自分の世界に戻った渚を高校時代のパソコン部の部長の山崎洋一が、後輩たちの部活を見に行こうと誘う。
それは、渚たちが作ったゲーム『創世の竪琴』の続編。
ゲームがどう展開するのか気になる渚は、二つ返事で洋一に同行した。
月神の娘/7・ゲーム・創世の竪琴の続編
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら)
(月神の娘のこの前のお話は、ここをクリック)
部長のお誘い
「うう~~ん・・・どうすればいいのよ~・・・・」
「とっとと起きればいいだろ?」
「え?」
がばっと顔をあげる。
渚の視野に入ったのは弟の優司の小馬鹿にしたような顔。
「部屋の外まで聞こえるような大声で寝言言ってんなよな?
だいたい何時だと思ってんだ?」
ちらっと時計を見ると9時を指していた。
「な、なによ・・ノックもしないで人の部屋に入らないでって言ったでしょ?」
「したけど返事がなかったんだから仕方ないだろ?」
「で、何か用?」
「彼氏のお誘い。」
「え?・・彼氏って・・・誰の?」
「姉貴のに決まってんだろ?
他に誰の彼氏が来るってんだよ?デートの約束忘れんじゃねーよ!」
「だって、そんな約束してないし、だいいち彼氏なんて・・」
「山崎って言ってたぞ?」
「なんだ、部長じゃない。彼氏のわけないでしょ?」
前から生意気だったけど、中学になったらますます生意気になったと思いつつ、渚は優司を軽く睨んでから着替えるんだから、出て行けと目配せする。
「ったく・・世話の焼ける姉貴なんだからな~。」
優司は文句を言いながら出ていった。
「なんだって家まで来るのよ?」
渚はぶつぶつ文句を言いながら慌てて着替え、鏡を覗き、身だしなみオッケーなことを確認してから階下へと下りていく。
彼氏でなくともそれは最低限のマナー。
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「や、やー・・おはよう。」
「おはよう。どうしたの?」
「どうしたのって・・・・・」
照れくさそうに洋一は頭をかき、それでも思い切ったように続けた。
「今日は・・・時間ある?」
何も答えず困ったような少し怒っているような顔をしている渚に、やはりいきなり押し掛けてはいけなかったか、と焦りながら洋一は再び続ける。
「昨日あれから結城も急用ができたとかで帰ってしまって。」
『明日改めて誘いに行きなさいよ。』という言葉を残して祀恵は帰って行ったというのが本当だった。
「んー・・でも・・・・・」
「あ!それからさ、部活の後輩から今日顔を出してくれって頼まれてるんだ。
桂木も一緒に行かないか?」
「高校の?」
「ああ。」
玄関先に突っ立ったままの渚は明らかにご機嫌斜め。洋一は焦る。
「ほ、ほら、覚えてるか?文化祭の時に作ったゲーム。」
「ゲームって・・あの創世の竪琴?」
「そ、そう、それ。桂木の発想でさ、大好評だったやつ。」
気のない返事しかしなかった渚の顔が輝いたように思え、洋一は、やっぱりこの手の話なら乗ってくるんだ、と内心Vサイン。
「それが今頃どうしたの?」
「あ、ああ・・続編作るとかでさー、助言してもらいたいって電話があったんだ。」
「続編?」
「お・・そ、そうそう。」
いきなり身を乗り出した渚に、洋一は少なからず驚きながらも、チャンスとばかりに続ける。
「パソコン見に行くのは次の機会でもいいから、ちょっとあいつらのところに顔出してみないか?
