(そ、そんな事言っても・・・・苦しくて・・・・もう手も足も・・・動かない・・)
手に取った玉も落とし、渚は力無くそこへ崩れるように倒れる。
「な、渚ぁっ!」
暗闇の中、渚はイルの悲鳴のような叫び声を遠くに聞いていた。
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「ここ・・・・どこ?真っ暗。」
気がつくと渚は真っ暗な所を歩いていた。どこにいるのか少しも分からない。
だだっぴろい真っ暗な空間に1人歩いていた。
「スライムに飲み込まれて気を失ったはずなのに・・・夢が変わったのかしら?」
もっとあの夢を見ていたかった、と思いながら渚は何もない暗闇の中を歩いていた。
「あっ、明かりが見える!」
行く手に明かりを見つけ、渚はそっちに駆け寄る。
その明かりは真四角。ちょうど暗闇を切った真四角な窓といった感じだ。
「何なの、これ?ここから出れるわけでもないし・・・・。」
その真四角な窓(?)をじっと見ていた渚は不意にその窓一杯に彼女の弟、優司の顔が写る、渚は驚いてのぞける。
「な、何、何?ゆ、優君?」
どうやら優司から渚は見えないらしく、独り言を言いはじめた。
「あーーあ、お姉ったら、またつけっぱなしだ!かあさんに見つかると怒られるってのに・・。ったく、手の焼ける姉貴だ!」
-プツン-
再び周りは真っ暗になる。
「な・・・何?今の?・・・えーと、えーと・・・考えられる事は・・・さっきの四角い窓は・・・もしかしてパソコンの画面?・・で、こっちがパソコンの中にいる?・・・・ええーっ、何でえ?どうしてえ?
・・・・あっそっか、夢なのよね、これも。そう、そうなのよ。
あはははは、馬鹿みたい、夢なんだからおかしくて当たり前よね。
でも本当に真っ暗で・・・何かないかしら・・えっ?何?炎なの、これ?」
暗闇の中を歩いていた渚の身体を、どこから出たのか分からないが、急に赤い炎が包み込んだ。
最初はなんともなかった渚だが、炎がほぼ全身に回ったと思ったと同時に急に熱さを感じた。
「き、きゃあああ!!」
「渚、渚!」
「えっ?」
がばっと上体を起こした渚の目に入ったのは心配そうな顔をして覗き込んでいるイル。
「大丈夫か、渚。」
「え・・・ええ。大丈夫みたい。」
渚は辺りを見渡し、元の洞窟にいる事を確認した。スライムはもういないようだ。
「すごい、全部やっつけちゃったの?」
「ああ、なんとかな。でもよかった!息を吹き返さなかったらどうしようかと思ってたんだ。どっか痛むところあるか?」
「ううん、どこも。」
「よかった。他に方法も思いつかなかったから、スライムごと燃やしちゃったもんな。
もっともあとでヒールの魔法をかけておいたけど。」
「じゃ、身体を炎で包まれたのがそうだったわけね・・・。」
「立てれるようなら行くぞ。」
「ええ。急がなくっちゃね。」
(よかったまだあの夢の続きだったんだわ。冒険はまだまだ序の口、強力なモンスターはこれからなんだから、頑張らないと!)
そう自分に言い聞かせながら歩きだした渚は、ふとまだ首筋に残る冷たさを感じて手を充てた。
「何?これ?まさか、さっきのスライム?」
首筋に張りついていたのは、親指大の青いゼリーのようなものだった。
またスライムが、と渚は思わず天井を見上げた。
が、天井には何もない。
「スライムには間違いないようだな。動いてるもんな。」
渚の手から取ってイルはそのブルースライムをじっと観察した。
「さっきの奴の一部ってわけでもないようだな。見てみろ、小さな目があるぞ。」
「目?」
改めてそのスライムを摘んで見ると、確かに小さくてもまん丸な可愛い目、それと口があった。
そして、渚がじっと見つめていると、突然その口から可愛らしい声が出た。
「チュララ?」
「な、何か言ったわよ、イル?!」
「ああ、確かに。」
イルはもう一度よく見てみようと手を延ばす。
「チュララ!」
再びイルの手に摘まれたスライムは、明らかに怒ったようだ。小さな口を精一杯開け、イルの指を噛んだ。
「いてっ!」
その隙にスライムは渚の手の平に飛び移ると、嬉しそうに身を擦り寄せた。
「かっわいい!この子きっとはぐれスライムよ!まだ赤ちゃんなんだわ。私のこと気に入ってるみたい!」
「渚・・・・まさか、お前・・・・」
「だって、可哀相でしょ?こんな所にひとりぽっちにしちゃ。ね、いいでしょ?連れてっても?」
イルはやっぱり、というような顔をして大きく溜息をつく。
「渚、そりゃ今は可愛いかもしれないが、いつ巨大化して襲ってくるとも限らないんだぞ。そん時どうすんだ?」
渚はじっと嬉しそうに自分の手の平で飛び回っているスライムを見つめていた。
「で、でも・・・・。」
「チュラ、チュララ、ナギ、ナギ。」
「イルっ、聞いた?『ナギ』だって!きっと私の事よ!」
イルは1人、いや1匹仲間が増えることはどうあっても拒否できないだろうと確信した。
「勝手にしろ。その代わりどうなっても知らないゾ!」
「ありがとう、イル!良かったね、ララ。」
「何だ、その『ララ』って?」
「このスライムの名前よ。『チュララ』からとって、『ララ』。男の子か女の子か分からないけど。」
「勝手にやってな。」
呆れ返ったイルは、再び大きな溜息をつくと洞窟の奥へと足を進めた。
「あっ、待ってよ、イル!」
渚はララを肩に乗せると慌ててイルの後を追った。
▼その10につづく…
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創世の竪琴/その10・いざ、神殿内部へ
呆れ返ったイルは、再び大きな溜息をつくと洞窟の奥へと足を進めた。 「あっ、待ってよ、イル!」 渚はブルースライムのララを肩に乗せると慌ててイルの後を追った。 (前の話。創世の竪琴その9はここをクリック ...