広大な宇宙ひとりぽっちの17歳になったばかりの少女・ニーナシャピロ。母船と仲間は失ったが、不幸中の幸い、スターパイロット見習いだったことと乗り込んだ船の所有者がわからず、明らかに漂流船だったこともあり、その船、ジョリー・ロジャー号の所有者となり、貿易商として彼女は、己の人生をスタートさせた。
Contents
はじめての戦闘
オプションで4基追加した合計8基の貨物庫に目一杯ハイテクグッズを乗せてジョリー・ロジャー号は、自動航行でヒアスラスターベースから拓殖基地・マイコン1へ向かう。いつものとおり、何事もなく宇宙空間を自動航行で進めば、拓殖基地はほぼ目の前のNスペースに出る予定だ。
-フィ-ン!フィ-ン!フィ-ン!-
「え?…え?…スクランブル?、ま、まさか敵?マンチー、それとも海賊?」
たった一人のコクピット。自動航行中はとくに静寂がコクピットを覆っている。最初のうちこそ、カードをやってみたり本を読んでみたりしていたが、そのうち眠気が来たのだろう、ついうとうとと心地よいうたた寝状態に陥った直後だった。
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攻撃を受けると自動航行は解除、イヤがおうにもNスペースへと出る。
けたたましくアラームが鳴り響くコクピットで、ニーナはフロントスクリーンとレーダーを交互ににらみつけるように見る。
「海賊?」
そう、相手は、ここファーアーム・クラスターを統治している帝国と敵対しているマンチーの戦闘艇ではなかった。
「コルセアだ!」
至近距離ではないが、目視で確認できた船体から、ニーナは相手の船が自分の船のほぼ3倍もの長さをもつコルセア船だと判断する。いや、船体の長さだけでなく、あらゆる面で彼女の船、徐リー・ロジャー号を上回っている。…なにしろ、彼女の船は、小型艇なのだ。
「ど、どうしよう?海賊と出会ったら、命あってのものだね。積み荷を渡すのが一番だと教わってるけど……」
ビーーーー……ズガガン!
一人どうしようかと思案している間にも、敵のビーム砲は襲ってくる。
「でも、でも……全財産かけて仕入れた商品をここで渡したら……それに、それに、たとえ積み荷を渡しても、パイロットの機嫌次第で、見逃してくれるかどうか、わかったもんじゃない!」
ごくり……とつばを飲み込むと同時に、ニーナは操作パネルに手を伸ばす。
すでに海賊船は、その船体をスクリーン一杯に写るほど至近距離まできている。
「くっ・・・・ま、負けないから!ぼくの人生、はじまったばかりだからね!それに、それに、世話になったみんなの仇をとるまで、死ねないんだからーー!」
が、ビーム砲を避けつつ、相手の船体を狙ってレーザーを発射するなどという高等な技術は、まだまだ経験が足らないニーナにはなかった。
ズガガン!
「ちょ、待ってよ!初心者にそんなに情け容赦なく攻撃しないでよっ!」
そんなことを言っても無駄である。第一無線が繋がっているわけではないので向こうには聞えない。
「もっと大型商船を襲えばいいでしょお?こんな小さな船襲わなくってもぉ~~~!!」
文句は自由である。だが、敵は冷徹に、そして的確にジョリー・ロジャー号にダメージを与えていく!
「なんで当たってくれないのよぉ?そんなにちょこまか動かないでったら!」
ムリなお願というものである。
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「きゃああ!!アーマーが150切っちゃった!」
アーマーとは船の防御シールド。目の見えないそれがあるおかげで、今のところ船体自体までのダメージには至ってないわけである。
が、0になったら……ひとたまりもない。
「やった!一発あたった!」
どうやらコルセアの尻尾(?)当たりにニーナの放ったレーザーが当たったようだが、それとて、本体でなく、あたったのはシールドである。
「よし!495に下がっ……え?たったの5?」
ジョリー・ロジャー号のアーマー値は300、それに対して海賊船はアーマー最高値の500。そして、ジョリー・ロジャー号に付随されているガーネットレーザーでは、当たってもほんの少ししかダメージは与えられない。
ドッガーーーン!
「きゃあああ!100切っちゃったじゃないのぉ?ええーーーー?こんなに早く、ぼくの人生終わり?」
と、その時だった。
危機一髪!ハンター(助っ人)現る
ズッガガーーン!
「え?……こ、こっちじゃないよね?」
ものすごい振動に、ニーナは慌ててパネルを見る。
「すごっ!海賊船のアーマーが一気に300に下がってる?なにが?」
慌ててレーダーを確認する。
「ハンターだ!」
そこに移っている船影は、海賊船のコルセアよりも小型だが小回りのきく”殺人艇”という呼称もついている戦闘艇、ハンター。海賊やならず者狩りを生業としている賞金稼ぎをハンターと呼びだしたのは、ここから来ているという噂もある。
「目障りだ!そこのチビ!獲物の周りをうろちょろしてっと一緒に串刺しだぜ!」
「えええー???うろちょろしてるのは向こうだからね!」
オープンになっていたインタコムからいきなり入ってきた賞金稼ぎからの無線。それは、助けが来たとホッとした気分もどこへやら。
「一緒にビーム砲で串刺しにされちゃ命がいくつあっても足らないって!」
-ぽ~~ん-
と、そんな切羽詰まった状況下に、拓殖基地のスペースエリアに入った知らせのブザーがのんきな音色で鳴った。
「え?拓殖基地エリア?え?ど、どこ?どっち?」
今のところ串刺しにはなってない。そして、海賊船はハンター艇と激戦中。
「い、今のうちに基地に逃げ込めば!!」
少ないアーマー。流れ弾だったとしても当たったらヤバい。というか、まだニーナの船には、前面シールドしかついてない。後ろから攻撃されたらまともに船体がダメージを受けることになる。
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「そ、それでも……これしかない!」
拓殖基地の位置を確認すると、ニーナは、ともかく敵に後ろをみせようが、その後方にアーマーが無かろうが、ともかく、拓殖基地へ逃げ込む事を決意した。
「一発でドッキング…一発で!!!」
それまでどうか2隻で戦っていて!と祈るニーナの気持ちを裏切って、背後をレーダーで確認すれば、海賊船が彼女を追尾し始めたことがわかる。
「えーー?もう倒されちゃったのぉ?一緒に串刺しするとかいったあの勢いは、カッコづけだけだったの?……き、基地は?あとどのくらい?」
【800】
「800?あと800?……」
背後に迫る海賊船。その距離はどんどん縮められてくる。
「あ、あと……あと……350……310…………」
ビーーーー!
シュン!
ビーム砲をなんとかよけきったニーナ。だが、生きた心地はしない。
「あと・・・・230~~~~190!!!!」
もはや、ドッキングポイントはどこなのか、なんてのんきに判断している余裕はなかった。
「あと100!えーーい!とにかく突進よーーーー!」
いちかばちか、目の前の宇宙空間に浮かんでいる拓殖基地に体当たりするかのように、突進していった。