「こ、これ・・・・ロングソードのイヤリング・・・・ゲームならこれが本物の剣になったりして・・・本当にただの装身具だったらやばいけど・・・。」
渚はそのイヤリングを自分の耳に着けるとその小さな剣の柄をぐっと摘んだ。
そして、剣を抜くべく、祈るような気持ちでそれを引っ張る・・・・
(前の話、創世の竪琴その14は、ここをクリック)
「女神ディーゼの名のもと、我は願う、出でよ、ムーンソード!」
そう、渚はその剣の名前を知っていた訳ではない。
ただ、思いついたままの言葉が自然に口から出たのである。
それは、こういう場面ならというゲーム好きだからこその方向性があったからなのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
…と、その瞬間、銀色の光を放ちながら、イヤリングの剣は本物となる。
「やったわ!」
渚は右手に収まったその剣をぐっと握りしめる。
『があっ!』
-ザクッ!-
咄嗟に狼の攻撃を避け、その前足に一刀を加える。
その切れ味のよさ・・信じられないくらいすっと傷が走った。
狼が怯んだ隙に、渚はもう一つの台座に急ぎ竪琴のイヤリングを着ける。
「だてに、ロープレ・ジャンキー(RPGゲームおたくの意味)じゃないんだからね。
こういう時は、多分これは・・・そう、私の感は当たるのよ・・・・」
渚は大きく深呼吸すると狼を睨みながら自信を持って叫んだ。
「女神ディーゼの名のもと、我は願う、竪琴よ、本来の姿に!」
剣の時とおなじように、光と共に竪琴は小脇に抱えれるくらいの丁度よい大きさになり、渚はそれを爪弾きながら静かにそして、祈るように呟いた。
「ヒーリング!」
ほわ~~~っと渚の身体を暖かい気が覆う。
それまでの火傷も怪我も折れた骨も全て癒され、痛みは瞬く間に消滅し、服までも元通り。
「さーて、戦いはこれからよ!話を聞いてくれないんじゃ、守護獣だか、番犬だか知らないけど、容赦しないから!覚悟なさいっ!」
調子に乗った渚は、剣を構え、ぐぐっと狼を睨みつける。
『ディーゼ様・・・』
攻撃もせず、しばらくじっと渚を見ていた狼はそう言うと再び低く唸り声を上げた。
気づくと、辺りは再び元の部屋に戻っていた。
『もう一度弾いてみてくれ。』
折角戦意が上がったのに出端を挫かれ、渚は呆然としていた。
『娘よ、今一度、竪琴を。』
「は、はい。」
『ポロン、ロロロロ・・・・』
不思議な余韻のある音色だった。全てにやさしい気持ちを抱いてしまうような音だった。
『確かに確認した。そなたは我が主、ディーゼ様の意に添う者。』
「意に添う者?」
『そうだ。でなければ、その竪琴を弾くことはできぬ。剣を抜くことはできぬ。』
「そ・・・そうなの?」
『ふむ・・・・何やら上の方が騒がしいとみえる。』
狼は上を向くとその様子をみるかのように目を閉じた。
『闇の者め、集う場所をわきまえよ!』
狼の身体全体から眩いばかりの光が出、その眩しさに渚は固く目を閉じた。
『これで、よし。』
「あ、あの・・・『これで、よし。』って、もうこの神殿内にモンスターはいなくなったの?」
『そうだ。』
「良かった!あっ、でもイルは・・・イルは大丈夫かしら?」
慌てて部屋を出ていこうとする渚を止めた狼は、渚の前に腰を下ろした。
『剣と竪琴を元に戻し、私の背に乗るがよい。』
「戻すって言っても・・・・・」
『イヤリングの輪に近づければいいはずだ。』
「そうなの?・・しまうときは簡単なのね。」
狼は渚を背に乗せると一瞬にして空間移動し、渚が気づいた時は、地下神殿への扉の前だった。
「イル?どこにいるの、イル?・・・・いたら返事をしてっ!」
返事はなく、辺りは静まったまま。
渚はあちこち探し回った。
「イル-----?!」
魔物がひしめいていたことは知っている。
そんなところにまだ10歳かそこらの少年をたった1人置いてきた。
たとえ魔法が使えるといっても、無限に魔法は繰り出せないはずだ。
「イル-----?!どこぉ~~」
走り回りながら必死の思いでイルの名を呼ぶ。
倒されていたとしても、死骸(考えたくもないけど)は、あるはずだと、目を皿のようにして探しながら。
「渚・・・・」
(え?今……声が・・・)
「イル?」
声のした方向へ急ぎ走ると、ホールの片隅にある柱の1つ。その後ろに人影を見つける。
「な、何よ、いたんならもっと早く返事をしてよっ!柱の後ろに隠れてなくてもいいでしょ?人がどれだけ心配し・・・・・え?」
が、柱にもたれるように倒れていたのは、赤毛の自分の肩くらいまでしかない10歳前後の少年ではなかった。
渚より頭一つくらい背の高いであろう赤みのかかった金髪の青年。
相当酷く怪我をしており、意識を失いかけているようだ。
「あ、あなた、誰?イ、イルは?・・あっ、そんな事言ってる場合じゃないか・・・」
慌てて耳のイヤリングに手を充て、祈る渚。
「女神ディーゼの名のもと、我は願う、竪琴よ、本来の姿に!・・『ヒーリング』」
すうっと青年の痛々しい無数の傷が引いていくのを確認するやいなや、矢継ぎ早に渚は青年に問いかける。
「あ、あのぉ、このくらいの少年見ませんでした?」
渚は手で自分の肩を差し、回復したその青年に焦りと共にイルのことを聞いてみた。
▼その16につづく…
-
創世の竪琴/その16・イルの正体
「あ、あのぉ、このくらいの少年見ませんでした?」 渚は手で自分の肩を差し、回復したその青年に焦りと共にイルのことを聞いてみた。 (前の話、創世の竪琴その15は、ここをクリック) 「ああ、渚、魔法が使え ...