SFスペースファンタジー「星々の輝き」40・恐怖のバスルチ事件

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潜入調査をしていたタルゴン隊長から情報を引き出すためには、今や狂人となっている彼を正気に戻すことができるNSBが必要だった。

化け物に占拠されてしまったバスルチ研究所から、そのNSBを無事回収してくるため、ニーナはできる限りの準備を開始した。

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SFスペースファンタジー「星々の輝き」40・恐怖のバスルチ事件

バスルチ事件のただ一人の生存者がいるというゼッド星系の拓殖基地マイコン5。
先回来たときは、プロスク博士のことを聞きまわったが、今回はその生存者の情報収集が主な目的だ。

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ヌルダンパー&バスルチ研究所の見取図

もちろん、基地に着くと、まず最初にプロスク博士を訪ねて、『転換コイル』を渡すことも忘れない。

そして、約束通り、その引き換えにワームホールでの腐食を無くするという『ヌルダンパー』を船に取り付けてもらえることになった。

しかも、幸運にも軍に席をおいていた頃バスルチの研究所にいたという博士から、建物の見取図ももらえた。

なんという幸運!

ヌルダンパーの取り付け作業の間に、バスルチ事件の生存者情報入手のために、顔を出した酒場で、ニーナは、とても陽気な坑夫ティブと知り合った。

度が過ぎている くらいの陽気さで、みんなを笑わせる男だった。
彼は、見たことのない顔とみると、相手の気持ちなどお構いなしに、仲間に入れてしまうのだ。

ニーナもご多分に漏れず、酒場に入ると同時にティブと彼が引き入れた仲間の輪に引き込まれてしまった。

冗談を言っては大笑いをする。
楽しいのだが、ニーナにはそれが、何となく何かを忘れようとして、わざと陽気に振る舞っているような気もした。
ティブ自身では 気づかないうちに。

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恐怖の生存者

しばらく世間話に花を咲かし、馬鹿騒ぎしていたのだが、生存者の情報を得ようと、ニーナが一言『バスルチの』と言いかけた途端、彼は頭を抱え込み、身体をこれ以上小さくならないくらいに丸め、ぶるぶる震え始めた。

彼こそがバスルチでのたった1人の生存者、恐怖の地獄から生還した坑夫だった。

彼が奇跡的にバスルチを脱出した後、ドクターが彼の精神を救うために、その 記憶を一応は消したのだが、あまりにも想像を絶する恐怖だった為、完全には消すことはできず、心の奥に封じ込めたのみにとどまっていたらしい。

そして、数カ月たった今でも、『バスルチ』がキーワードとなり、彼の精神は、その恐怖で混乱してしまうらしかった。

常日頃のあまりにもの陽気さは、彼の心の奥の奥にしまいこまれたその恐怖への反動として、彼自身無意識のうちにとってしまう行動のようだった。

「ご、ごめん、ティブ・・しっかりして!!」
ニーナは彼の肩を掴むと揺すった。

が彼はただ、震えるばかりだった。

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「だめだぜ、こうなっちまうと当分の間は、正気には戻らねえぞ。」

ニーナは肩 をぽんと叩かれて振り向いた。
そこには、つい今しがたまでいっしょになって話 していたピクスがいた。

他のみんなもぞろぞろとドアに向かっている。
誰しも事件のことは知っている。
みんな悲しそうな顔をしながら出ていった。

「ティブ・・・ねぇ、しっかりしてよぉ!」

ニーナは再び彼の肩を激しく揺すり続けると、なんとかティブは我に返った。

「ねぇ、ティブ、教えて!『NSB』はどこにしまってあるの?」

聞くのも気の毒に思った彼女だが、聞かないわけにはいかない。
ティブに申し訳ないと思いながら 彼女は聞いてみた。

「NSB・・ああ・・NSブースターか・・・あれは・・・・」

そう言いかけ時、再び恐怖が彼を襲った。

「あああ・・人間の身体が・・・めちゃくちゃに引き裂かれて・・・壁に血が飛び散り・・い、いや、もう辺り一面血と臓物の海に・・・・」

ティブの顔は恐怖でひきつっていた。

「ティブ!!しっかりして!!」

ティブは目を見開き、両手で顔を押さえている。
その口からは今にも叫び声が出て来そうだった。

「ティブっ!!」

(ごめん、ティブ)
心の中で謝りながらニーナは思いきり彼の頬を叩いた。

「あ・・ああ・・、」

少しは落ちつきを取り戻したティブは、ゆっくりと続きを話し始めた。

「NSブースターは・・・・あれは、恐怖の始まる前、新しいロッドが完成したんだ。
確か・・奥…最深部にある部屋にしまってあったと思う。金庫の隣のロッカーの中だ。
俺は、持ってこなくちゃと思ったんだが、そんな場合じゃなかった。
・・奴等が・・・奴等が・・!!ああああああああああ!」

ティブは必死に恐怖と戦っていた。
何とか堪えて自分を見失わずにいた。

「どこ、どこの部屋?」
ニーナは電子手帳を出し、博士からコピーさせてもらった見取図を画面にだした。

「ここ・・そう、確かにここだ。」
ティブは震える指でその位置を示した。

「ここ、ね。ありがとう。」
ニーナは地図にチェックを入れておいた。

「と、取りに行く気なのかい?
よしな、よしな・・命が幾つあっても足らないぞ。
奴等はいきなり飛びかかってくるんだ。
そして、そしたら、もう・・次の瞬 間にゃ・・引き裂かれてるんだ。」

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「どうやったら奴等に殺られない?」

本当に行くのか?という表情で、ティブはズボンのポケットから薬らしい錠剤を取り出すと、震える手でそれを口に放り込むと、グラスの水で一気に流し込んだ。

「や、奴等はすばやいから、見たと思った瞬間、もう襲われてるんだ。
見たら最後、奴はもうすぐ側にいやがるんだ。
そして、それと同時に・・・。わああああ・・・」

「ティブ!」

全身から血の気を失いガタガタ震えながらも、ティブは、話さなければと思ってくれたらしい、必死で恐怖と戦ってくれていた。

「か、角を曲がる時は、 恐ろしかった・・・そこにいやしないかと思って。
・・・そうだ!奴等は 少し頭が足りないんだった。
そう!物陰に隠れるんだ。
そうすると、そのうちにゃい なくなる。
でもすぐ現れるかもしれん・・。
どっから出てくるかわからん。
天井からかもしれん・・。
物陰に隠れながら走って移動するんだ。
右へ左へと。それしか・・手段はない 。
俺は単にラッキーだっただけだ。
助かったのが不思議くらいだ。」

「ティブ・・・・」

ニーナはティブの苦悩に満ちた顔から目が離せなかった。

「ロボットは?ロボットなら大丈夫なんじゃないの?」

「い、いや…ロボットやアンドロイドは、離れてりゃいいんだが、近づくと奴らの発する低周波で狂っちまう。そうなったら、あいつらも見境なくは快活度をし始めちまう。化け物にバラバラにされるまでな。」

「そ、そんな……」

「さあ、もういいだろう。」

ティブはそう言って震える手でジョッキに残っていたビールを一気に飲むと、もう一杯注文した。

ニーナは、そんな彼に謝り、お礼を言うとポートへ向かった。

化け物、それも凶暴極まりない怪獣・・果たしてそんな危険地帯へ無事に何事もなく行って来れるだろうか?ニーナの心は沈んでいた。

「でも・・・そうするしかない・・・・。」

バスルチ星系へと向かう船の中、出来る限りのことをしようとリズと作戦を練っていた。

 

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