借りている自室に深夜不意に出現した風景が立体化している本に驚きつつも、魔道書、プチヒエロゾイコンの案内人して中にいる妖魔たちとの仲介役のフールの救助要請を受けて、親友長谷とその本の道へと足を踏み入れた夕士。
木漏れ日の気持ちのいい林道を通り抜けて着いたのは、重厚感あふれるドア。
「ここが魔界への入口?」
と、緊張しつつ長谷と一緒にそれぞれ左右の扉を押し開いた。
だが、どうやら扉の向こう、即、魔界、というわけでもなかったようだ。
そこから続く石畳を進んでいくと、今度はドアでなく門が見えてきた。
「普通、ドアの前に門があるんじゃね?」
「そんな気もするが、門だけより、建物があってドアをくぐる方が、いかにも世界が分離されてるって気がしねえ?」
「まー、そう言われりゃそうだな。」
勝手なコトを話しつつ、門を見上げる夕士と長谷。
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ドアは重厚感のみだったが、門は不気味な威圧感がある
「鷹が2羽止まってるが、くぐろうとすると襲ってくるとか、ないだろうな?」
「さあ?」
「おい、フール、さっきから押し黙ってないでなんとか言えよ!っつーか、いつもは出てくるなっつっても出てくるのに、なんでこういうとき出てこねーんだよ?」
いつの間にか肩から居なくなっているフールに文句を言う夕士。
「ダメなんです、ご主人さま。今わたくしめが顔を出すと、あの鷹のどちらかにつかまってしまいます。」
「はあ?そうなのか?…じゃー、しゃーねーか。で、オレたちはどうなんだ?無事この門をくぐりぬけられるのか?」
「それは時の運しだい。鷹の気分次第でございます。」
「チッ!つかえんヤツだな、まったく」
「ぷくくっ!プチらしいぜ!」
「笑うな、長谷!他人事じゃねえんだぜ?」
「そうだな、ここでもし仮にオレ達別々に連れ去られたりしたら、迷子になってしまうからな。魔界で迷子はヤバすぎるぜ。」
「だろ?」
ピクリとも動こうとしない鷹をちら見しつつ、2人は真剣な表情で話しこむ。
「ここは、フールを囮にしてその間にオレ達は突っ走って門をくぐるとか、どうだ?」
「そ、そんな、ご主人さま、ひどぅございますぅ~~~~」
「プチたちの危機だから、今は誰一人召喚できないってことだよな?」
「はい、さようでござります。」
「うーん、それじゃ、イタカで脅かしておいてその隙にという手も使えねえか。」
「…申し訳ございません。」
「どうするよ、夕士?」
「長谷の合気道とか剣道でなんとかできねーか?」
「いや、出来ない事もないが、相手は2羽だからな、ガタイもデカイし」
「そっか、そうだよな?」
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「フール、他に出入口はないのかよ?」
「はあ……わたくしども魔に属する者でしたら、わざわざゲートをくぐる必要もないのでございますが…。」
「へーへー、さいでっか。」
大きくため息をつく夕士だったが、その時閃く事があった。
「長谷、さっき森の小道でやったカード。あれで占ったら、なんかいいアイデアでも出してくれねーかな?」
さあ?どうだかと頭を書きながら答えたものの、一応カードを取り出して座りこみ、広げた布の上にカードを並べ、おもむろに1枚を引く。
「なんだった?」
「ああ…こんなものが出た。」
長谷が夕士に見せてくれたのは、蜘蛛の糸にかかったインドの神ガネーシャの絵。
「これが?」
「わからないのか、夕士?だから、考えを変えろということだって」
「考えを?」
きょとんとした表情で長谷を見つめる夕士。
「つまり、オレ達は捕まるのを恐れ逃げようとしてるだろ?」
「ああ」
「だから考えを変え、逃げるじゃなく、オレ達が捕まえりゃいいんだ」
「はあ?」
絵柄をもう一度見て、ぽん!と夕士は柏手を打つ。
「そっか!網で捕まえ……網なんてねえぞ?」
「いや、そこが心眼でいくんだ」
「心眼?」
「というかこの場合心眼という表現は違うけどな。つまりだ…」
「つまり?」
「捕まえて食べてやる!と真剣に思いこむんだ。鷹がびびるくらいにな?」
「は?」
「鬼気迫った気迫で挑めば、奴らも必ずビビるはずだ!」
「鬼気迫ったと言われてもなー…わざとだろ?その気持ちが相手に通じるほど簡単に思いこめるもんじゃねーぜ?」
「そこをやるのがオレたちだ。」
「やれるのか?」
「ちょうど腹も減ってこないか?」
「そりゃーまー、結構歩いたしな?」
「鷹の肉はうまいぞ、きっと」
「そ、そうか?」
「身もしっかりついていそうだ。焼き鳥なんかいいんじゃね?」
「おお、いいな、焼き鳥!」
思わず香ばしく焼き上がった鶏肉を連想し、ごくりとつばを飲み込む夕士。
「よし!まずは火を起こそうぜ!」
「まずは、準備からか?用意周到ってやつだな、よし!炊き火だ、たき火!オレ、小枝を集めてくるわ!」
「任せた!オレは、メモ帳でもやぶってなんとか火ダネをつけてみる!」
「おう!」
作戦成功!思いこめばなんとかなる!
数分後、燃え盛るたき火と、空腹で目をぎらつかして近寄ってくる夕士と長谷に恐れをなし、鷹は遠くへ飛び去ったとか。(笑)
「くっそお!鷹の丸焼き、マジ食べてみたかったのに!なんで逃げるんだよ?!」
逃げて行った鷹の後ろ姿に叫ぶ夕士は、すっかり食べる気になっていたようである。
そんな夕士の後ろ姿を見て、クスリ♪と長谷は、してやったりとうすら笑いを浮かべる。
こうして、策士長谷のおかげで、魔界の門は、難なくくぐる事ができたのである。
「…しかし、オレも腹減ったな。1羽だけでも捕まえたかった。」
…門をくぐりながら長谷がぽつりとつぶやいた。
さすが長谷、どんな時も沈着冷静だ。