ずっと会いたいと思い続けていた恋人イオルーシムとの思いがけない再会。
嬉しいには違いないが、諸手を挙げて歓迎できない理由が渚にはあった。
闇世界のことも理解してほしい…願うように話す渚とそれを聞くイオルーシム。
そして、そんな2人の様子を偶然見かけた渚に片思い中の山崎は。
月神の娘/15・決裂する想い
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら)
(月神の娘のこの前のお話は、ここをクリック)
思いがけない再会
渚は心の中で手を合わせ、祈りながらイオルーシムに話してみた。
病んでしまった闇世界の事・・苦しんでいる住人たち、それは決して悪人ばかりではないこと、そして、闇の女王となることを承諾してしまったこと。
「渚?!」
そっとやさしく渚の肩を抱いていたイオルーシムが、まるで不潔な物に触っていたかのように手を振り払って立ち上がる。
「分かって、イル!彼らだって生きているのよ。
ただ住んでる世界が違うだけで・・闇が彼らの安住地だというだけで、彼らだって正直に真っ直ぐ生きて・・」
突っ立ったイオルーシムの背に、渚は叫ぶように懇願する。
「渚っ!」
イオルーシムの怒りの声に、渚はびくっと身体を振るわせる。
振り返ったイオルーシムの表情は怒りと苦痛でゆがんでいる。
「忘れたのか、渚?おじいはどうなったんだ?ギームは?村や近隣の町や村の娘たちは?
それに・・それに、オレの生まれ故郷の村は・・・オレの・・・」
「イル・・・・」
悲痛なまでのイオルーシムの怒りに渚は答えようがなかった。
「ここへもう二度と帰れないわけじゃないんだ。
光の使途が行き来する方法を教えてくれた。
・・・家族と離れなければいけないという悲しみを渚に味あわせることなく、渚と一緒にいられる方法が見つかって・・オレ・・どれだけ嬉しかったか。」
「ここと行き来できる?」
「ああ。月下蝶とかいう名前だったかな。女神様の化身だとか彼らは言ってた。
で、禁じ手ではあるんだけど、月神のイヤリングを填めることができる娘を連れてくる為なら女神様もお許しくださるだろうからって。」
「イル・・」
「だから、渚、オレと一緒にそのイヤリングで闇世界を滅ぼすんだ。
彼らも自分たちの女王にと願った渚に滅ぼされるなら、納得いくんじゃないか?」
「そ、そんな・・・そんなの勝手な判断よ!」
「渚?!」
「どうして分かってくれないの?彼らだって生きてるのよ。
イルは・・・もっとやさしかったわ。もっと他人の気持ちのわかる思いやりのある・・」
「魔族にそんな気持ちは持ち合わせちゃいない!」
「イルっ?!」
「渚・・・もし、渚が奴らの女王として奴らの味方するっていうのなら・・」
「いうのなら?」
「オレは・・・オレは・・・・・」
渚を倒さなければならないという言葉を飲み込み、イオルーシムは青ざめた表情と共に後ずさる。
「渚、どうして分かってくれないんだ?
なぜ渚が闇の女王になんか・・・。」
「だから、イル、彼らだって生きているのよ。私たちと同じように。」
「渚・・」
悲痛な表情で、そろそろと後ろに下がったイオルーシムは、くるっと向きを変えると、重い足取りで渚の前から足早に去っていく。
「イル・・・・」
その後を追いかけることができず、イオルーシムの後ろ姿が建物の曲がって見えなくなっても渚はじっと見つめていた。
景色が涙で見えなくなってくる。
思いがけない再会は、思いがけない、いや、できることなら避けたかった展開、十分予想できた悲劇となって現実化した。
追いかけて協力するとも言えず、泣くに泣けず、悲しみと絶望の暗闇に包まれ、渚はその場に立ちつくしていた。
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非力さを呪う
「誰だ?桂木と一緒にいる奴は?」
偶然、イオルーシムとの一部始終を偶然見かけた男がいた。
それは、誰あろう山崎洋一、渚に片思いの人物である。
「2学期からくるっていう留学生か?」
少し赤味かかった金髪と明るい茶色の瞳。
長身のその身体はスポーツ選手のように張りがある。
それはいいのだが、渚といるその雰囲気がただの留学生とのものとは形容しがたかった。
初対面の態度や雰囲気ではない。
明らかに2人の間にただならぬものがあると思われた。
「まさか・・・桂木の・・勇者様?」
ゲーム好きで勇者に憧れていた渚のことは洋一もよく知っていた。
そして、その話は渚の友人である結城千恵美からもよく聞いている。
最近では耳にしなくなったが、高校時代よく耳にしたのは、異世界へ行って出会った勇者の話。
共に世界を救い、そして、恋人になったカッコよくハンサムな青年。
ばかばかしいとも思いながら、ふとそんな言葉が洋一の口から出ていた。
「んなあほな。じゃー・・・もしかして一目惚れとか?」
あり得ない夢の話は除外した結果として出た自分の推理に、ますますもって青くなる洋一。
「あ!桂木っ!」
その青年がなぜだか去っていった。
そして、その後、しばらく呆然としたように立っていた渚が、ふらっと倒れかかり、洋一は慌てて渚に駆け寄っていく。
「桂木?」
(おい・・ホントに気絶してるぞ?)
