創世の竪琴

創世の竪琴/その35・イルとの戦い

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炎龍がいるだろう氷山に無事転移した4人は、見つけた洞窟の入口からおそってくるモノたちを倒しつつ奥へ奥へと進み、ついに炎龍を、いや、炎龍とともにいる風龍、水龍の3体と出会う。
が、彼らが必要としている龍玉は、龍の心臓なのだと知り愕然としつつも、襲いかかる炎龍をとどめることはできず戦う。
全滅かと思ったときに抜いた渚の持つ女神ディーゼの剣が炎龍を倒し、無事3つの龍玉を手に入れることができた。

その35・イルとの戦い

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の途中の展開です。
女子高生渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
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太陽神殿へ

「ここで龍玉を使うわけね!」
渚は目下に広がる大海原を見ていた。

見渡す限り海のその上空、リーの精霊魔法の力で一行は空に浮く魔方陣の上から眼下に広がる荒立つ海を見ていた。

陸地もなにもないのに、中央でぶつかり合う波頭は、その中心に何かると思わせてくれる。

「ああ、間違いない。水晶球はここを指している。」

シュメから預かってきた水晶球を見ながら、ファラシーナが言った。

「イル。」

「ああ。」

イルは箱から3つの龍玉を取り出すと手の平に乗せ、それを掲げた。

(龍玉よ・・・・・)

渚たちは祈った、龍玉を見つめながら太陽神殿の出現を。

しばらくするとイルの手の平の龍玉は、宙に浮き始めた。

完全にイルの手を離れると3つが円を描くように回りはじめ、その光は徐々に輝きを増してくる。

-カ・ー・ッ・!・-

辺りを裂くような光がそこから出、それまで穏やかだった海が荒れ始めた。

-ご・ご・ご・ご・ご・ぉ・ー・!・-

海が割れ、太陽神殿が建っている海底が隆起してきた。

「出たぞ!」

その造りはディーゼ神殿と同じ、ただ一つ、中央に高い塔がある事を除いて。

そして、元の状態に戻った龍玉はまるで、案内するかのように、その塔の最上階に下りて行く。

「リー、急いでくれ!」

「はい。」

一行は急降下すると、神殿の正面に立った。
海水が滴り落ちるそこは、潮の匂いで満ちていた。

「わあ!下から見ると高いのね!」

塔はまるで天に届かんとばかりに高くそびえ立っている。

入口である大扉には、やはりディーゼ神殿で見たのと同じ竪琴と剣の紋章が彫ってあった。

「こっちだ!」
扉を開けるとイルは何かに呼ばれているかのように走り続けた。
奥へ奥へと通路を走った。

「ここから先は私たちは入れません。」
奥の扉の前で、リーが精霊たちの声を聞いて言った。

「入れるのはイルと渚だけです。」

「それに、例え、行けてもそうはさせてくれないみたいだよ。」

ファラシーナの指し示す方向からは、金色の狼がゆっくりと近づいてきていた。

「ルーン?ううん、似てるけど銀色じゃない、あれは・・男神ラーゼスの守護獣?」

渚と目があったイルは、違いないと黙って頷いた。

「早く行きな!こいつはあたいたちで何とかするよ!」

「で・・でも・・・」

イルと渚は足が進まなかった。
ファラシーナとリーだけ残しておけれないと思っていた。

「私たちを見くびらないで下さい。」
リーがファラシーナと共にイルと渚の前に、背を向けて立った。

「私たちなら大丈夫です。
あなたたちには、するべき事があるはずです。」

「全く!早く行きなよっ!」

黄金の狼はこっちに向かって突進し始めていた。
ファラシーナはダガーを構え、リーは呪文を唱え始める。

イルと渚はお互いの決心を確かめ逢うかのように目を会わせると扉を開け、中に駆け込んだ。

「頑張ってね!」

「また後でな!」

「あんたたちも、がんばりな!」
中に入り、扉を閉めると同時にリーの呪文を放つ声が聞こえた。

「『水撃破!』」

そして、イルと渚は塔の螺旋階段を上がって行った。

その階段を駆け上がりながら、渚は考えていた。もし、これで終われば、私は家に帰れるのだろうか。

でもそうなったら、イルとは、もう二度と会えないのだろうか。

(とにかく、今は男神ラーゼスに会って分かってもらわなくちゃ。
そんな事考えてる場合じゃないんだ!)

