SFスペースファンタジー「星々の輝き」28・肉食恐竜は哲学者

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ナーシー星系のバーで、シシャザーンという巨大爬虫類と運よく会うことが、いや、運悪く会うことができてしまったニーナ。
その完璧なまでの肉食恐竜な外見。鋭い牙大きな口。
一口でぱっくり食べられそうな気配に、生きた心地がしない。

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SFスペースファンタジー「星々の輝き」28・肉食恐竜は哲学者

ナーシー星系にある採掘ステーション『ラグランジェ』。
着いた早々、もしかしたらとちらっと覗いてみたラグランジェの酒場でニーナは運よく(悪く?)、知的巨大爬虫類の姿を見つける。
逃げる機会を失ったニーナは、覚悟を決め一献付き合うことにした。

肉食恐竜は哲学者

「ところで、キミは哲学というものに興味は持っているのかね?」

「哲学ですか。えーっと……あまり難しいことはわからないんですが、あ、あの哲学者なんですか?・・え、えーと、ボルフさんは?」

ボルフの前には、ニーナでは到底持てそうもない巨大なジョッキが置かれた。

自分もその巨大なジョッキで飲むのか?と思っていると、バーテンダーが出してくれたのは普通の大きさのジョッキで、ほっと一安心。

「そうだ、人間の愚行について学んでいるのだよ。」
ぎょろりと目を動かしてニーナの顔を覗き込むボルフ。

シシャザーン種の観察に来たのだが、まるでニーナがシシャのボルフに観察されているようだ。

しかも、『ズームアップ』イコール『恐さアップ』

ニーナは、今にもその牙で引き裂かれ、その大きな口で食べられてしまうのではないかと思い、牙から目が離せなかった。

生きた心地がしないというのはきっと今の心境だとニーナは思う。
本当ならこんな所にいたくない。が、今更席を立つわけにはいかない。
そのとたん、私のおごりが飲めないかと怒り、その牙で刺殺されそうである。

恐怖でジョッキを支える手も、そして声も震えていた。
「に、人間の愚行?」

ボルフは鱗でおおわれた腹に手を当て、司祭のように厳かに言った。

「人間の歴史とは、愚かさによって営まれておる。
バスルチのマイコン3を見たまえ。
マンチーとの不毛な小競り合い、お前達のリーダーにしても・・・・・。」

「リーダーって?」

「お前達人間のリーダー、つまり現在でいうと帝国皇帝だよ。」

「あ・・な、なるほど。」
大局的に言えばそうだ、とニーナは納得した。

「お前達のリーダーは、上手く統治するには、歳をとりすぎているか、野心を持ちすぎているか、そのどちらかだ。
ヒアスラとコスを見たまえ!全く愚かなことだ!」

(ヒアスラ皇帝と、コス提督?何かあったっけ?)
そんな上の人の事など全然知らないニーナは返事のしようがない。

「マンチーとの争いも、避けようと思えば、簡単に避けられるものだ。
お前達2つの種は、競い合うような共通点がない。
人間の不合理な恐れが、マンチーとの闘いに油を注いでいるのだ。」

「不合理な恐れ、ですか。」
(私が今、抱いているあなたへの恐れも、不合理というわけですよね。)とニーナは思わず心の中で呟く。

(でもシシャザーンが恐くない人がいるだろうか?)とも感じていた。

「呑まないのかね?」
なかなかそのビールを口にしないニーナにボルフは言った。

「あ、はい、いただきます。」
彼女はなみなみと注がれた茶色いビールを一口呑んだ。

「・・・おいしい・・。」
意外とうまかったのである。
一口、また一口とニーナは呑んでいった。

そうしているうちに、すっかり酔いが回り、何がなんだか分からなくなっていった。
ボルフが次々とお代わりを進めてきたこともそうだが、おそらく怖さを忘れようとする心理が、普段よりニーナに杯を重ねさせた理由だろう。

ボルフの声が頭の中で響いている。
何を言われているのかも分からなくなってきていた。

「もうお遊びはこのくらいにしておくんだな、おチビさん。」

その少しきつい口調で放たれたボルフの一言で、ニーナは我に返った。

そして教授に頼まれた事を思い出し、いっぺんに酔いがさめた。

(わ、私、ボルフの機嫌を損ねちゃった?
教授に頼まれた言葉は……言える雰囲気じゃないよねえ?恐くて・・・。」

「どうしたね、おチビさん?
何か私に言いたいことがあるのだろう?」

感がいいと言おうか、ボルフはニーナの落ち着きのないその様子に、ただ単に酒につきあっているだけではないと判断したらしい。。

「え・・・え~と・・・」
その感と気遣いは、さすが哲学者だとは思ったが、それでもなかなか言えなかった。
その言葉がボルフの自尊心を傷つける事が分かっているため、なおさらのことだ。

