呆れ返ったイルは、再び大きな溜息をつくと洞窟の奥へと足を進めた。
「あっ、待ってよ、イル!」
渚はブルースライムのララを肩に乗せると慌ててイルの後を追った。
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「いけね、また行き止まりだ!」
「もうこれで何度目なの?まさか同じ所をぐるぐる回ってるんじゃないでしょうね?もういい加減にゾンビやゴブリンにも飽いてきちゃった。」
「お前は何にもしてないだろ?俺が全部やっつけてやってるんじゃないか!
勝手なことばかり言ってるんじゃねーよ!
・・とにかく、同じ所って事はないと思うけどな。
そうだ、渚、お前、道を知らないか?」
「何で私が?」
「だってお前、神殿の事とか、知ってただろう?」
「そりゃ、そうだけど・・こう入り組んでちゃ・・・あっ、そうだ、ねぇ、ララ、神殿ってどっちか知らない?」
丁度、分かれ道に来ていた渚は、肩のブルースライムを手の平に乗せると顔の前に持ってきて聞いてみた。道は3本に分かれている。
「チュララ!」
ララは嬉しそうにピョンピョン跳ねるとくるっと向きを変え、頭を尖らせ、一方向を指した。
どうやら右に曲がれという意味らしい。
「お、おい、待てって!」
ララの指し示す通りにさっさと歩き始めた渚にイルは慌ててついて行く。
「あっ!明かりよ!きっとあそこが出口なんだ!」
本当にララの指し示す道でいいのだろうか、とさすがの渚も不安になりかけた時、前方に明かりが見えた。
渚はようやくこの薄暗い洞窟から出れる嬉しさで、我を忘れて駆けだした。
「渚っ!」
イルがそんな渚を止めようと大声を出した時だった。
「きゃあああああ!!」
「馬鹿っ!言わんこっちゃない!」
慌てて外に出ていった渚の後を追いかけるイル。
外は、ヒュージ・スラッグの絨毯だった。
「イ・・・イル・・・お・・・おばけ・・な・な・な・なめくじ・・・。」
その異様さに顔面蒼白、全身はがたがた震えて身動き一つできずに渚は一歩出た所で突っ立っていた。
「ファイラとの盟約に基づき、我、全てを消滅させん・・・・『赤龍雷撃』!」
火花散る黄玉がイルの手から放たれると、雷龍が現れ、辺り一帯雷撃が走り、スラッグの絨毯は煙となって消滅した。
「・・・・・・・」
渚は声もなく、その場所にへたへたと座り込んだ。
「大丈夫か、渚?だから油断しちゃいけないんだって!」
「う・・・うん。ごめん。」
「チュララ!」
渚を苛めているとでも思ったのか、ララが渚の肩の上でピョンピョン跳ねながらイルに怒っている。
「おいおい、ララ、違うんだってば!」
「ララ、違うの!イルは助けてくれたの!」
「チュラ?チュララ?」
分かったのか分からなかったのか、ララは渚とイルの顔を交互に見、そして二人の肩や頭の上を跳ね回り始めた。
「チュララ、チュラ!ナギ、イル!ナギ、イル!」
「くすぐったいってば!」
「おいおい、ララ!」
「あははははは!」
神殿に向かってから初めて2人から笑いがこぼれた。
風雨による侵食にまかせっきりだった神殿は昔の美しさは全くなく、汚れ、所々壁が崩れかかっていた。2人が出た中庭には、雑草が我が物顔をして生えていた。
「ふ~ん、ギリシャ神殿風の造りね。でも、これって全部大理石じゃない。昔はきっとすっごく綺麗だったんでしょうね。」
「ギリシャ神殿?」
「そう、私の世界じゃなくて、国では、こういう建て方をそう呼んでるの。」
「ふ~ん。」
「開けるぞ。」
中庭からぐるっと正面に回り、正門の前で一端立ち止まると、イルは渚に確認するように言った。
渚はごっくんと唾を飲み込むとイルに開けるように目で頷く。
-ギ、ギギギギィィィィィィ-
