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海賊崩れのフリッチからIDスクランブラーチップを受け取っていたことを思い出したニーナ。
さっそくその届け先であるバスルチ星系のフリーギルド拓殖基地へ向かう。
そこは、自由商業ギルドは名目のみ、実際は海賊の本拠地であることは誰しも知っていることだった。
海賊に賞金を賭けているくせに、なぜか帝国は取り締まらない。
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SFスペースファンタジー「星々の輝き」29・美しすぎる逃亡者
バスルチ星系、そこは、実験の失敗により誕生した怪物のため閉鎖となった研究所があるステーション、マイコン3と海賊の本拠地であるフリーギルド拓殖基地がある。
勿論そんな恐ろしいマイコン3には行く理由も行く気も無いニーナは、マリーゲートを出るとまっすぐフリーギルドのステーションへ向かった。
「いくら海賊の本拠地と言っても、ステーション内での争いは、法で禁じられているから、別に取って喰われるなんてことは、ないよね?」
それに他のステーションと同様、ステーションには帝国兵士が駐屯しているはずだ。
バスルチ星系の拓殖基地は、海賊の本拠地
(でも、一応表向きは貿易商のギルドってことになってるけど、海賊だってことは分かってるのに、取り締まらないなんて、帝国も何考えてるんだか?)
始めてきた星系。ステーションまでの自動航行中は、いつもどおりマップ内のエリア1つ1つをくまなくクエリーして日誌を探す。
2月1日
「何よ・・たったのこれだけ?しかも、スカーレット同盟って、確かガットの海賊ギルドのことじゃない?!
今から行くフリー・ギルド拓殖基地は、その本拠地なのよね。ううーん、潜入ねぇ・・・。」
自分も潜入すべきか、とも思ったニーナだが、肝心のその人、つまり元のジョリーロジャー号の持ち主の名前も分からないのでは仕方がない。
今はまだ情報収集とIDチップの受取人であるチーシャを探すことにした。
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掃きだめに咲く大輪の華
やはりいろいろ聞き出すには酒場が一番だと、ニーナは、フリーギルドに着くと商品の売買を早々にしませ、真っ直ぐそこへ向かった。
入るとすぐ、彼女は酒場の片隅で1人呑み続ける金髪のグラマーな美人に目が止まった。
ひょっとしたら海賊?はたまた賞金稼ぎ?な感じの胡散臭そうな男たちの中で、彼女の艶やかな出で立ちはあまりにも目立っていた。
「あんた誰よ?」
男より女の人の方が話しやすいと判断したニーナが近づいていくと、彼女はきつい口調で聞いた。
「私、ニーナ。」
「あたしは、チーシャってんだ。何か用なのかい?」
横のイスに座ったニーナをじろじろ見ている。
「え?あなたが、チーシャさん?!
よかった~!すぐ見つかって!
まさかこんなにすぐ見つかるとは思わなかったわ!」
嬉しそうにそう言うと、早速フリッチからもらったIDチップを取り出した。
「これ、フリッチさんから。」
「ああ、あんた、フリッチを知ってるんだね。」
彼女は少し警戒を解いたようだ。
「ええ。」
ニーナは彼女にIDチップを渡した。
「これを渡すように頼まれたんだけど、すっかり遅くなっちゃって。」
「まー、頼んでからずいぶん経つことは経つけど・・。
でも、これでやっとIDスクランブラー・チップを手に入れられたわ。」
彼女は、お礼だと言って100クレジットをニーナに渡した。
「ありがと。」
そう言うと彼女は、再び酒をあおり始めた。
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「あ、あの・・」
「何だい、もう用はないんだろ?」
彼女は、ニーナが話しかけても、それ以上答えようとはしない。
ビールジョッキを次から次へと空けていくチーシャ。
その飲みっぷりにニーナは呆れて見ていた。
バーテンは心得たもので、ジョッキが1つ空になるとすぐなみなみと注いだ代わりのジョッキを持ってくる。
チーシャの前のテーブルには、いつもビールが入ったジョッキが5つ置いてあるというわけだ。
「おい、そこのはなたれ小僧!」
急に後ろからドスの利いた声をかけられ、ニーナは、びっくりして振り向いた。
そこには、天井につかえるかと思うくらいの大男が立っていた。
いかにも海賊でござい、と言った感じで、ごつい身体に鬼のような顔をしている。
「おいチビ、お前のようなションベン臭いガキがチーシャを口説こうなんて、10年、いや、100年早ぇぜ!」
彼の後ろには、彼より少し若いやせた男がいた。
「そうそう、兄貴でも堕ちないってのによ、生意気なガキだぜ!」
「お前ぇは黙ってろい!」
大男は振り向くと怒鳴る。
その途端、そのやせた男は、後ずさりして首をすくめた。
「余計な事は言うんじゃねえっ!」
「へ、へい・・。どうも・・・。」
彼は、頭をかき、ぺこぺこする。
「どきな、ぼうず!」
再びニーナの方を向くと彼女の方に近づき、チーシャとの間に入ろうとしてきた。
ニーナの襟元に大男の手が伸びてくる。
捕まえられる!と思ったとき、チーシャがそれまで飲んでいたビールを大男の顔にぶっかけた。
-バシャッ!-
「な・・ななな・・・」
顔に勢いよくかけられ、ビールでびしょびしょになった男は、見る見るうちに怒りで顔が赤くなっていった。
「何だよ、文句あるってんのかい?」
男を睨んだチーシャの目つきはまるで鋭利な刃物。
「あたしが弱いモン虐めは嫌いだって知ってるはずだよ?
