スターパイロットのライセンス試験を無事合格したニーナは、ひとまず休もうと、スターベースのポートに泊めてある自分のスターシップ”ジョリー・ロジャー号”に戻ったのだが、ちょうどアーマー修理の為、リペアドッグに入れられていて乗船できない。
仕方ないので、ステーションポートのロビーで一休みすることにした。
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ここがスタートライン、新しい人生の出発点だ!
「ふう…なんとかここまで無事に来られて、ライセンスも入手した。…これから…なのよね。これから……」
ロビーの天井を見上げれば、大きなため息が出る。これからするべきことが山盛りだ。
「そう、ここが、スタートライン。ここからぼくの新しい人生が始まるんだ。出発点なんだ。ジョリー・ロジャー号と共に……」
受け取ったピカピカのライセンスカードをぎゅうっと握りしめ、ともすると落ち込もうとする自分を励ます。
「よし!一人でいるから気が滅入ってくるんだ!酒場へ行って合格祝いでもしよう!親父さんも結果が知りたいだろうし」
すっくと勢いよく立ちあがるとニーナは、再びスターベース内のバー”トゥエルブ・スラスター”に向かった。
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合格祝いだ!飲めや歌えや大騒ぎ!
「おおーー!すごいじゃないか!一発合格か?!」
「あ、いえ、一度は失格に…」
「なに言ってんだ!そんなの失格に入るもんか!ちょっとやりなおしただけじゃないか!」
バー”トゥエルブ・スラスター”に顔を出せば、当然のごとくバーの親父が結果を聞いてきた。そして、ニーナの報告を聞けば、ばん!と背中を勢いよくたたき、店内に大声でこう告げた。
「おーい、みんな!今日はこのニーナのスターパイロットライセンスの合格祝いだ!一緒に祝ってやろうと思うヤツはオレのおごりだ、じゃんじゃん祝ってやってくれ!飲んでくれい!」
「うおおお!親父気前がいいじゃねえか!もちろん、オレも祝うぜ!」
「オレも!オレも!」
「よーし、いっせーのーで・・・」
『合格おめでとう!ニーナ!』
バチバチ!わあわあ!がっはっはっは!
まだ時間が早く客もまばらだったが、バーは、一気ににぎやかさを増す。
そして、ニーナは、親父さんが渡してくれたビール瓶を持って順番にテーブルを回っては、彼らにビールをなみなみと注ぎ、その辺杯を次々と飲むはめになった。
「プロージット!おめでとうだぜ!」
「あ・・あはははは・・・あ、ありがとう」
ようやく二日酔いの頭痛が治まってきたニーナだったが、またしてもその覚悟が必要だと苦笑いしつつ、彼らの辺杯を受ける。
そして、ぐいっと一気に、それはもう目を瞑ってとにかくのどに流し込む…やけっぱちモードに突入していた。
「若いくせにいけるじゃねーか、あんちゃん!」
「もっといけ!ぐいっといけ!」
ニーナにとっては苦行とも思えたが、これは、ニーナを気に入ったバーの親父の厚意なのである。
そう、人脈も金脈も何もないニーナにとって、金はともかく、人脈を作るきっかけにはなるだろうと、大損覚悟で大サービスしたのだ。
いや、いずれはその人脈は金脈を生み出すはずなのである。いや、本当に良い親父だ。
なぜこうもニーナに肩を入れるのかは謎だが。…そうしたくなるほど息子に似ていたのだろうか?
そのニーナのやけっぱちの飲みっぷりの良さが取り持った縁の一つに、商品の仲買人との出会いがあった。彼からは、なんと特別に上顧客にしか売らないと言う最新式の小型スーパーコンピュータ搭載の機器を仕入れさせてもらえることになった。
このカロノス星系では、スターシップが立ち寄れる場所は、2か所。その一か所が今ニーナがいるヒアスラ・スターベースなのだが、もう一か所というのが、マイコン社の第1拓殖基地、マイコン1なのだ。
マイコン社、それは、このファーアームでの資源発掘は、ほとんどこの会社が占めているといってもいい大会社である。
拓殖基地、マイコン1では、まだまだスーパーコンピュータ搭載のハイテク機器が不足している為、持って行けば売れる事は間違いない。
そして拓殖基地に上がってくる惑星で採掘された鉱石。
それは、当然マイコン社の所有物にはなるのだが、彼らが回収していくそれは純度の高い良質な鉱石のみであり、純度の低い物や、あまり価値のない鉱石などは、基地内での売買が認められている。
また、採掘場のある惑星での農産物などはスターベースでは非常に重宝される。特に新鮮なら新鮮なほど飛ぶように売れる。
故に、それらも新人貿易商のニーナの手に入ることはムズカシイのだが、最新式小型スーパーコンピュータ搭載の機器をちらつかせれば売ってくれるだろうと入れ知恵もしてくれた。
[ありがと――!助かったよーーー!」
仲買人にお礼を言うニーナは、もはや足取り不明。ふらふらふわふわとバー内を千鳥足。
あっちへふらふら、こっちへふらふら。
そして、
あっちでコポコポ、こっちでぐびぐび、やけ呑みは続行中。
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「おいおい、にーちゃん、大丈夫かあ?」
「らーいじょおぶらってぇ~~!ま~らまらいけるおーーー!(大丈夫だってー、まだまだいけるよー)」
やんややんやとはやされ、飲まされ、おかげでニーナは人気者?…になれたようである。
バッターーン!
「うおっ!にーちゃん、ついに倒れちまったぜ、親父!」
「ははは、頑張ったからなぁ、しかし、よく飲んだもんだぜ。」
バーの親父はそう言うと、よっこらしょと酔いつぶれたニーナを抱き上げて、ひとまずカウンターのイスに座らせる。
「本人はつぶれてしまったが、お祝は閉店までOKだ!これからこいつを頼んだぜ!」
「おお!まかせとけ!他でもない親父さんの頼みだ!このファーアームどこで出会っても、あんちゃんの悪いよーにゃしねーぜ!、なあ、みんな?」
「おお!もちろんだぜ!」
その日は、ニーナが良いつぶれてからも閉店まで、ずっと賑やかだったそうである。