闇の紫玉

闇の紫玉/その10・悪夢からの目覚め

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ワナに足を取られ、1人残ったゼノーを村人の狂気が襲う。
そこには理性を失った人間の怖さ、醜さだけがあった。

注意:このページでは残虐シーンの描写があります。
このページを飛ばしてお読みいただくことも、お話の流れ的には支障ありません。

闇の紫玉/その11・闇世界の浮遊城

シャンナの仇だと狂気に支配された村人の手にかかって命を落とした…ように見えたゼノー。 そのゼノーをやさしく抱き留めた闇の手があった。 人間ではないその手の主、ねじれた角を持つ異形の闇の住人は、ゼノーを ...

闇の紫玉、その10・悪夢からの目覚め

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

悪夢からの目覚め

「お目覚めですか?」

紳士的な低く辺りに響くような声がしてゼノーは眠い目を擦りながら回りを見る。

ゼノーの寝ていたのは、天蓋のついた豪華なベッド。
加えて衣服もボロボロの薄汚 れたものではなく、真っ白な絹で作られたものに変わっていた。

そのふかふかの布団から出てベッドの端に腰掛けたゼノーの身体は、泥一つついてなく、血と泥で汚れきってべとべとだった髪もサラサラになっている。
勿論、罠に挟まれ怪我をしたはずの右足の傷痕もなくきれいだ。

何故このような所にいるのか、自分の状況が分からないゼノーは、座ったままじっと考えていた。
あの後・・リーだけ逃がして・・・それからどうなったのか・・・

注意:この次の見出し以下では残虐シーンの描写があります。
このページを飛ばしてお読みいただくことも、お話の流れ的には支障ありません。

闇の紫玉/その11・闇世界の浮遊城

シャンナの仇だと狂気に支配された村人の手にかかって命を落とした…ように見えたゼノー。 そのゼノーをやさしく抱き留めた闇の手があった。 人間ではないその手の主、ねじれた角を持つ異形の闇の住人は、ゼノーを ...

悪夢の記憶

「逃げろ、リー!」

心の中で叫びながら、が、もう一つの自分は逃げないでくれ、一緒にいてほしいと叫びながら、ゼノーは右足の酷くなる痛みを堪えつつ、遠く走り去っていくリーの小さな後ろ姿を見ていた。

「捕まえたぞ!こいつめ、手を焼かせおって!」

「悪魔めっ!」

「シャンナの仇っ!」

息切れ々に駆けつけた村人は、口々に罵るとその手に持つ農具を高く掲げ、一斉にゼノーの上に振り下ろそうといていた。

「あ・・・・・・リ、リー・・・・・」

ゼノーは村人の鬼気迫った表情に、顔からは血の気も失せ、全身が震えていた。
動けないまでも少しでも逃げようと身体をずらした。

「殺せぇっ!」
そのかけ声と共に鋭い刃がゼノーを襲った。

「わあっ・・・・・!」
思わずゼノーは村人から視線を逸らすと後ろを向き、頭をかかえてそこにうずくまる。

-ズブッ!-

「ぐっ!」

最初の鋤の一振りがゼノーの首を貫いた。
続けて鎌が、鍬が、斧が次々とゼノーの小さな身体を襲った。

鮮血が一面に飛び散り、どろりとした真っ赤な血が流れ出る。
まるで地獄の光景だった。
瞬時にして、辺りは血の臭いでむせ返っていた。

が、狂気に支配された村人は、ゼノーの身体の反応が全くなくなってもそれでも手を止めることもなく突き続けた。
ただ、幸いなことにゼノーは最初首を貫かれた時、すでに意識は失っていた。

「もう止さぬか!」
村人の酷いとも言える容赦ないその攻撃は、後から来た村長の掛け声で止まった。

狂気に駆られていた村人は我に返り、手にしていた農具や斧を下ろした。

「ここまでやる事もなかろうに・・・。」

村長はむせ返る血の臭いに顔を歪めながら、内臓は飛び出、その全身を血に染め、ぼろ雑巾のように転がっているゼノーを見た。

「何を言うだ。シャンナを見ただ?こんくらい・・狼に喰い殺されるのと比べりゃ、まだまだやり足りねぇ!」

「そうだ、そうだ!」

返り血で真っ赤に染まった村人は、殺してもまだ飽き足らず、ゼノーを口々に罵りはじめた。

「だけんども、ちゃんと首だけは、残してあるで。」
先頭切ってゼノーに切りつけた若者が得意気に言った。

「顔が分かんなくなっちまったら、賞金はもらえんからな。」

その時だった。
ずたずたに切り裂かれ、ぴくりともしなかったゼノーの身体がゆっくりと起き上がり、内臓をぶら下げたまま宙に浮く。

そして、その目がカッと見開かれる。

「ヒ、ヒィ・・・・・!」

村人は妖しく光るその赤い瞳に捕らわれ、その場に立ち尽くしていた。誰も声さえ上げることができない。

ゆっくりと、その血に染まった両の手の平が村人に向けられる。

そして、その手の平が徐々に光り始め、その次の瞬間、閃光が放たれ、そこにいた村人は一人残らず周りの木々と一緒に消滅した。

すると、ゆっくりとその瞳を閉じられ腕も下ろされ、ゼノーの身体は下に落ち始める。

と、そのゼノーを抱きとめるように、黒い影が現れてゼノーを包み込んだ。

ゼノーの落下は止まると同時に、黒い影は徐々にその形を作っていった。

ゼノーを抱いて立っていたのは、戦装束の真っ黒な人間だった。
が、その顔は牛のもの、その頭には、2本のねじれた漆黒の角があった。

(そうだ。僕は全部それを見ていたんだ。まるで劇でも見ているように。・・・それから・・)

ゼノーは思い出していた、その黒水牛に抱かれた途端、何故だかとても彼の腕が温かく思え、安心して眠った事を。

 

▼その11につづく…

闇の紫玉/その11・闇世界の浮遊城

シャンナの仇だと狂気に支配された村人の手にかかって命を落とした…ように見えたゼノー。 そのゼノーをやさしく抱き留めた闇の手があった。 人間ではないその手の主、ねじれた角を持つ異形の闇の住人は、ゼノーを ...

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