月神の娘

続・創世の竪琴【月神の娘】16・男の真心

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留学生との仲が普通ではないと悟った渚へ片思いの山崎洋一。
高校時代のパソコン部の部長でもある洋一は、ある程度の渚への傾向と対応策は知っていた。
渚のためになるのならとできることから行動し始める。

月神の娘/16・男の真心

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら
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恐ろしい事実

そして、その夜、洋一の家。

「あれ?お兄ちゃん、どうしたの、その首筋?」

「首筋?」

風呂上がりの洋一の後ろ姿を見て、妹の多香子が声をかけた。

「誰かと喧嘩でもしたの?それとも柔道かなにかでなったの?」

「どこが?」

「ほら!」
多香子は傍にあった手鏡を洋一に向ける。

「それにしても、大きな手形ねー。
・・・相手はやっぱり柔道の猛者?それともレスリング部?」

「な・・・何だって?」

多香子の差し出した手鏡は、風呂上がりで温まり、赤く浮かび出た手形を写していた。

「こ、これは・・・・・」

洋一の中に恐怖の記憶が蘇り、一瞬にして血の気を失う。

それは、夢だとばかり思っていた闇の城での出来事の跡。
ひねり殺されたと思ったそれは、恐ろしい異形の魔物、ミノタウロスの片手の跡。

「桂木・・・・」

『夢じゃないのよ!現実なのよ!』

渚の叫び声が耳に響き、そのときの恐怖に染まった渚の顔が脳裏に浮かんだ。

「桂木・・・オ、オレ…」

異形の輩と遭遇したそのときのことが一気によみがえり、洋一の全身は恐怖で震え始める。
がくがく、がたがたと震えが止まらない。

(じゃない!今は青ざめてる場合じゃ無い!
しっかりしろ!男だろ、オレ!)

過ぎたことなんだから!と自分を叱咤して、取るべき行動を考える。

「何よ~、いきなり電話してきたと思ったら、そんなことぉ?」

急いで自分の部屋へ駆け上がった洋一は、渚の親友、結城千恵美に電話をしていた。

「いいから、知ってる事、ぜんぶ話してくれよ。」

「渚の異世界の勇者様のこと?」

「あ、ああ・・・勇者様以外にもその世界のことで何か知ってたら教えてくれ。」

「な~に?渚の傾向と対策でも練ろうっていうの?
やっと本格的に落とすつもりになった?」

「いいから!教えてくれよ、なっ!他に聞ける奴いないんだ!」

つい少し前の洋一と同じく、親友とはいえ、異世界の事は夢としか思っていない結城は、それでもからかいながらも知ってることは一応教えてくれた。

判明した真実

「つまり・・・・あいつは、間違いなく桂木と一緒に闇王を倒した勇者なんだ。
で・・・主人を失くした闇世界は、月神の力を手にした桂木を女王に据え・・新しい闇王を探している・・・・ってことだよな?」

結城から聞いた話と後輩たちのゲーム内容から考え、大筋はそんなものなんだろう、と洋一は的確に判断していた。

「それで、桂木は高校であんなにムキになって・・・・」

創世のゲームと進行状況が同じだった事は今回もそうなる可能性がある。

「恋人だった勇者が、今度は敵・・・」

パソコンに向かってシュミレートしていた洋一はその手を止め、ごろっと横になる。

「どうみても・・両思いだよな、ありゃ。」

ショックだった。
あんなに嬉しそうな渚も、そして、あれほど悲しげな打ちひしがれた表情の渚も初めて見た。

どうやってこの世界へ来たかは知らないが、あの留学生があきらかに渚が異世界で恋した相手だと確信できた。

「オレは・・・・・」

どうしたらいい?どうしたい?・・・洋一は繰り返し自分に問いながら、そのまま寝入ってしまった。

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洋一の決意

「桂木!朗報!朗報!」

翌々日の夕方、気分がすぐれず、ほぼ2日間ベッドにいた渚が家の受話器を取った途端に、洋一の声が耳に飛び込んだ。

「なによ、部長?私、気分が悪いのよ?」

「知ってる。一昨日保健室へ運ばれただろ?」

「え?」

「あ、いや・・おばさんに聞いてさ。」

「あ、そ、そう。・・」

前日、渚が保健室で気付いたとき、イオルーシムはそこにはいなかった。
保険医のいないときだったらしく、聞いてもだれが運んできてくれたのか分からなかった。

「あ、そーじゃなかったんだ。だから、朗報!朗報!」

「だから、何よ、朗報って?」

どうせろくな事じゃないに決まっている、と渚は決めつけ適当に相手をしていた。
きっかけがあったら即電話を切るつもりで。

「あいつらな、高校の部活の。」

「あ、うん。」
思わずイオルーシムの顔が渚の脳裏に浮かぶ。

「制作中止になったんだって。」

「え?ど、どうして?」

「うん。2学期にパソコンを総入れ替えするらしくてさー。で、そのパソコンは、今ゲーム作成に使ってるシステムが使えないんだとかで、そうするとまた新しいシステムで最初から作り直さなくちゃいけないだろ?」

