(ひょっとして、これから大冒険が始まる?黒の森の魔王退治?…なんちゃって…ついゲーム感覚になっちゃったけど…夢だから、何が起こってもいいわよね?)
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渚の頭の中では、カッコよく魔物退治しているシーンが繰り広げられていた。
翌朝、太陽が昇りかけた頃、渚は元気良く飛び起きる。
部屋を出ると、すでにグナルーシとイルはテーブルに着いてた。
「おはよう、おじいさん!イル!」
「ああ、おはよう、渚。」
「おはよう・・・。」
「なあに、なあに、イル、もしかして緊張してるの?駄目ねぇ!私を見習いなさいって!大丈夫だって!」
イルとグナルーシが幾分緊張気味のような感じであるのと反対に渚がごきげんである。
(そう!何といっても私の夢だもんね。悪いようになるわけないわ!)
「さあ、朝御飯、朝御飯!腹がへっては戦ができぬってね!」
食事はできあがっているようなのだが、テーブルに座ったままで一向に支度をしないような2人に代わり、渚はさっそく食事の支度を始めた。
「ほら、ほら!」
渚に追い立てられるように食事を済ませると、出発の準備をし始めた。
「じゃ、おじいさん、行ってきます!かる~くモンスター共を倒して、武具を手にいれてくるからね!」
「・・・・・・・・・気をつけてな。」
もしかすると帰らないかもしれない2人を見送るグナルーシは、呆れてしまうような明るさの渚に、彼女でよかったのだろうかという不安を感じずにはいられなかった。
が、今更後には引けない。
後は2人が無事に帰って来ることだけを祈るのみ。
道ならぬ山道を登り、小1時間後、渚とイルは切り立った崖の岩壁にある2メートル程の高さの、がっしりとした門の前に立っていた。
門柱も扉も銅でできているらしく、緑青が一面にふいている。
蔦がびっしりと覆っており、相当長い間開けれられたことがない事が容易に判断できる。
「ふう・・・。」
溜息をつくとイルは袋から鍵を取り出し、門を開けにかかった。
-ガチャリ-
「開けるぞ。」
「う・・・うん。」
緊張した面もちのイルを見、そして、いよいよ冒険が始まるのだと、渚も自分顔が強張ってくるのを感じていた。
-ギ、ギギギギギィィィィ・・・・・-
きしみながら開く門は、一層2人の緊張感を増す。
門が開くと渚とイルの目の前には、真っ暗な洞窟が奥に延びていた。
しーんと静まり返った洞窟は、返って不気味さをも醸し出している。
「何にも見えないわ。」
「ちょっと待ってな。」
イルは、ごそごそ袋の中から拳大の透明なクリスタルを取り出した。
それはちょうど首にでもかけれるように紐がついている。
両手で包み込むようにそれを取ると、イルは精神を集中し始めた。
「暗き闇を払い、我等の道を照らしたまえ・・・・ライト!」
クリスタルの中心に小さな明かりが灯る。
そして、徐々に大きくなったそれは、2人を包み込む程の光を発するようになった。
イルはそれを自分の首にかけると先に進みだし、渚は慌ててイルの後を追う。
「綺麗ね、それ。魔法のアイテムってとこね。私には使えない?」
クリスタルをのぞき込むようにして聞く渚。
「どうだろ?渚にはまだ無理なんじゃないかな?もっともアイテムだから慣れればできるようになるとは思うけどな。」
「じゃ、ちょっとやらしてよ。」
「お前なぁ、遊んでんじゃないんだぞ。」
「いいじゃない、ケチ!減るもんじゃあるまいし!」
この非常時に!と半ば呆れ顔のイルにピクニック気分の渚は食い下がる。
「精神力が減るんだよ!そうしなきゃならない時は、いやでも渚に頼むからな。その時までとっときな!」
「はーい。」
本当は今試してみたくてしかたがない。が、イルの真剣な表情は渚に有無を言わさない雰囲気だ。
しぶしぶ承知すると少し不服そうな顔の渚はイルの後に従った。