続編のストーリーなら、オレより桂木の方がいいと思うんだ。」
「そ、そうね・・・・・」
やったっ!、洋一はもう気分るんるん。
「ちょっと待っててね。」
渚は急いでキッチンに駆け込むと、ちょうど焼けたところでバターを塗っていた優司のトーストをついっと失敬する。
「あ!何すんだよ、姉貴?」
案の定ガタッと立ち上がって優司は怒鳴る。
「いいじゃない、また焼けば。」
「よかーねーよ!部活あんだぜ?」
「まだ間に合うでしょ。ほらそんな事言ってる間があったら次の焼いたら?」
大口にトーストを食べる渚に、優司は観念する。
「デートならもっと早く起きろよな?」
「だから、デートでも彼氏でもないって言ってるでしょ?」
ひょいっと優司の持っていたカップを取り上げゴクゴク!と渚は飲み頃のコーヒーを喉に流し込む。
慌てて食べたドーストでつかえそうになっていたのが喉がそれで解放された。
「おい!姉貴!」
「えへへ・・ごちそうさま!」
「ったく・・・あれで20歳(はたち)だってんだからなー・・もう少し色気だせよな?」
ぺろっと舌をだしてキッチンから出ていった渚に、優司はため息と毒舌をつきながら、しぶしぶコーヒーを入れ直す。
「お待たせ!」
そして慌てて歯磨きと洗顔を終え、慌ただしく洋一と外に出た。
「なんだ、朝ごはんまだだったんなら喫茶店にでも入ったのに。」
「あ・・いいのよ、余分なお金使わなくても。」
(余分なって・・・・)
洋一はがくっときながらも、まー、いいか、部活でゆっくりできるから、と思い直す。
が……
部活での続編制作
母校での後輩たちの部活。
「先ぱーーい!山崎先輩!ここのシステムバグちゃって動かないんですけど、ちょっと見てくれます?」
「桂木せんぱい!次のイベントどうしよう?
お城の構造はどんな感じがいい?」
なつかしいといえば、なつかしい活気のある部活。
あの時のように文化祭に向けてゲームを作るらしく、部員一同燃えている。
そこに、のんびりできるムードはまるっきりなかった。
残念そうな表情で、それでも人の良い洋一はあちこち覗いてはアドバイスし、渚は目を輝かせてストーリーなどの相談にのっていた。
続編のテストプレイ
「すっかり遅くなっちゃったな。
オレたち以上だな、あいつら。無理矢理先生呼んでまだやってるんだもんな?」
「そうね、先生もいい迷惑よね?」
高校を後にしたのは、6時過ぎになっていた。
日が長い夏とはいえ、そろそろ日が落ち始める。
「なー、ちょっとオレん家、寄ってかない?」
「え?」
何を急に?と思いつつ見た洋一の手に、DVDが。
「まだ第一段階だからな、城やダンジョンの内部はできてないけど、一応魔界の5層あたりまでは冒険できるぞ?あ、魔王の居城はできてるって言ってたな。」
「い、いつそんなもの?」
先輩とはいえ、そして、単なる高校の部活とはいえ、文化祭まで開発途中の門外不出のデータである、渡してくれるわけはない。
「まー、オレにかかっちゃ、ちょちょいのちょいで落とすなんか簡単なもんさ。」
不適な笑みをうかべ、洋一はDVDをみせびらかす。
「お袋と妹がうるさいかもしれないけど。」
高校の時、やはり洋一に誘われて、祀恵と一緒に数回部活帰りに寄ったこともあり、家族とも顔は会わせている。全く知らないわけではない。
「うーーん・・・」
空を見上げてしばし考える渚。洋一はどうでもいいが、ゲームは気になる。
「DVD貸してやってもいいんだけど、調子悪いんだろ?桂木のPC?」
そ、そうだった・・と渚は思い出す。
いつ起動するか分からない、いや、もう完全だめなのかもしれない渚のパソコン。
「お邪魔しま~す。」
「あら、桂木さんじゃないの?
