スペース・デリバラー営業日誌4・スペースカーチェイス

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スペースカーでのデリバリー(配達)は、宇宙空間や異空間のコロニー。

そこへの配達途中は、平穏に行く時の方が少なく、時にはウィルスビームや砲弾が飛び交う交戦になることもあり、またカーチェイスになる場合もある。

いずれも、戦闘員として、またドライバーとしての腕がモノを言う厳しい世界なのである。

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Contents

スペースカーチェイス

スペースカー、それは、『スペース』つまり『空間』を、そして、『カー』といってもタイヤのついた車ではなく、異空間を繋ぐ『次元航路』用の船を意味する。

型はそれぞれメーカーにより多種あるが、種別としては、最速を誇る『光速カー』、次の速さの『ADSL(アドセル)カー』、少し落ちるが、ほぼ前者と同じスピードが出る『ケーブルカー』、でもってまたしても少し落ちるが少し前まで主流だった『ISDN(イソデン)カー』があり、そして、一番遅いもの、この次元航路車として最初に開発された『アナログカー』とある。

久美子と千里の取得ライセンス

アナログカーは、年齢など、決められた項目をクリアしていれば、簡単な講習とテストで取得できるC級ライセンスで乗ることができる。

が、ISDNカーを運転するには、B級ライセンス、ケーブルカーはBB級ライセンス、ADSLカーがA級ライセンス、そして、光速カーは、特Aライセンスが必要となった。

加えてスペースカー自体の値段も高くなっていくというのは、言うまでもない。

デリバリー会社社員である久美子たちは、C級でも、営業用、つまりC級二種というものを持っている。

それというのも、一般に市販されているスペースカーと異なり、『デリバリー・スペース・カー』は特殊で、宇宙空間もオッケー、大気圏内もオッケーというトリプル(?)スペシャルカーなのである。

それは、一般的にはBB級ライセンスがないと会社主催の講習とはいえ、取得することはできない。
が・・・C級二種とB級二種とでは・・・その試験の難しさは雲泥の差があった。