暫く歩いて行くとドーム型の少し広い空間にでた。
真正面には紋章らしきものが彫られた大扉があり、その前面、ちょうどドアの幅の地面に魔方陣が描かれている。
そして、その中心には1本の杖が淡い光を放ちながら浮いていた。
「これが封印ってわけでしょ?イル、あなたこの封印を解けるの?」
「ああ、この封印は昔おじいが施したんだ。おじいの意思によるものなんだ。
だから、おじいの意思を継ぐ俺が触れば簡単に解けるって言ってた。
・・・杖が俺を認めるだろうからって。」
「認める?杖が?」
「そうだ。この杖はおじいの精神なんだ。
本当はおじいはあんなよぼよぼのじいさんじゃないんだ。
魔物が外に出ないため、おじいの精神力はこの杖に吸い取られているんだ。
大魔導士の異名をとったおじいだからこそ出来る事なんだけどな。
普通の魔法使いあたりならとっくに死んじまってるよ。」
「ふ~ん・・・・・。」
2人は暫くその淡く輝く杖をじっと見つめていた。
「でも・・これを解いたら、大扉の向こうからどっとモンスターが出てくるんじゃ?」
相変わらず、辺りは静まり返っている。
その静けさを破るように渚はイルに問いかけた。
「杖のパワーはドアの向こうまで影響してるんだ。
だから、ドアの近くまでは魔物も来れないはずだ。
ドアを開けて入るくらいの時間なら大丈夫だと思うっておじいが言ってたけどな。」
不安気な渚を勇気づけるように、イルは明るく言った。
「それに、俺たちが入った後、おじいが再び封印するから魔物が外に出ることはない。
もっとも、もたもたしてるとやばいかも知れないけどな。」
「ふ~ん・・・・あっ!でも、また封印されて私たちが出るときは?」
「その時はその時。多分大丈夫だと思う。」
じっと杖を見ているイルの顔を渚は横から見ていた。
「『多分』・・・・・ねぇ・・・」
(結構いい加減なのね。でもまぁそんなに堅く考える事もないわよね・・)
「・・・・・・じゃ、そろそろ解いてくれない?」
「そうだな・・・・・そろそろ・・・・」
口ではそう言っても、イルは魔方陣の中へなかなか足を進ませようとしない。
「イルぅ・・・・怖いんでしょ?」
「ば、馬鹿こけ!!んなわけないだろ?」
意地悪そうな眼をして顔を覗き込んだ渚をはじき飛ばすように、イルは一歩足を魔方陣の中へ踏み入れる。
その瞬間イルを確認するかのように杖がぱっと輝き、やさしい気が彼の全身を包み込む。
「おじい・・・・・」
その瞬間、イルの脳裏には、幼い彼を肩車して夕焼けの山道を歩くグナルーシのやさしい顔が浮かんだ。
修行の時は厳しかったが、それ以外の時はとてもやさしいグナルーシだった。
そんな事もすっかり忘れていたイルだったが今その杖の気に包まれ、はっきりと思い出したイルは、改めてグナルーシのやさしさに触れた気がした。
「おじいの心・・・・・」
イルはゆっくりと中心にある杖に向かって歩を進め、杖に手を延ばす。
そんなイルを渚は緊張してじっと見つめている。
イルが触ると、杖はゆっくりとその輝きを失くしていき、何事もなくイルの手に収まる。
「渚、行くぞ!」
イルはそっと杖を魔方陣の中心に置くと、渚に向かって叫び、大扉を開けにかかった。
「はい!」
その声と同時に渚も開きかかった大扉に向かって走る。
竪琴と剣が組み合わされた紋章が描かれている大扉。
-ギ、ギ、ギギギィィィ・・・・・-
渾身の力を振り絞って扉を押すと、鈍い音をたてながらゆっくりと開いていった。
▼その8につづく…
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創世の竪琴/その8・魔法と魔物・初体験
-ギ、ギ、ギギギィィィ・・・・・- 渾身の力を振り絞って扉を押すと、鈍い音をたてながらゆっくりと開いていった。 (前の話。創世の竪琴その7はここをクリック) 2人は顔を見合わせると急いで中に飛び込み再 ...