拾い集めた小枝を葦のの茎などで編み込むようにしてなんとかイカダが完成する。
「なぁ、これで本当に本の島まで行きつくことができると思うか?」
「着けなかったら、マイナス20度の水の中だろ?オレ達?」
「…………」
なんとか出来上がったイカダを前にしつつも、不安はぬぐえきれない夕士と長谷。
一応、小枝は何重か重ね、それは小枝の隙間からは地面がほとんど見えないくらいの層にはなっている。
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カードを引いてみる長谷
「当たるも八卦だから、安心材料にカードしてみるか?」
「安心材料の卦が出なかったらどうすんだよ?」
夕士のその言葉も耳にすれば、長谷はふっと軽く一笑し、ハンカチをその小枝と葦で作ったイカダの上に敷くとそこにカードを広げる。
「うーん…緊張するな……」
「ほらみろ、長谷だって心配あんじゃねーか?」
「まー、待て、明るい未来を導いてくれるカードを引いてみせるぜ!」
「どうだか?」
現在のカード、チャレンジのカード、そのチャレンジの結果のカードと続けて長谷は引いてみた。
「うーーん・・・」
「なんだよ、長谷?どういう意味なんだよ、このカード?」
「ああ……なんとも良く当たるカードだぜ。感心する。」
「どう当たってんだよ?」
早く言えよとでも言うように口をとがらせる夕士。
「つまりだ……」
腕組みをした右手をあごにあてて、カードの解説を始める長谷。
「まずは、泥の中に見事な大輪の花開いたハス。これは、今まで苦労したその結果が表れていることを指してるんだ。」
「それって、つまりオレ達が苦労してイカダを作った、その完成品がそこにあるってことか?」
「おお、そうだ、なかなか鋭いな、稲葉。」
「で、この亀の上に乗ってる4本腕の男は?」
「ああ、これは、つまり、勇者の素質があるから…っていうか、お前は勇者だから、そのまま信じて進め!という意味だな。」
「で?最後のこの水から出ている火柱みたいなのは?」
「それは、シバのカードで破壊を意味するんだ。」
「破壊?……向こう岸まで着かないうちに壊れるってか?」
「慌てるな、稲葉。このカードは破壊だけでなくその後大いなる恩恵、飛躍的成長があるという意味も持っているんだ。」
「だから?」
「向こう岸に着くまでに壊れるかもしれないが、オレ達が得るものは大きいということだ。」
「なるほど……つまり、結局………」
『心配してるヒマがあったら、さっさと向こうへ渡れ!』
顔を合わせ、同時に口を開いた2人はハモっていた。
「よし……じゃー、行くか?」
目の前に見える本の島を見つめ、2人は覚悟をしてイカダを水辺に移動させる。
「いくぞ!っせーの~・・・」
ザバン!
「おお!浮いてる、浮いてる!!」
「まずは、成功だな?」
無事水面に浮いている小枝と葦のイカダに、一応ほっとする夕士と長谷。
「よし、じゃー、オレが先に乗ってみる。」
「おお、任せた!」
恐る恐るイカダに乗る夕士。
「なんだよ、稲葉、そのへっぴり腰は!思い切って行けよ、思い切って!」
夕士が真ん中まで乗るのを見届ければ、長谷はさっと足をイカダに踏み入れる。
「わあっ!」
途端に傾くイカダ。焦ってイカダの真ん中に建てた支柱代わりの枝に巻きつく夕士。
「大丈夫だって!浮力の方が勝ってる!」
「ホントかあ?」
「オレ達の血と汗の結晶だからな、このイカダは。大丈夫に決まってるぜ!」
「血は出してないがな。汗は、思いっきりかいたな。」
「よし、じゃ、進むか!」
-ザザーーン-
「おっとっと……」
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本の島に向けて方向転換すると、2人の立ち位置のこともあり大きくバランスが崩れたが、沈むことはなさそうだ。
バランスは取りにくいが、それでも小枝を葦で編み込んだイカダは、2人の体重がかかっても水面に浮いている浮力はあったようだ。
「さすがご主人さまとご親友、長谷様。すばらしい腕でございます。」
「おう、任せとけ!」
「それにしても、長谷様のカードもすばらしいですな。」
「ふっ、そうだろ?実はこのカード、骨董屋さんに売ってもらった魔力を秘めた本物のカードなんだ。」
「はあ?骨董屋さんから買ったのか、それ?」
「やらんぞ?」
夕士がくれ!と手を出す前に、カードを入れてある胸ポケットを押さえる長谷。
「だれが欲しがるか、だいたいあの骨董屋さんのなんて胡散臭いだろ?」
「いや、ユニコーンの角もオレだけ食中毒に当たらなかったという実例があるからな、このカードも本物の魔法のカードさ。」
「・・・・・・・・・。」
「なんだよ、稲葉?その小馬鹿にしたような顔は?」
「いいや、なにも?」
-ザザザザザ…-
波一つない鏡面のような水面をかきわけるように、ゆっくり、ゆっくりとイカダは本の島、プチの妖魔たちが封印されているという島に向かって進んでいく。
さて、無事に着けるのだろうか?カードが示した破壊は、果たしてイカダのことなのだろうか?
不安は完全には払拭できないが、そんなネガティブな事は考えないようにして、ひたすら目の前の島に向かってイカダを進ませる夕士と長谷。
無事に着く事を願いつつ……次へとつづく……