闇の紫玉

闇の紫玉/その18・闇王、投獄される

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闇世界第七層で出会ったフェアリーの姉妹の案内で、ゼノーは闇世界第6層に降りた。

闇の紫玉、その18・闇王、投獄される

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

投獄されたゼノー

闇の波動を辿り、ゼノーが第五層へつながっている道に向かって歩いていると、突然、バラバラとダークエルフの集団が現れ、ゼノーを取り囲む。
全員武装している彼らは、その剣を一斉にゼノーに向けた。

「何か私に用ですか?」
そんなエルフにも動ぜず、ゼノーは静かに聞いた。

「お前の胸に聞いてみろ!」
その中のボス格のエルフが睨みながら言った。

「そう言われても、私には何が何だか、さっぱり分かりませんが。」

「まぁいい、とにかく一緒に来てもらおう。」

顎で歩けと指図するエルフに、ゼノーはおとなしく従って歩き始めた。
彼の周りは相変わらず剣で取り囲まれている。

そうして、彼らは第五層にある、エルフの王宮へとやってきた。

-ガッシャーンッ-
いきなりゼノーは地下牢へと入れられた。

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「何か悪いことでもしたかな・・・?」
ゼノーは牢の床に座ると考えていた。

謁見の間では、ゼノーを連れてきたエルフが王にその事を報告していた。

「ふむ・・・ご苦労じゃった。で、どんな男なのじゃ?」

「はっ、それが、外見は、男というより五、六歳の幼児といった感じなのです。
が、その雰囲気は、どこそこ威厳もあり、ただ者ではないような気もするのですが・・・」

「ふむ・・ま、姫が落ちついてから詳しく聞くとしよう。
それまで逃がすでないぞ。」

「ははっ。」

食事は1日3食きちんと差し入れてくれたが、取り調べもなく、ゼノーが誰かと話がしたい、と言っても何の音沙汰もなく2日が過ぎた。

こうしていつもまでもここにいる訳にもいかないゼノーは、そこを出ることにした。

(でも、どうやったらここから出れるのだろう?)

それから、1時間程ゼノーは牢のあちこちを丹念に調べた。
が、格子の鍵はどうやっても外れそうもない。周囲の壁も隙間一つ無く牢から出ることは無理のように思えた。

(何かいい方法が・・・)

再び座り込むとゼノーはじっと考え始めた。

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そして、空間移動という事を思いつく。
やってみた事はない、だが、可能性はあった。

試してみるべきだと思い立ったゼノーはすぐ精神を集中し始める。

闇の気を探り、それに自分の気を同調させる。

闇の中に溶け込むんだ、闇の中に、と自分に言い聞かせ、その様子を心に思い描きながら、じっと座り込んでいた。

十分、二十分とゼノーは身動き一つせず、集中し続けた。

と、自分の身体が軽くなるのを感じたゼノーは、そっと目を開け自分自身を見た。
身体がゆっくりと溶けるように消えていく。

「できた!」
ゼノーは嬉しげに呟くと、行き先を考える。

「そうだな、まず、理由が聞きたいな。」
ゼノーの姿は完全に闇に溶けていった。

王の誤解

その頃、モーラ王女の私室では、様子を見に来た国王が乳母のヤンと話していた。

「どうじゃ、姫の様子は?」

「はい、薬湯の効き目がまだ効いておりますので、ぐっすりお休みでございます。」

「一体何があったというのじゃ?
そちなら何か見当がつくのではないのか?」

「いいえ、残念ながら。
姫様は、恐怖で引きつった顔をしてお帰りになられてから、何もおっしゃらないのです。
ただ、呆然として、何か聞くと悲鳴を上げられるだけで。
それで失礼かと思ったのですが、魔技のサロナスに姫様の心の内を読んでもらったのです。」