渚は、イルとの別れを思うと気弱になる自分を叱咤し、走り続けた。

最上階、その扉を開けると、太陽神ラーゼスの黄金の像が、イルと渚の目に飛び込んできた。

ゆっくり部屋の中を見渡すようにして入っていくイルと渚。

襲い来るイル

その像の両横にはやはりディーゼ神殿と同じように台座が2つ、その上に空のクリスタルの入れ物があった。

イルと渚がラーゼス神の像の前に立つと、一瞬部屋の空間が歪み、そして直ったときには無限の空間に2人は、放り出されていた。

あるのは、ラーゼスの像と台座のみ。

「イル・・ディーゼ神殿の時もこうだったのよ。それでね、イル・・・」

渚はその視線を太陽神から、横に立っているイルに向けた。

「イル?どうしたの?」
返事がないイルの顔を見て渚の顔は蒼白となった。

そこにいるのは、確かにイルなのだ。
が、そのイルの姿に覆いかぶさるようにあのゼノーの姿がそこに見えた。

「イ・・・イル・・・・?」

渚の声はイルには届いていなかった。
ゼノーとなったイルはその黒銀の剣を取り出すと、渚に襲いかかってきた。

「きゃあっ!」

渚の左腕から血が滴り落ちる。
透かさず、イルは次の攻撃にと移る。

渚は痛みを堪え、ぎりぎりでその攻撃を避ける。
が、イルの攻撃は次から次へと続く。
ぎりぎりで避けても傷はどんどん増えていく。

「な、なんとかしなくちゃ・・・。」

渚は傷の痛みを堪え、少し離れた所に身を寄せた。
そして、意を決したようにイヤリングに手を充てる。

「め、女神ディーゼの名のもと、我は願う、出でよ、ムーンソード!」

「たあっ!」

「きゃっ!」

襲いかかるイルの攻撃をなんとか交わした渚は、運良くひと太刀入れることができた。

「ぐっ・・・」

イルの脇腹から血が吹き出る。
渚は今更ながらその剣の威力を、怖さを悟った。
たしかほんの少し触れただけに違いなかった。

「イ、イル・・・・駄目っ、私、イルを斬るなんて・・・できない。イルを傷つけるなんて・・・・。」

傷口を押さえ、苦痛に歪むイルを見て、渚はムーンソードをイヤリングに戻した。

大粒な涙が渚の頬を伝う。

「女神ディーゼの名のもと、我は願う、竪琴よ、本来の姿に!」

渚は竪琴を奏で始めた。
イルの怪我が治るように、イルが元に戻るように。
そして、できれば、ゼノーの心が癒されるように、闇から解放されるように、と祈りながら。

(私は、ここで切り殺されてもいい。
ただ、イルは、イルの命は・・・助けてあげて。
イルの意思じゃないんです。
きっとイルは心の奥底で戦ってるわ!
女神ディーゼ・・・・お願い、苦しんでるイルを助けて!)

