創世の竪琴

創世の竪琴/その6・出発前夜

更新日:

(ひょっとして、これから大冒険が始まる?黒の森の魔王退治?…なんちゃって…ついゲーム感覚になっちゃったけど…夢だから、何が起こってもいいわよね?)
(前の話。創世の竪琴その5はここをクリック

夜にならない内にとまだ日が高い内に急ぎ足で渚とイルは家に向かったが、着いた時には、すでに夜の帳が下りていた。

「ただいま、おじい。」

「お帰り、イル、渚。」

「ただいま、おじいさん。」

イルはどかっと荷物をテーブルに置くと黙々と整理をし始めた。

「ねぇ、おじいさん、村に行ってからイルったらずうっとあんな風なんだけど、どうしちゃっのかしら?何か良くないことでもあったんじゃ?もしかして、私のせいなの?」

「気にしなすんな。きっとからかわれたんじゃろうて。お腹が空いたじゃろ?朝と代わりばえしないが、あっためてあるぞ。それに干し肉もあるしの。」

そのグナルーシの言葉を聞いて、イルは村であった事を思い出していた。

食料と渚の着替えの調達に行った店々でからかわれた事を。

だが、帰り道、口を利かなかったのはそのせいではない、これから出くわすであろう苦難の事を考え、自然と口数が少なくなってしまっていただけの事だった。

イルは反論しようと渚とグナルーシの方を向いたが、余計何か言われそうで、そうするのを止め荷物の整理を続けた。

「そうね、お昼は村長さんとこでいただいたんだけど、ここまで登って来たらまたお腹が空いちゃった。私、支度するわ。」

「食い意地の張った奴だな、お前って。サバイバルできないぞ。」
背中を向けたままイルがぶっきらぼうに言った。

「できなくていいもーん!」
ため息をついているイルを無視して渚は食事の支度にかかり、ほどなくテーブルには用意が整った。

「歩くのは遅くてもこういうことは早いんだな。」

「だって、山道なんて歩きにくくって。それに慣れてないし。イルみたいに早く歩けったって無理だってば!」

「こーんなちっこい蜘蛛が出ただけで、ぎゃあぎゃあわめくんだぜ。おじい、本当にこいつでいいのか?」

「多分。」

「『多分』って、おじい!」

「とにかく、今は腹ごしらえしておくことじゃ。」

「何のこと?」

「何でもいいから、食べろ。」

「よくない!」

「食事が終わってから話した方がいいじゃろうて。」

食べながらでもいいじゃない、と言いたかった渚だが、そうもいかない雰囲気に押され、仕方なくイルと同じように黙々と食べる。

「もう!なんなのよ、ホントに?!」

急いで食事を済ませると、食器の後片付けをする。

「さーてと、片づけも終わったし、何かあるんでしょ?話してくれない?」

渚はもうわくわくどきどきしていた。何かある、と彼女の第六感は囁いていた。

(『黒の森』といい、モンスターや召喚だなんて、絶対この展開はRPGよっ!そうでなきゃつまんない!でも面白そうな夢だわ。当分覚めないでいてくれないかしら?
いつもいいところで目が覚めちゃうんだから。できたら魔導士を倒して娘達を解放したり、ボスが他にいるんなら、そいつもやっつけて英雄になる、とか。
ううううう、面白そう!ひょっとして、ひょっとすると魔法なんか使えちゃったりして!ああ、冒険が始まるんだわ!!)

「渚っ!」

「えっ?何?何?」

「何じゃないだろ?さっきから1人でにやにやしてて。どうしたんだ?ぼけーっとしてんじゃないよ!」

「あっ、ご、ごめん。」

「ったく、先が思いやられるな。」
イルは大きな溜息をつくとテ-ブルの上に地図を広げ、説明し始めた。

「これがこの辺の地図だ。ここが俺たちの家でここが今日行ったニ-グの村。
そして西にある谷を渡ったところのこの辺からが黒の森だ。
渚は吊り橋の所から少し森に入った所に倒れていたんだ。
でっとぉ・・・・家から山頂に向かって行くと神殿に繋がっている洞窟があるんだ。」

「神殿?洞窟?・・・・もしかして・・・・モンスタ-がいっぱいいる・・・とか?」

渚の眼は期待と好奇心でらんらんと輝いてきた。

「な、なんで分かるんだ?行った事があるのか?」

「ううん、全然。ただ、そうなんじゃないかな、と思ったの。」

「すごいな、渚。わかっちまうのか?」

「う、うん。だいたいそういうものなのよ。」

「『そういうもの』って、だってここは神殿って言っても昔の神殿で、今じゃ忘れ去られているくらいなんだぞ。もう百年以上もだれも入ったことはないんだぞ。」

「で、あげくの果てにモンスターの住処になって入口でも封印されているんじゃないの?でも、その奥には大切な物があってそれを手にいれなくてはならない・・・?」

渚はすっかり興奮状態に陥っていた。

「な、渚?」
イルは渚がまるで見てきたかのように当てるのでびっくりして目を見張った。

「で・・・この私にそこに行ってほしいと、こうなんでしょ?」

ロープレのお決まりなんだから、どうだまいったか?と渚は得意満面でイルを見る。

「そ・・・その通りなんだけど・・・・」

「お願いできないじゃろうか、渚?洞窟は迷路になっておるし、モンスターは手ごわい奴ばかりなのじゃが、その神殿は月の女神『ディーゼ』の神殿での、中へは子供と娘しか入れないのじゃ。
このイルはこうみえても魔法には長けておっての。
これが一緒に行きますじゃ。
わしらと全く関係のないあんたにこんな危険な事を頼むのは随分虫がよすぎると思うじゃろうが、あんたしか頼む娘がいなくての。
地下神殿まではモンスターに侵されてはいないはずじゃ。そこまで行けば後は大丈夫じゃろうからの。なんとか頼まれてくれんかの、渚?」