「それとも私には言えないことかね?」
はっきりしないニーナの態度はボルフの機嫌を悪くしたようだ。
声色がきつめになった。

それでも、もじもじとしばらく迷ったあげく、言っても言わなくても気分を損なうのなら、と、ついにニーナは口にした。
今一度なみなみと注いでもらったジョッキを片手で持ち上げて、ぼそっと・・・。

「ラ、ラグビット!…(そして消え入るような声で)…に乾杯♪」

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任務完了後の恐怖

その途端、ボルフの目が赤々と燃え、牙をむいた口が大きく開いた。

「何たる侮辱!!」
確実に怒りを帯びたボルフの叫び声が辺りに響いた。

バーテンダーも恐怖に駆られ、カウンターの下へ潜り込んで息を殺している。

そのボルフの大きく開けた口の正面で、ニーナは死を覚悟してこれ以上小さくならないというほど身を丸くしてガタガタと震える。

彼の熱い息がニーナにかかる。
今にもぱっくりと頭から食べられそうな気配だ。

「しかし、間違いだとは言えないだろう。」

(え?)

ニーナは耳を疑った。
ボルフの声は、ついさっきの怒りの声とはまるっきり異なった落ち着いたものだった。

恐怖でぎゅっと閉じた両目をそおっと開けて、ボルフをチラ見する。

「それは、遙か昔、我々の種がまだ知性を持たない頃の呼び名だ。
キミは私がその方が良いと言うのかね?」

ぶんぶんぶん!とただひたすら首だけを横に振るニーナ。
声など出そうもない。

「では、なぜ、言ったのだ?私を侮蔑するとは思わなかったのか?
それとも侮蔑することで、私が知性を持たぬ太古の本性に戻るかどうか、試したのか?」

ぶんぶんぶん!と、またしてもただひたすら首だけを横に振る。

「では、なぜだ?理由があるのだろう?」

ごっくん!とボルフにも聞こえそうなほど、大きく唾をのみ込んでから、たどたどしい話し方で、シシャザーンの生態を研究している大学教授から頼まれたのだと説明する。

「なるほど、それならば合点がいく。
ともかく、チビのくせに見上げた奴だ。
どうなるかわからぬのに逃げもせず任務を全うした。
その勇気に免じて、責めないでいてやろう。」

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ほう~~~~~、安どして胸をなでおろしたニーナの目の前に、握手を求めるボルフの大きな手があった。

(え?握手したとたん、引き寄せられてぱっくりってこと、ないよね?)

とはいえ、この場で握手しなわけにもいかない。とにかく、覚悟を決め(これで何度目だろう)ニーナは手を差し出した。

ただし、大きさが違うため、ボルフの人差し指を握ってシェイクハンド。
心臓が破裂しそうなほどの緊張感。

「だが、もう2度とその呼び名で呼んで欲しくはない。
現在の我々とは、かけ離れすぎている。」

「は、はい・・・す、すみません。」
小さくなって握手しているニーナを、ボルフは多少怒りを込めた視線で軽く睨み、そして、すぐ微笑んだ。

依頼…恐怖の任務は無事完了。
ニーナは、すぐにでもその場を立ち退きたかったが、握手の後、再びボルフに薦められたビールを断れず、暫く呑み交わす羽目になった。

いつ気が変わって食べられるのか、ボルフと別れるまで生きた心地がしなかった。

次の星系へ

そして、無事デネブプライムに戻ったニーナは、すぐフェルセーン博士に会い、彼との出来事の一部始終を詳しく話し、これで論文が完成できると大喜びした博士から、約束通りマリーの工芸品だという不思議な形のオニキスを受け取った。

それは、ファーアームの先住民、しかも何世紀前に存在し、マリーゲートを作ったと言われる幻の民族の遺産らしかった。
本当にマリーの工芸品かどうかはさておき、材質がオニキスなので価値は大であることは、間違いない。

無事だったから言えるのだが、恐い思いをした対価としては、ニーナにとって満足いくものだったことは確かだ。

「さて、今度はどこに行こう?」

あれこれ思案しながら船内にある自室のテーブルを片づけていると、ふとその引き出しの1つにIDチップが入っているのに気づいた。

フリッチから渡されたIDチップだ。
(参:#7海賊崩れのフリッチ

「そういえば、これを持ってバスルチ星系に行かなくちゃ。
でも、バスルチのフリーギルド拓殖基地って確か、海賊の本拠地って聞いたけど。
それに・・あれからもう何ヶ月も経っているし・・もういらなくなってるかも?」

(とにかく、これも行ってみるしかないよね?)

自問自答し、ニーナはコクピットに戻ると、自動航行の目的地をバスルチに繋がっているマリーゲートにセットした。

 

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