おととい来な!あんたに用はないよ!」
「わ、分かったよ・・・行きゃーいいんだろ?行きゃー。」
しばらくにらみ合ったあと、男はそう言ってくるっと向きを変えた。
「行くぞ!」
そして苦々しくやせた男を従えると舌打ちして、他の席に移っていった。
「ふん!意気地なし。」
それを横目でちらっと見ると、チーシャは再び酒をあおり始めた。
「あ、あの・・どうもありがとうございました。」
ニーナは小声で彼女に礼を言う。
「用がないんなら早く帰んな。
ここは、あんたみたいな女の子の来る所じゃないよ。
幸い、女の子に見られなかったらしいけどさ。
女の子と分かったら、何されるか分かったもんじゃないよ!」
チーシャは、ニーナの方も見ず、小声でぶっきらぼうに言った。
「でも、ここならいろいろ話も聞けそうだし。
こういった所って賞金首も隠れやすいんじゃない?」
「あんた、賞金稼ぎかい?」
「ううん、違うわ。
ただ、探している人がいて、ここなら隠れるのにもってこいだし、情報も多そうだから何かわかるかな?と思って。」
「探し人かい?賞金稼ぎじゃないって言ったね?」
「うん、話の流れで引き受けちゃった人捜しなんだけど…事情を聞いたら気の毒で…。」
「ふん、そうかい。
確かにあんた、お人よしの甘ちゃんに見えるからねえ?
でも、お気をおつけ。
ここにいる奴らは、いかにして自分だけが甘い汁をいただこうかと思ってるやつばかりだからね。
騙し、脅し、偽情報で丸儲け、ワナにかけるなんざ、お手のモンさ。
罪悪感なんてこれっぽっちも持ってない奴らばかりだからね?」
チーシャは、人差し指と親指で1mmほどの空間を作った。
「そう…ですか。」
周囲を見渡せば、なるほどと思ったニーナは、ダメそうだなと肩を落とす。
「どうしよう、ラックス・・・
ここなら何か分かるかな?って期待してきたんだけど・・」
-ダン!…ガタタ!-
ニーナがため息と共に小さく呟いた直後だった。
チーシャが手にしていたジョッキをテーブルにぶつけるように置いて勢いよく立ち上がる。
そして、何事かと不思議に思っているニーナを引き寄せる。
最初、彼女の表情は自分の耳を疑っているような驚きの表情だった。
そしてそれは、ゆっくりと大輪のバラの様な微笑みへと変わっていき、それまでとはうって変わった口調でニーナの耳元でささやく。
「ラックス・・・ラックスがあなたをここへよこしたのね?
私の苦境をご存じなのね?
ああ、彼がそばにいてくれたら・・。
あなたは私を助けられて?」
何という偶然、何というラッキ-
・・・そして、何という精巧さなのだろう!
アンドロイドだとはとても思えない精巧さだった。
肌は多分人工皮膚なのだろうが、本物そっくりにできている。
目も口も髪も、声も全てアンドロイドとは全く見えないのである。
最もその完璧なまでのプロポーション、それにその類稀な美しさ、それを思えば、アンドロイドなのだと納得もできるが。
(いくらなんでも完璧な美人すぎるもんねー。)
「助けてあげたいけど・・でも、どうやって?」
驚きでしばらく声が出なかったニーナは、ようやく彼女に言った。
「あたしは当分姿を消していなくちゃならないのよ。
船の修理用アンドロイドはいらない?
リプログラミングするの。
あたしにだってそれくらいはできるし、そうすれば、賞金稼ぎにも気づかれないわ、きっと。」
チーシャの目は懇願するかのようだった。
「じ、じゃぁ、作業員にでも変装して船に乗り込んでくれない?
頼んである荷を積み込む時ならIDチェックもしないし、ごまかせそうよ。」
「そうね、別行動を取ってその方が良いわね。」
一緒に酒場から出て行っては目立ちすぎる。
さっきのような奴が尾行してきて、また難癖つけないとも限らない。
「じゃーね、ぼうや。
度胸は買うけど、もう少し大人の男になってから来るんだね。
そしたら1杯くらいつきあってあげなくもないさ?」
ぶっきらぼうの口調に戻し、しっしとニーナを追い払うように手を振ったチーシャに、肩をすくめて苦笑すると、ニーナは酒場を後にした。
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