創世の竪琴

創世の竪琴/その37(完)・いつかどこかで

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創世の男神が真っ白の無の世界に帰した世界のほころび(?)を、イルと一緒に再生していく。女神ディーゼの銀の竪琴と男神ラーゼスの黄金の竪琴をイルと2人で奏でて。心を一つに合わせて。
その2人が奏でる調べに乗って真っ白だった世界は、絵画から浮き出るように創世されていく。

その37・いつかどこかで

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の途中の展開です。
女子高生渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】お話の最初からのINDEXはこちら
創世の竪琴この前のお話は、ここをクリック

お役目終了

「う、う~ん・・ここは?」

渚は町の宿屋の1室で目が開いた。ふと見ると横のベッドにイルが寝ている。

「気がついたかい、渚?」
枕元でファラシーナの声がした。

「ファラシーナ?・・わ、私?」
渚はファラシーナの方を見ると聞いた。

「もう3日も眠ったままだったんだよ。余程精神力が要るんだね。」
ファラシーナが微笑んで言った。

「そうですね。丸1日竪琴を弾いていましたしね。
イルも今、目が開いたところなんですよ。」

ドアを開け、部屋に入って来たリーが微笑みながら言った。

「渚もそろそろ目が覚めるのではないかと思い、紅茶をいただいてきました。」
リーは二人のベッドの間にあるテーブルに紅茶を置いた。

「あ、ありがとう。喉カラカラよ。」

「起き上がれるかい?」

「う、うん。ありがとう。」
起き上がるのを手助けしてくれたファラシーナに礼を言うと渚はカップを手に取った。

「俺も。」
イルも起き上がるとカップに手を延ばした。

2人の視線が会い、渚は真っ赤になって慌てて紅茶を飲んだ。

竪琴を弾いていた時、イルの温かい心がしみ込んでくるのが、痛いほどわかり、同時に自分のイルに対する想いも、はっきりと分かった事を思い出していた。

(もうすぐお別れ・・もうすぐ・・)

渚は、ファラシーナが興奮したように話す、白い世界が変わっていく様を微笑みながら聞いていた。

が、イルとの別れを思い、渚の心は沈んでいた。

(イルとは離れたくない・・でも・・ここにいる訳にもいかない・・・)

『あれを見たら、あんたたちの間には入れないってつくづく思ったよ。』という言葉を残してファラシーナは彼女の仲間の所に戻って行き、リーは山賊家業から足を洗ったばかりで、苦労してるだろうから、とザキムたちの所に戻って行った。

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ディーゼ神殿にて

渚とイルは、ニーグ村に一端戻り、村長夫妻を初めとする村人の大歓迎を受け、そして、今、あらためてディーゼ神殿の女神像の前に立っていた。

その像を見ながら、それまでの事を2人は思い出していた。

別れを思い、お互い言葉が出ない。
じっと女神像を見ながら身動きもせず、静かな時だけが過ぎて行った。

『渚・・イル。』
突然、像から声がした。
2人にはそれが女神ディーゼの声だとすぐ分かった。
やさしく心にしみ入るような声だった。

「女神様・・」
渚は思わず呟いた。

『渚、イル・・ご苦労さまでした。
そなたたちのおかげで、世界は救われました。わたくしからも礼を言います。』

渚とイルの耳に付いているイヤリングが、光を放ちながら、静かに離れ、クリスタルの器に入っていった。

同じ器に寄り添うように納められた2つの剣と2つの竪琴を見る渚の目からは、大粒な涙が零れ頬を伝う。

「わ、私・・・・」

『渚・・また、会える日が来ます。
・・時の輪が交差する時・・2人は、必ず・・』

「渚・・・」

「イル・・」

お互いを確認するかのように、固く抱き合い口づけをする2人を光が包み、そして、イルだけを残して、渚は光と共に消えた。

「イル・・いつかまた会えるわよね。本当に。」

自分の家に戻ってきた渚は、しばらくそこに座ったまま身動きもせず、じっとパソコンの画面を見つめていた。涙が次々と溢れ、止まらない・・・・・。

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日常生活は平穏に

そして、自分の世界に1人戻った渚の日常は平穏にすぎていき……
渚たちが作ったそのゲーム【創世の竪琴】を公開する文化祭当日・・・

「渚っ!」

運動場の片隅で、出店で買った焼きそばをほおばっていた渚のところに、千恵美が走り寄ってきた。

「どうしたの?・・」

時計を見た渚は、まだ私の当番の時間じゃないのに?と思いながら千恵美を見る。

「大当たりよっ!あのゲーム!みんな順番待ちでやってるわ!」

「そう・・よかったじゃない。」

「何よぉ?気のない返事をして?渚が作ったんじゃないのぉ?」

「みんなでね。」

「ま、そうだけどさ・・でも発案者は渚だし、ほとんど渚が作ったようなものじゃない?好評につき、ダウンロードゲームとして販売するって!」

「ホント?ふ~ん・・・・」

「もう!他人事みたいに言ってぇ・・・
どうも夏休み以降沈んでるわね?何かあったの?」

「別に・・・」

「おっ!なんだ、こんなとこにいたのか?」

その声に振り向くと、部長の山崎が立っている。

「ゲーム好評の褒美に、これお前にやるわ!」

ばふっと渚の顔目掛けて投げてよこしたそれは、頭が少し尖っている真ん丸なブルースライムのクッション。

目がくるくる動くおかしな表情のもの。

「危ないじゃないのっ!」
顔の寸前で受け止めた渚が部長を睨む。

「何よ?2Bの出店で売ってたやつじゃない?」

「はははっ!お前にゃぴったりだろ?」

「ぶうぅーっ!」
思わず渚は膨れっ面をする。

「ほら見ろ、その顔!そっくりだ!」

「もうっ!部長ったらっ!」

-はははっ!-

ぬいぐるみの顔の真似をした部長に、渚も千恵美もそして、本人も笑っていた。

「笑ってた方が、桂木には、あってるぞ!」

「え?」

「最後のフォークダンス、付き合ってくれよ、な!」
照れ笑いして、部長は部室のある校舎へ駆けて行く。

「えっ?何?何?・・ひょっとして部長って・・?えーっ!?」
目を丸くして千恵美が渚を見る。

「な・・何よぉー?ちーちゃん?」

「ふ~ん・・そうか、そうか・・・」

「わ、私は部長のことなんて・・」

「ま、いいじゃないの?そろそろ勇者様から卒業しても?
じゃ、私、約束があるから!」

勝手に決め込んで、祀恵はウインクすると走り去っていく。

「もうっ!そんなんじゃないわよ、絶対っ!」

いつもの部長のからかいなんだからと千恵美の後ろ姿に文句を言ってから、スライムのクッションに目を移す。

「ララ…?」

その顔はまづでララがおどけた時のような顔。

「勇者様卒業試験にしては・・キツ過ぎるわよ・・・・。」
クッションを見ながら、思わず渚は呟く。

「精神的ダメージ9999、最高値!!」
ふう・・・ため息をつき、自嘲する。

「ララ・・お前は、イルと一緒にいるの?」
ふと見上げた空に、ララとふざけ合って笑ってるイルの顔が見えたような気がした。

 

-完-
最後までお読み下さり有り難うございました。

▼続編につづきます

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