怪我が癒され、痛みのなくなったイルが再び渚に切りかかってくる。
その黒銀の剣を大きく振りかざして。

渚は、そんなイルを見ながら、それでも竪琴を弾き続けていた。
じっとイルの目を見て、次々と溢れ出る涙も拭かず、ただ、祈るように竪琴を弾いていた。

「な・・渚・・・」

黒銀の剣が渚の頭上高く振り上げられ、今度こそ殺されると思い、固く目を瞑っていた渚はその声で、恐る恐る目を開けた。

「け、剣を・・・」

黒銀の剣は、なんと、渚の頭、数センチ上で止まっていた。
剣を持つイルの手はぶるぶる震えている。

「渚・・剣を・・・」

そろりと立つと、渚はイルの手に自分の手を重ね、剣をそっと下に下ろした。

必死で自分の攻撃を止めていたせいで、剣を握ったまま硬直してしまっているイルの指を1本、1本、そこから放す。

「イル、やっぱり心の底でゼノーと戦ってたのね?」
渚はまだ震えの残るイルの腕をそっと掴んだ。

「ご、ごめん、渚。俺が守るなんて偉そうな事言ってて・・その、お、俺が・・渚をこんなにしちまうなんて・・・」

イルはその傷だらけの渚の顔や腕を見て悔やんだ。
自分の心が弱いから身体を操られてしまった。

「ううん。私こそ、イルを怪我させちゃってごめんなさい。」

「俺なんかほかっといて、自分に回復魔法をかければ良かったのに。」

「大丈夫だって!今、回復するから。」

「俺にさせてくれ。」

「う・・うん、じゃお願い。
本当の事言うともう痛くて気が遠くなりそう…。」

「お前らしいな。」

イルは持っていた魔法玉を出すと、渚の前にかざし、呪文を唱えた。

ゆっくりと渚の傷は癒されていく。
それを見てイルはようやくほっと胸をなで下ろした。

「イ・・イル・・見て!」
渚はイルの耳に下がったイヤリングを指さし大声で言った。
それは、もう黒銀ではなく、眩いばかりに輝く黄金になっている。

「こ、これは?」
イヤリングに戻った黒銀の剣も、すでにその色ではなく黄金色を放っている。

『イオルーシム、渚。』

低く優しい声が響いた。
周囲を見るといつの間にか最初見た部屋に戻っていた。

『イオルーシム、渚よ・・・』
その声はラーゼスの彫像から聞こえていた。

「男神、ラーゼス?」

そこから発せられるその気高さに、イルと渚はおずおずとその前に畏まった。

『お前たちの心の内、しかと見た。
渚よ、我がディーゼの加護を受けし娘よ、よくあの場を堪えた。
そして、イオルーシムよ、よく剣を止めた。
どちらか一方でも倒れれば、今、この場にお前たち2人共いなかったであろう。
私は今一度、人間に機会を与えよう。今少し様子を見る事にしよう。』

「男神様・・・。」

「男神ラーゼス・・・。」

2人はあまりの感動にその先が言葉にならなかった。

『2人とも立つがよい。』

手を取り合いながら立ち上がった2人の目の前に、赤、青、緑の玉が光と共に現れた。

「こ、これは龍玉?」

驚いている2人の目の前で龍玉は小さくなっていき、すっとイルの竪琴のイヤリングに吸い込まれるように入っていった。

『白き無の世界は元には戻らぬ。
だが、その竪琴を使い、新しく生まれ変わらせる事ならばできよう。
その場所に行き、2人で心を合わせ、奏でるがよい。
それは、創世の竪琴、遥か昔、私とディーゼでこの世界を造った時のもの。』

「女神様と・・・。」

渚は思わず自分が着けているイヤリングにそっと触れてみた。

『だが、心せよ、汚れなき心で奏でれば、美しい世界に、悪しき心で奏でれば、それなりの闇の世界となる。』

それでゼノーは私を、このイヤリングを欲しがったんだ、と渚は思った。

『行くがよい、イオルーシム、渚。
白き無の世界を生き返らせるがよい。』

 

▼その36につづく…

創世の竪琴/その36・白き世界の創世

斬りかかってくるイルに対峙するのではなく、回復魔法を唱えた渚の気持ちに応えるべくイルも自分を操っているゼノーの意識と戦い、押さえ込むことに成功。 そんな2人を太陽神である男神ラーゼスは認め、世界を無に ...

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