闇の紫玉

闇の紫玉/その25・瀕死の女王

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ヴォジャノーイ族の宮殿にたどり着くゼノー。
ムーンディアは確かにそこにあったが、一族の窮地を脱するため、今しばらく貸してほしいと言うヴォジャノーイ族の女王に会うことになった。

闇の紫玉、その25・瀕死の女王

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

瀕死の女王

奥宮の最奥にある女王の寝室。
薄絹の向こうに女王は横たわっていた。

「女王様、闇王様をお連れしてまいりました。」

「闇王様を?」
薄絹の向こうの髪の長いやせ細った影が慌てて起き上がり、ゼノーの方を向く。

「闇王様、・・このままお話するご無礼をお許し下さい。
今のわたくしは、闇王様の御前に出れるような体ではござりませぬ故・・・」

「それでお加減はいかがでしょう?」
薄絹の手前に用意されたイスに座り、ゼノーは女王に話しかけた。

「はい・・・おそらく、わたくしは、もうあまり長くは・・・ないと存じます。
一族の繁栄の為に次ぎなる女王はどうあっても必要です。
でも・・・駄目なのです。ムーンティアの力を借り、姿を偽っても・・駄目なのです。
男性を受け入れる気が全く起きないのです。
このままだと一族が滅んでしまう、そう思って自分自身を奮い立たせようとするのですが・・何ともならないのです。
それに、もう水面に出る気力さえも残ってはいないのです。」

「私では何か力になれませんか?」
ゼノーは薄絹の向こうでうなだれている女王にやさしく言った。

「ありがとう存じます、闇王様・・もし・・」

「もし?」
ゼノーは言いかけて止めた女王の言葉が気にかかった。

「いえ、何でもないのです。お忘れくださいませ。」

「話して下さい、女王、言いかけた続きを。」

「いえ・・それだけはご勘弁下さりませ。」

「いいえ、話かけたのです。最後まで聞かなくては私の気がすみません。」

しばらく黙っていた女王は、どうあってもゼノーの気は変わらないと判断すると、話すことを決めた。

「では、お怒りにならぬ、とお約束下さいますか?」

「勿論です。」

「では・・・つまり、その・・」

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女王の提案

ベッドの上で額ずいた女王は、震える声で話しはじめる。

「もし、闇王様がお許し下されば、そのお種を、と思ってしまった訳なのでござます。
申し訳ございません。とんだ不躾を申しあげまして。」

「・・・・・」
ゼノーには何と答えていいか分からなかった。

子孫というからには、子供を授からなければならないということはわかる。
そして、父と母、2人の間に子供が授いるということは知っている。

が、ゼノーはまだ実際にはそれ以上知るはずのない幼児であることも確かだった。

それ以外の事に関しては、大人に引けを取らない知識と思考力を得ていたが、その事は、皆目不明のままだ。

しばらく考えていたゼノーの脳裏に、ふっと大人になれる薬の事が浮かぶ。

「私はまだ5歳の子供です。でも身体だけなら、薬で大きくできます。
それでは駄目ですか?」

「5歳・・・申し訳ございません。
おそらくお身体のみでは・・無理・・かと。」

「そうですか・・。」

「女王様。」
傍に控えていたエリオナが二人の前に進み出た。

「何ですか?」

「はい、この第四層の最南部にウルザルブルンという泉がございます。
その中央に世界樹ユッグドラシルの大木が生えています。
その世界樹に住む三姉妹に頼めば、成長させてくれるかと存じます。」

「ノルニルの三姉妹ですか・・・確かに彼女たちなら可能かも知れませんが。」

「そこへ行って三姉妹に頼んでみます。」
ゼノーは気軽に答えた。

「闇王様・・で、でも・・・」

「そうしないと、一族は滅んでしまうのでしょう?
大丈夫です、必ず大人にしてもらってきます。
それに、私にとってもその方がいいのかもしれませんし。」

できるなら今後その必要性があっても、あの薬は二度と飲みたくないとゼノーは思っていたことも理由の一つ。
そして、やはり闇王というかぎりは、王たる威厳を示すにはやはり大人である方が有利だと、それまでの経験で感じていた。

「そこまで甘えてしまってよろしいのでしょうか?」

「私は構いません。いえ、かえって都合が良いと判断しました。」

「そう…でございますか…。ありがとうございます。
では、お言葉に甘えさせていただくことにします。」

「はい。」

「水鏡の部屋へエリオナに案内させましょう。
その部屋からつながっている水路、水鏡の道をお進み下されば、すぐその泉に出られます。」

再びベッドの上で額ずくと、女王は涙を流してゼノーに感謝した。

 

▼その26につづく…

創世の竪琴・番外編【闇の紫玉】INDEX

【創世の竪琴】に登場する黒の魔導師(闇王)ゼノーの物語です。 紫の瞳を持って生まれたばかりに、周囲から疎まれ、幼くして放浪し逃げまどうゼノーとリーの双子の兄弟。 迫害されて窮地に陥ったゼノーを暖かく迎 ...

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