「ええ、いいわよ、おじいさん!」

「!」
渚があまりにも軽く引き受けた為、グナルーシもイルも拍子抜けして、すぐには声がでなかった。
渚は夢なのだということもあり、それこそ勇者にでもなった気分で上機嫌だった。

「早い方がいいんでしょ?今から行くの?」

「い、いや、洞窟に入るのは朝になってからの方がいいんじゃが。」

「で、そこへ行ってどうするの?」

「それなんじゃが・・・・・」
グナル-シはしばらく虚空を見つめていたが大きな溜息をつくと話しだした。

「実は、黒の森が現れたのは今回が初めてではないのじゃ。今から、千年前も現れたのじゃ。その事は数千年前ディーゼ神殿に仕えていた姫巫女が予言していてのぉ・・・

『人が祈りを忘れ、神を忘れしとき、黒の森現れ、闇王復活す。
その力、あまねく世界に満ち、地上は暗黒に覆われる。
人は、人を産まず、娘は狂気に走る。
その叫び、あまねく世界に満ち、その嘆き、闇王の糧とならん。』

という予言じゃ。

今と同じく千年前のその時も世の終わりだと大騒ぎになったのじゃが、当時の姫巫女が、自らの命と引換えに人間を救ってくれと一切を絶って祈った結果、女神ディーゼが姫巫女に力を与え、闇王を倒す事がきたのじゃ。
じゃが、今はその姫巫女一族の血筋も絶え、あまつさえ、娘達は次々とさらわれてしまってのう、もう相応しい娘がいないのじゃよ。
まぁ、後の詳しい事は、イルから追々聞けばいいじゃろうが。」

「ふーん、なるほど。」

(私がその姫巫女の代わりってことよね・・これはなかなかいい設定よ!)

渚はもう有頂天、地図を見ながら1人でこれからの計画を立てていた。

「まず、女神ディーゼの武具を取りに、神殿に行ってもらいたいのじゃ。」

「ふむふむ・・・・なるほど。」

(でも、ちょっと待って!この地図ってどこかで見たことのあるような・・・・。)

見覚えのある地図に渚はしばらくじっと見入っていた。

「ああーっ!」

「どうしたんだよ、渚?」

突然大声を出した渚にイルがびっくりして聞く。

「う・・・うん。」

(そうだ!これ、私が作ってたマップとほとんど一緒だっ!何故?どうして?)

しばらく考えていた渚だったが、これが自分の夢であったことを思い出し、1人で納得した。

「で、神殿というのが・・・」

「その神殿っていうのは山頂のカルデラ湖の中央に浮かぶ小島にあるんでしょ?で、島は断崖絶壁で船を着ける場所がなくって、その上、神殿はぐるっと高い壁で囲まれているんでしょ?出入口はその洞窟だけなのよね?」

「な、なんでわかるんだよ?」

グナルーシの言葉を遮り、知るはずもない事を渚が全て当ててしまうので、びっくりしてイルとグナルーシは顔を見合わせた。

(当たり前よね、私の夢なんだから。)

「まーね・・・じゃ、とにかく今日はよーく寝て、明日の朝出発って事でいいのね?」

「そ、そうじゃが・・・・しかし本当にいいのかの?命の保証はできないのじゃが?」

「だーいじょうぶ!まっかせなさいっ!じゃあ、お休みぃ!」

渚は上機嫌で自分の部屋に入っていった。それとは反対に、あまりにも無邪気な渚に一抹の不安を抱くグナルーシとイル。

「おじい・・・・・」

「・・・・・賽は投げられたのじゃ、後戻りはできん。」

グナルーシは弱々しく頭を振ると、すっかり冷めてしまった紅茶をすすった。

「お前ももう寝た方がいい。明日は早いんじゃからの。」

「ああ、そうするよ。」

イルが天井からの縄梯子を伝い屋根裏の自分の部屋に行くと、グナルーシは静かに瞑想に入っていった。

▼その7につづきます…

創世の竪琴/その7・魔物が待つ黒の森の神殿へ!

(ひょっとして、これから大冒険が始まる?黒の森の魔王退治?…なんちゃって…ついゲーム感覚になっちゃったけど…夢だから、何が起こってもいいわよね?) (前の話。創世の竪琴その6はここをクリック) 渚の頭 ...

-創世の竪琴

Copyright© 異世界スリップ冒険ファンタジー小説の書棚 , 2024 All Rights Reserved.