにいるんだ。
ああ・・やっぱり似合うな。これは渚の耳にあるべきなんだよ、きっと。」

あるべき位置にその輝きを放つイヤリングに、イオルーシムは満足げに微笑む。

「あ、でも、女神様は?女神さまはどう思ってるの?
黙って持ってきたってことは・・ないわよね?」

イヤリングを付け終わったあと、耳からそっと首筋へと伝ったイオルーシムの手に、渚はびくっとして身を逸らしながら、思いついたことを口早に言う。

イオルーシムの触ったところがまるで電気でも走ったように熱かった。

「結果としてはそうなんだけど。」

「え?」
イオルーシムは少し寂しそうな表情で立ち上がった。

「オレさ・・・渚のことが忘れられなくて・・時々神殿へ入ってたんだ。」

「一人で?」

「ああ。あの部屋へ入っていつもイヤリングを見つめ・・・思い出していた。
そんなことを繰り返しているうちに、気が付いたらいつの間にか手にしていた。」

「イル・・・」

「確かに罪悪感もあったんだけど、光の使徒は、オレが手にするのが当然だから女神様は何もおっしゃらないと言ってくれた。」

「光の・・使徒?」

「そう。光の神殿で太陽神に仕えている人たちなんだ。」

すっと渚の前に屈むとイオルーシムは微笑みと共に力強く言う。

「だから、渚、一緒に来てくれ。
二度とあんな悲劇が繰り返されないように闇世界を消し去るんだ!魔族を壊滅させるんだ。」

「私・・・・」

すぐ目の前のイオルーシムの顔がはっきり見えなかった。

「渚?」

じっと自分を見上げていた渚が悲しそうにうつむくのを見、イオルーシムは渚の両肩を抱きながら不思議そうに声をかける。

「どうしたんだ、渚らしくない?」

「イル・・聞いてくれる?」

「勿論。渚のことならなんでも聞くよ。」

不安を押さえ、渚は少し青ざめた顔でイオルーシムを見つめた。

「あのね……」

 

▼月神の娘・その15へつづく

続・創世の竪琴【月神の娘】15・決裂する想い

ずっと会いたいと思い続けていた恋人イオルーシムとの思いがけない再会。 嬉しいには違いないが、諸手を挙げて歓迎できない理由が渚にはあった。 闇世界のことも理解してほしい…願うように話す渚とそれを聞くイオ ...

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