洋一と同じ大学に入ったって聞いた割に遊びに来ないって、この前話してたのよ。」
「うるさいなー、いいだろ?そんなこと。」
玄関開けたら1分でごはん、ではなく、洋一のところは玄関に入ると吹き抜けの居間がひろがっている。
もちろん奥はダイニング。
ちょうど居間にいた洋一の母親は嬉しそうに声をかけ、洋一はうるさそうに母親を追う。
ぼやぼやしてると渚を母親に取られてしまうからだ。
勿論、洋一が渚に気があることは母親もそして妹も知っている。
その上、渚がぜんぜん洋一に気がないらしいことも。
「渚さん、お夕食食べていかない?」
「あ、いえ、すぐ失礼しますから。」
「そんなこと言わないで。
電話入れておくからゆっくりしていってちょうだい。」
「でも・・・・」
洋一の時としての強引さは母親譲りらしかった。
といっても、渚に関しては今一歩肝心なところでその強引さがでず、ぐずぐずしているのだが。
渚たちが高校時代、買い物で偶然一緒になったとかで、2人の母親はすっかり仲のいい友人になっていた。
電話を入れればOKがでるのはまず間違いない。
「この間もね、たまには遊びに来るように言ってってお母さんにお話したのよ。」
「は、はー・・・・」
延々と続きそうな気配に、早くあがれよ、と階段を顎で示す洋一に頷いて、渚は2階の洋一の部屋へ上がっていった。
「部長のパソコンはまだ大丈夫?処理速度とか遅くなってない?」
「ああ、今くらいならなんとかいいかな?って感じだ。」
「ふ~~ん、いいわね。私の古いから。
ねー、新しいの買ったら、私にくれない?」
「あ?・・・」
「あ、いらなかったら、だけど。」
慌てて渚は付け加えた。
たとえ中古とはいえ、パソコンをもらうような関係ではない。
「あ、ああ、いいぞ。」
「ホント?」
「他ならぬ桂木だからな。
だけど、どうしてこの機種にこだわるんだ?
新しいの買った方が処理速度もぐんと速いし、やっぱこれからは持ち運びのできるノートパソコンがいいんじゃないか?」
「あ、うん・・・それはそうだとは思うんだけど。」
パソコンを立ち上げ、洋一から渡されたDVDのゲームデータを別のDVDにコピーする。
「オレの愛用してた奴が欲しいって理由なら喜んで進呈しよう。」
-バシッ!-
「おっと!」
渚はパソコンの前に置いてあったノートでばっちん!とわざとらしくウィンクした洋一の顔面を狙い、そして、高校時代それが部活でのいつものパターンであった洋一は、反射神経でそれを手で阻止する。
「まったく・・相変わらずね、部長って。」
「ははは・・。ちょっとは元気でたか?」
(え?)
渚はその言葉に、そんなに沈んでいたのかと思う。
(でも、下手な慰め・・・)
「お!出た出た・・・結構きれいに作ってるな?」
照れたように洋一はパソコンとは少し離れた机のところのイスに座り、そこから画面を見ながら早口にしゃべっていた。
「そうね。」
だが、早くもゲームに引き込まれた渚にそんなことはもはや圏外。
画面に映し出されているのは、魔界の第7層。
そして、建物としてはただ一つだけ完成している魔王の浮遊城。
渚の注意がそれに集中するのは当然だった。
渚は最初から内部に居たため、大門は知らないが、立派な大門から続く通路と広いホール。
そして、階段を上がっていった中央の尖塔には・・・・ディーゼの彫像のある部屋。
窓から美しい月が見える。
記憶を辿り、渚はキャラを動かし、城中を見て回る。
不思議にも創世のゲームの時と同じく、細部はまだ作られてないため多少は違ってはいたが、ほとんど同じである。
「イル・・・・」
「え?何か言った?」
思わず呟いた渚の声に洋一が聞く。
「どうしたんだ、桂木?」
目を輝かせてゲームに没頭していたのに、今は画面を見つめたままぼんやりしている渚に洋一は心配になって傍によって声をかける。
-すうっ・・・・-
「な?」
「え?これ?」
2人の顔が画面に映ったとき、その時映し出されていた大広間の片隅にうごめくものが見え、それと同時に画面から黒い手の形をした靄が飛び出し2人を包み込んだ。
▼月神の娘・その8へつづく
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続・創世の竪琴【月神の娘】8・思いがけない同行者
高校のパソコン部の部活にアドバイザーとして顔と出したあと、作成途中のゲームをDVDに落としてきたという洋一の家に立ち寄る渚。 そして、そのゲーム画面を見る2人を黒いもやが包んだ。 月神の娘/8・思いが ...