「あ、うん。」

「だから、もう手っ取り早くパズルゲームかなにかにするってさ。」

「ふ~~ん。」
それがどうした?といった渚の返事。

「だからさー・・・オレ達で作らないか?」

「え?」

「あのゲームの続き。」

「続き?」

「そ。桂木のシナリオにそってさ。」

「で、できるの?」

「大元はコピッてきてあるからな。あとは追加していくだけだろ?プログラムは任せておけって!」

「・・・・・・」

「桂木?・・・お、おい、聞いてるのか?」

思いがけない洋一の提案に、嬉しさと涙で声にならなかった。

「う、うん・・」

「よかった。ひょっとして切られてるのかと思った。」

「ご、ごめん。」

「あ、いや・・でさ、その打ち合わせしたいんだけど・・・今からはまずい?
あ、いや、そんなに遅くまでいるつもりないよ。
だいたいのストーリーを聞かせてくれれば、あとは、自分ちでやるから。」

「あ、うん。ありがと。」

「じゃーさ、30分くらいで行けると思うから。」

「うん。」

カチャリと受話器を置き、渚ははっとする。

「いっけな~い!ここのところ落ち込んでいて掃除してないっ!」

慌てて部屋に駆け込み掃除機出動と整理整頓!(とは言っても女の子の渚のこと、○ロ本の類があるわけではないので誤解しないように。)

どたんばたんゴーッガーッ!の大急ぎの掃除がなんとか終わった頃、オートバイのエンジン音が家の前で止まると、玄関のチャイムが鳴った。

「ま、間に合った・・・。」

慌てて玄関まで降りてく。

「い、いらっしゃい。」

「あ、お、お邪魔します。」

いくら気のない相手だとしても男の人を自分の部屋へ入れるのは渚は初めてであり、洋一も渚の部屋へ入るのは初めて。なんとなくお互い緊張していた。

が、ゲームの話に入ればそんな緊張感もどこへやら。
とくに渚にとっては、暗闇に一筋射し込んだ希望の光なのである。
男女の壁などどこへやら、高校の部活の時に戻って意見を交わしあっていた。

「でも、なぜ急に作ろうなんて気になってくれたの?」

帰り際、渚がふと思いついたように聞いた問いに洋一は照れ笑いをみせる。

「桂木が気に入ってただろ?だからだって。」

「それだけで?」

そんな単純な理由だけでここまで親身になってくれる?と言いたそうな渚に、洋一は明るく笑って答える。

「今度オレん家に来てくれたときに教えるよ。」
洋一はそれだけ言って帰っていった。

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未完のゲーム

そして、それから数日後、ほぼ完成に近い一応人間界と闇世界が出来上がった時点で、洋一は渚を自分の家に呼んだ。
徹夜に続く徹夜の成果だということは、渚には内緒である。

「これがなんだか、桂木ならわかるだろ?」

渚が洋一の部屋に上がっていった時、風呂上がりだと言った洋一が、部屋に入るなりいきなりシャツを脱いだのには、どきっとした渚だったが、洋一の首筋にあのミノタウロスの手形を見つけた時には、それ以上の・・いやそれとは比べ物にならないほどの驚きを覚え、呆然として渚はそこに立ちつくす。

「現実・・・だったんだよな?」

「・・・部長・・・」

「ごめん。」

勢いよく頭を下げた洋一を渚は不思議そうに見る。

「何が?」

「オレ・・・作るっていったのに、最後まで作れなかった。」

「え?」

「というか・・・エンディングがどうしても決めれなくて。」

「エンディングが?」

「どこからどこまでが現実で、どこからがゲームなのか・・
オレ・・・桂木の為に作るって言ったけど・・・・ダメなんだ。」

「何が?」

シャツを着た後、そっと差し出したDVDを受け取りながら、渚は不思議そうに聞く。

「オレさ、よく人からお人好しって言われるけど・・・」

渚の視線を避け、洋一は窓の外を見つめる。

「だけど・・・これだけは無理なんだ。・・・」

「部長?」

数秒間の沈黙のあと、渚の方を振り返ろうともせず、洋一は叫ぶように言った。

「無理なんだよ!
桂木とあいつのハッピーエンドなんて!」

「ぶ・・・」

部長、と言おうとした渚のその先は声にならなかった。
洋一の気持ちは分かっていた。
分かっていたが渚の気持ちも変わらなかった。
だからこそなるべく洋一には関わらないようにしようとしていたことも確かだった。

「ごめん!」

勢いよく謝った後、今日は帰ってくれという洋一の言葉に、渚は力無く頷くことしかできなかった。

「ありがと。」

背を向けたままの洋一に小声で礼を言うと、渚は洋一の家を後にした。

その夜、渚は遅くまで洋一の作ったゲームを見ていた。

どこそこ多少違っている事もあるが、こんなことまで話した?と思うような細部まで、向こうの世界そのままに作られていた。が、ゲームのキャラ設定はゼロだった。

創世のキャラは白紙に戻され、ゲームはキャラ作成からスタートするシステムになっていた。

『2名から6名のパーティーが作成できます。選んで下さい。』
『サンプルで遊ぶ・オリジナルを作成する』

そのキャラ作成の画面を見つめ、渚はコマンドが選べずにいた。

洋一が作ったらしいサンプルのパーティー。それは渚の見知ったメンバーだった。

『魔導士イル、術師リー、ダガー使いファラシーナ、剣士ギーム・・・そして、月巫女Nと・・・僧侶Y・・』

DVDを渡してくれたときの洋一の言葉と、これを作っている時の洋一の気持ちを思い、渚はただ呆然と画面を見つめ続けていた。

 

▼月神の娘・その17へつづく

続・創世の竪琴【月神の娘】17・玄関先のラブシーン

「桂木と奴とのハッピーエンドのエンディングなんて創れない!」 心の叫びをはき出したかのような洋一の言葉に、渚には返す言葉がない。 帰宅後、洋一が創ってくれたゲームを呆然と眺め見る渚だった。 月神の娘/ ...

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