二種の場合、B級とBB級は同じクラスのB級に統合されている。その為難易度が上がっているのかもしれない。

それに加えて、久美子たちデリバラーには、仕事上、様々なライセンスが必要となってくる。戦闘員まがいの訓練もある。

新米社員、久美子と千里は、現実の厳しさにまさに直面していた。

異空間にあるコロニーや宇宙空間にも繋がっているその次元航路は、場所により海賊(ハッカー)や暴走族(デベロッパー)が出現する。

政府は躍起になって取り締まりをしてはいるが、広大すぎるその空間で、なかなかままならず、賞金をかけている。

その賞金を求めて彼らを刈るハンター(賞金稼ぎ)などもまた増え、次元航路や宇宙空間は、時として激しい戦闘が繰り広げられる。

それは、まさに命を張った仕事なのである。

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はじめての宇宙空間

お局様の特訓により(?)B級ライセンスは、それでもすれすれで落ちてしまったが、宇宙空間飛行ライセンスを取った2人は、初めて宇宙空間に出ていた。

「やっぱりきれいよねーーー・・・お星様が宝石のように輝いて。」

「そうねー。配達先のチョゴンマβ星が、次元航路と直結してなくって、正解ってところかな?」

「うん!惑星内と直結していたら、今回も宇宙へは出られなかったものね。」

「うん!」

が・・・宇宙空間は、次元航路以上にならず者のはびこるところ。のんきにスクリーンに映っている星々を見つめていた久美子と千里は、このあと地獄を見る。

-フィーン!フィーン!フィーン-

「え?何?何?」
不意にけたたましく鳴り響く警報。

慌ててサブスクリーンでスペースカーの周囲をチェック。

「え?・・・・・海賊(ハッカー)?でもって・・・ADSLカー?」

「ええ~?そ、そんなーーー・・・・・逃げらんないよーー。」

「狙うようないい物積んでないってばぁ!」
とはいえ、そんな事も言ってられない。彼女たちは慌てて戦闘準備に入る。

-シュオン!-

「う・・・」
ビーム攻撃が右舷をかすめる。危うく避けたものの敵のねらいは確かである。

「敵のウイルスビームの種類は?」

操縦パネルとレーザースクリーンに全神経を集中しながら、久美子が聞く。

「あ・・・えっと、今、分析中・・・」

-ピピピピ-

-バシューーン!-

「げー・・・・ウイルス魚雷までなんて・・・・何してくれんのよぉ?」

「千里!分析は?」
分析してからでないと、それに対応する武器が決まらない。

「あ・・・、出たわ!バッドTビームと・・・クリスちゃんよ。」

「ワームと時限爆弾か・・・。」

「バスタービームセット完了!」

「おっけーーー!反撃いくわよーー!」

「らじゃー!」

「アナログカーだと思ってバカにすんじゃないわよっ!」

アナログカーのたった一つの利点、それは小回りが利くこと。

久美子は必至になってその攻撃を避け、くるくる方向が変わる中、千里は、それでも敵の本体や魚雷に照準を合わせ、アンチウイルスビームを照射する。

が・・・やはり相手はADSLカー・・・そして、こういった攻防の経験値に差があった。

「後部シールド破損!・・・・マ、マスタビーム砲・・破損!・・・・右舷シールド・・・レベル2にダウン・・・。」

「く、久美子~・・・・あたしたち、もう最後?こんなところで?恋人もまだなのに?」

「だ、だめよ、ここで諦めちゃ!」
パネル操作を必至で続けながら久美子が叫ぶ。

「千里!一番近いアクセスポイントとステーション探して!早く!」

「オ、オッケー!」
取り乱していてはできるものもできなくなる。千里は自分に言い聞かせ、データを検索する。

背に腹は代えられない。こんなときは、安全地帯に逃げ込むに限る。

「十時方向・・・現速度維持で、5分後にアクセスポイントあり!」

「よ~~し!!お願い、なんとか持ちこたえてよーー!」

-ズズーーン!-

「後部シールド破損!」

「あと少しなのよーー・・・・お願い!持ちこたえてねーーー。」
祈るような気持ちで操作する久美子、とスクリーンに見入る千里。

そして、それでもなんとかアクセスポイントへ。

宇宙空間に波打つ光の球体がぽつんと浮いている。そこが入口。


-シュッ!-

「あ、あれ?ポイント通り過ぎちゃった?」

ポイントから次元航路に入るには、決められた範囲のスピードを維持しなくてはならない。

-ズズン!-

「前部シールド破損!」

大きく弧をかき、もう一度ポイントへ入ろうとした時、その前面から海賊(ハッカー)の攻撃があった。

「く、久美子ぉ~・・・・」

-バシューーン!-

もうだめだ、と思っていた時、その海賊(ハッカー)を狙って発射されたビーム砲があった。

「え?」

「あ!スペースパトロール(SP)カーよ!」

「た、助かった~~」

危機一髪、久美子と千里は、海賊(ハッカー)を追っていくSPカーを見送ると、アクセスポイントへと直進していった。

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期待は泡のように

-シューーーン-

空間を裂いて光の入口が開く。

アクセスポイントから次元航路を通って、久美子と千里の乗るスペースカーは、異空間に設置されたステーションのあるコロニーへと無事に出ることができた。

-わいわい、がやがや・・・-

ステーションにある喫茶店。2人はスペースカーを修理の為ドッグインさせると、そこで時間をつぶしていた。

「今日最後の配達物でよかったような、悪かったような。」

「うん・・・」

「それにしても・・どうなるかと思ったわ。
もうくったくたよ~~~~」

「何時に帰れるかなー?」

「修理は30分もすればできるって言ってたけど。」

一応予定より遅れることは連絡しておいたが、係長がまたイライラしながら2人の帰社を待っているに違いなかった。

それに、2人が帰社するより早く、修理代が会社に請求されているはずである。

久美子と千里は、頭痛を覚えていた。できるならこのままどこかへ行ってしまいたい。

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「やー、さっきは大変だったね?」

「え?」

不意に声をかけられ、2人は見上げる。
そこにはスペースパトロール(SP)の制服姿の若い男性が1人。

しかも、かなりカッコいい部類。一見して2人のタイプ。

「君たちのような可愛い子が運転してるとは思わなかったな。」

「あ・・・い、いえ・・そ、それほどでも。」
久美子も千里も頬を染めて愛想笑い。

「配達これからなんだろ?」

「あ、そ、そうですけど・・。」

「さっきの海賊(ハッカー)、残念ながら捕まえることができなかったんだ。
だから、警護についていってあげるよ。」

「え?いいんですか?」

「君たち、スペースデリバリー社の人だろ?」

「は、はい。」

「仕事だし、それに・・」

「それに?」

「実は・・・配達の荷物、ぼくが頼んだ彼女へのプレゼントなんだ。」

「え?」

「今日は彼女のバースデーで、今日を配達指定しておいたし、それに今日は他にチョゴンマβ星へのデリバリーカーはないと思ったから。」

「は~?・・・・・」

せっかく格好いい人と知り合いになれる、と淡い期待をして目を輝かせていた久美子と千里は、その言葉で一気に落ち込んだ。

「何よ、警護なんて、さも仕事って言う顔をして・・・彼女に会いたいだけじゃないの?」

「そうよ!そうよ!」

小声でひそひそ話をする久美子と千里。
できれば、断って自分たちだけで出かけたかった。

が・・・海賊(ハッカー)は恐い。
2人はしぶしぶ彼の警護を承知した。

「やっぱりもう一踏ん張りしてB級ライセンスよねー?」

「そうよねー・・・・それから週末の自主参加になってる戦闘訓練にも出た方がいいかも?」

「うん・・・・・」

反省しつつ、急ぎ帰社した2人を待っていたのは、勿論係長の罵声である。

もっとも、その係長の罵声の中には、どじで手のかかる新米社員である2人の命を心配していた親心があるのだが、あまりにもすごい剣幕の為、彼女たちに分かるはずはなかった。

2人の未来に、光を!久美子と千里に愛の手を!そして、係長に平穏を!

 

営業日誌5は、こちら↓↓↓

スペース・デリバラー営業日誌5・アナログ航路は大渋滞

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