扉を開けると薄暗い神殿内から一陣の風が吹いてきた。
2人は全身に水をかけられたような冷たさを感じた。
「行くぞ。」
「え、ええ。」
渚の短剣を握りしめる手に自然と力が入る。モンスターは、今までとは桁違いに手ごわいに違いない。
これからが本番!夢とは思っていても緊張してしまう。
入った所は広いホールのような所だった。
が、薄暗いそこは、予想に反して怖いほどの静けさを保っているのみ。
「渚、このクリスタルを使って明るくしてくれ。
玉の魔法を発動させる訓練にもなるからな。
少しは慣れておかないとな。
ここのモンスターは、今までのようにはいかないだろうからな。」
イルは自分の袋から洞窟で使った透明なクリスタルを出し、渚に渡した。
渚はそっとそれを両方の掌に乗せると、精神を集中し始める。
「えっと・・・・明るくなる事をイメージするのね。」
「そうだ。」
(魔法のクリスタルよ、私たちを照らして!明るくして!・・・・・)
「暗き闇を払い、我等の道を照らしたまえ。・・・ライト!」
ぽあっとクリスタルの中心が明るくなってきた。
(よーし、その調子!)
渚が期待してじっと見つめていると、その明かりは少しずつ大きくなり、やがてクリスタルいっぱいの明かりになった。
さあ、その明かりが周りに広がるかな?と渚は期待していたのだが、そこから少しも大きくならない。
「イ、イル・・・・?」
「駄目だな、そんなんじゃ。もう一度やってみろ。もっと強く思うんだ!」
「強くったって。どうすれば強く思った事になるのか分からないわよ。」
「信じるんだ!必ず明るくなるって!」
「信じるねぇ・・・・・。」
2回、3回と試みてはみたのだが、一向に成功する気配がない。
「ふう、またの機会にしよう。こんなところで時間を潰すわけにはいかないしな。」
「ご、ごめん、イル。」
「まっ、気にしないことだ。最初からなんて無理なんだって。そのうちできるようになるさ。」
「う、うん。」
「チュチュラ、チュラ!」
「はは、ララもそう言ってる!」
「・・・・・ん!そうね!!」
「チュララー!」
結局、明かりはイルがつけ2人は奥へと進み、行き止まりにあったドアを開けた。
「な、何?全然前が見えないわ。イル!」
突然靄が辺りに立ち込め、すぐ横にいたはずのイルの姿も見えなくなってしまった。
「イル?そこにいるんでしょ?」
手を延ばしても空を掴むだけ。イルの声も聞こえず、気配さえ分からない。
「イル?・・・・イルゥ!!」
渚は両手を広げると、手探りしながら一歩一歩、歩き始めた。
が、前に出した自分の手でさえ見えない状態は渚を徐々に恐慌状態に陥らせていった。
「イル・・・・イルったら!いるなら返事をしてよっ!」
(・・・もう嫌っ!今にもモンスターが出てきそう。目が覚めて!お願い!もうこんな夢いいから!)
楽しい夢から悪夢に変わり、渚はなんとか自分の目を覚まそうと頬や頭を叩いたり、つねったりしてみたが、一向に目は覚めそうもない。
思いっきりつねった手の甲が真っ赤になりじんじんして痛いだけ。
「イルぅぅぅぅぅぅ!!何で?どうして目が覚めないの?
このくらいの痛みじゃ駄目なのぉ?
・・でも、でも、夢なら痛くないはずじゃ・・?」
完全に恐怖に支配されてしまった渚は頭を抱えてその場にぺたんと座り込んでしまった。
▼その11につづく…
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創世の竪琴/その11・銀髪の魔導士との遭遇
「イルぅぅぅぅぅぅ!!何で?どうして目が覚めないの? このくらいの痛みじゃ駄目なのぉ? ・・でも、でも、夢なら痛くないはずじゃ・・?」 完全に恐怖に支配されてしまった渚は頭を抱えてその場にぺたんと座り ...