「サロナスが読み取った男は、ゴラキュスタが召し捕ってきたが。」

「本当に何があったのでしょう?
姫様の心は恐怖で震え、その男以外何もないのです。
その男が姫様に何かしたのだとは思いますが・・一体何があったのでしょう?」

「わしもまだ会ってはおらぬが、小さな少年だとゴラキュスタは言っておった。
そんな少年がモーラに何ができるというのだ?
それもあれほど恐れおののくような事を?」

「なるほど、その姫様が原因だったんですね。」
急にどこからともなく声がし、国王とヤンは辺りを見回した。

「だ、誰じゃ?」

「先日捕らえられたその少年です。」
闇の中から滲み出るようにゆっくりとゼノーがその姿を現した。

2人はぎょっとしてゼノーを凝視していた。
闇にその身を溶かすという事は、ただ者ではない事を示していた。

「そ、そなたは・・一体?」

「私の名はゼノー。この世界の王、闇王です。」

「や、闇王?」
2人は驚愕してゼノーを見つめていた。
確かにその尋常ならざる雰囲気は、そうと言ってもおかしくはなかった。
が、確固とした証拠は何もない。

「わしは、ダークエルフの王、デクアスヴァルじゃ。
そちが闇王様だという証拠は?」

しばらくして落ちついたデクアスヴァルはその威厳を持って、ゼノーに尋ねた。

「残念ながら何もありません。
が、私が姫君に何もしてない事は確かです。
人間から助けはしましたが。
彼女が目を覚ませば、全てわかるはずです。」

「人間から助けた?」

「そうです。第七層での事です。
あの時は確か、プチデビルも一緒でした。
ギコギコという名前の、木に住むホビットの弟分で、ペペとか言っていました。」

「国王様、このような所では・・・急ぎ、貴賓室を用意いたします。」

やはりゼノーの雰囲気で普通人ではないと悟ったヤンは、2人に深々とお辞儀をすると、慌てて部屋を出ていった。

「そうであったな。
姫はまだ目を覚ましようもないようじゃ。
こちらへまいられよ。」

ごほんと咳払いをすると、国王は先に立ちゼノーを貴賓室へ案内した。

ゼノーと国王が貴賓室へ行くと、そこはすでにヤンたち女官の手によって、すっかり整えられていた。

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調度品はすべて重厚な木製の手作りの物。
それぞれ塵一つ、埃一つなく磨かれていた。

王は、ゼノーにその豪奢な肘掛けイスを勧め、すぐ来る旨言うと部屋を出ていく。

入れ代わりにヤンが女官と一緒に飲み物を運んでくる。

ゼノーが飲み物を飲みながらしばらく待っていると、国王が再び姿を見せた。

「すっかり待たせて申し訳ない。
では、早速だが、話の続きをお聞かせ願おう。」

ゼノーの目の前のイスに腰掛けると、国王はゼノーの目をじっと見て話し始めた。

「ホビット村にでも、使者を向けられましたか?」

「あ・・い、いや・・・まぁ・・・・。」

「構いませんよ、私は。
木の幹を住まい家としているホビットは珍しいと思いますので、すぐ見つかるでしょう。」

「あ、ああ・・・」
国王は、一瞬焦りその視線をゼノーから逸らしたが、すぐ戻した。

「それで、姫を助けてくれたという事なのじゃが・・。」

「はい。私が浮遊城から第七層の地上へ下りた時の事です。
人間の僧侶が勇者の一行から譲り受けたとかで、姫君を脇に抱えていたのです。
同じくプチデビルを捕らえていた仲間と共に人間界に帰ろうとした時、私が人間を消し、2人を助けたのです。
姫君はすぐ姿を消してしまいましたが。」

王がヤンを呼ぶと、彼女は、ここ数日彼女が王宮の何処にもいなかった事を話した。

「とすると、今までも姫が時々城を、このダークエルフの国を抜け出していたと?」

「も、申し訳ございません。
私共としましては、必死にお止めしたのですが、いつも上手い具合にごまかされて、いつのか間にかいなくなってしまわれて・・・」

ヤンは床に頭を付け、そこにひれ伏した。

「まったく、姫のおてんばには手を焼くわい。
で、次に会ったのが第六層という事なのじゃな?」

「はい。姫君を捕らえたと思われる勇者の一行と偶然出逢い、彼らを倒した時、ふと振り向くとそこに姫君がいたのです。
ですが、彼女はまたしても逃げるように消え去ってしまったのです。
どうしたのだろう?と思いながら歩いている所に王の部下が来たという訳です。」

「ふむ・・・結局は姫が目を覚まさないかぎり分からぬという事か。」

「それでは、私は今一度牢へ行くべきでしょうか?」

「いや、それには及ばぬ。
話しておれば、その人となりは分かるつもりじゃ。
そなたは、姫に不躾を働くような者ではない。」

「信用していただき、ありがとうございます。」

ゼノーは軽く会釈した。

王はそんなゼノーを見ながら、自分がゼノーを問い詰めるれるような立場ではないような気がしていた。

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ちょうどその時、王がホビット村へ放った使者が帰り、ゼノーのたっての願いで、2人の目の前で事の次第を王に報告した。

「姫を助けてくれた事に違いないようじゃ。本当に申し訳ない。
恩に報いるばかりか牢に入れるような事をしてしまった。
まず、お連れした時にお逢いするべきじゃった。
何しろあまりにも姫の状態が尋常ではなかった為、冷静な判断を失っておったようじゃ。」

王がゼノーにその頭を下げ謝ると、部下のゴラキュスタがそこに跪きそれを訂正した。

「いいえ、悪いのはこのゴラキュスタでございます。王には何も・・・・」

「いやいや、全ては上に立つ者の責任じゃ。そちが悪いのではない。」

「私は気にしてはいませんので、その件についてはもういいかと思います。」

「そうか、そう言って下さればありがたい。」

王は、ヤンに今一度王女の様子を見てくるように命じた。
できたら起こしてくるようにと。

そして、そのテーブルに食事を持つよう命じた。

 

▼その19につづく…

闇の紫玉/その19・ダークエルフの姫君

闇世界第6層。誤解によりダークエルフの王にとらえられたゼノーだったが、その誤解も溶け、エルフの国の貴賓としてゼノーはしばらく滞在することになった。 闇の紫玉、その19・ダークエルフの姫君 このページは ...

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