置かれたその状況に、洋一は焦りを覚える。
膝の上に抱き上げた渚は、いくら揺すっても呼びかけても気付きそうもない。
(と、ともかく、このままじゃなんだよな・・やっぱり保健室か?)
ぐっと腕に力を入れ、洋一は渚を抱き上げようとする。
(う・・・・け、結構重い・・・。)
渚の体重は、本人が公開を断固拒否してるので発表しないが、そもそも気絶している人間は、普段感じる体重より重いのである。
普通の状態で抱くのと意識のない人間を抱くのとでは、同一人物でも差がある。
ともかく、洋一は渚をお姫様だっこして運ぶことにした。
が・・・・
「やっぱパソコンばっか触ってちゃだめか・・・・男は体力腕力ってか~~?」
途中で息切れして、洋一は見つけたベンチへ渚をもたれかけさせる。
ここへ保険医の先生を呼んでくるべきか、いや、呼びにいってる間にへんな野郎に、などと悩んでいた洋一の脳裏に、ふとさっきの留学生の姿が浮かんだ。
(あいつなら、・・・そうだろうなー、きっと軽々と運んで・・・)
ふっと小馬鹿にしたような視線を洋一に投げかけ、軽々と渚をその腕に抱いて運んでいく青年の姿がまるで現実のように鮮明に脳裏に浮かんだ。
「あ、あれ?」
ではなく・・・鮮やかに脳裏にうつったと思ったその情景は、現実に目の前で繰り広げられていた。
「か、桂木・・・」
ただ、小馬鹿にしたような視線はなかった。
が、洋一のことなど全く目に入っていないようである。
「保健室はどこですか?」
唐突に聞く留学生。
(なんでオレが傍にいるのかわかってない?
ここまで運んできたの見てなかったのか?)
とは思ったが、洋一の口からでた言葉は違っていた。
「あ?ああ・・・ここ真っ直ぐ行って突き当たりを右に曲がってそこの突き当たりの入口からはいるとすぐに・・」
「ありがとう。」
彼の瞳は、渚しか写ってないようにも見えた。
(じゃ、さっきの展開はなんだったんだよ?)
そうも思ったが、ハンサムでカッコいい留学生(洋一のひがみによる修飾?)は、洋一の事などまるっきりアウトオブ眼中?愛しそうにそして心配そうに腕に抱いた渚を見つめながら連れていってしまった。
「くっそーーー!!・・・イテっ!」
怒った勢いで思いっきりベンチの足を蹴った洋一は、その痛みに、ぴょんぴょん跳ねながら足をさする。
「痛ーーーー・・・・・オレのあほ!なんで教えるんだよっ?!」
全ては後の祭りである。
痛みを堪えながら洋一は自分の非力さを呪っていた。
▼月神の娘・その16へつづく
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続・創世の竪琴【月神の娘】16・男の真心
留学生との仲が普通ではないと悟った渚へ片思いの山崎洋一。 高校時代のパソコン部の部長でもある洋一は、ある程度の渚への傾向と対応策は知っていた。 渚のためになるのならとできることから行動し始める。 月神 ...