闇の紫玉

闇の紫玉/その3・幼き二人旅

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村人の狂気が荒野の一軒家を襲撃する。
母親の窮地を助けようと無意識に少年ゼノーが発した気は、ただごとではなかった。
恐怖に追い散った村人は逃げ返り、なんとか助けた母親も自分は実の母親ではないと恐怖で固まり双子を拒絶。

絶望の中、双子は旅立つ。実の母親がいるらしいといわれたソマー城を目指して。

闇の紫玉その3・幼き二人旅

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】のページです。
闇王となったゼノーのお話。お読みいただければ嬉しいです。
異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の番外編【闇の紫玉(しぎょく)】、お話の最初からのINDEXはこちら

母を求め

ゼノーとリーは荒野をとぼとぼと歩いていた。その背に急いで身の回りのものを入れてきたリュックを背負って。

母親と思っていた人から『悪魔の子』と呼ばれ拒絶された事は、幼い2人にとってこれ以上ないショックだった。

まだまだ母親が恋しい2人は、とにかくその庇護を求めて本当の母親がいるというソマー城に向かうつもりだった。

が、それがどこにあるのか、どっちの方向なのか全く知らなかった。

というのも、2人が母親だと信じ切っていたルチアは、もはや話が出来る状態ではなく、ソマー城に母親がいるという事以外は聞き出す事が出来なかったからである。

恐怖に染まって口もきけない彼女を目のあたりにして、2人の心は深く傷つき沈み、彼らもまたそれ以上何も話す気が起きなかった。

日が沈み、空にちらほら星が見えてくる頃、2人はようやくセル村付近まで来ていた。
が、入口には松明が灯され、見張りが立っている。

「兄様・・・」
リーが心配気にゼノーを見た。

幼くても2人は十分承知していた。
それが2人の為の警備だという事を。

見つかれば殺される事は確実だった。

2人は改めて自分たちだけだという孤独感を噛みしめた。
今朝までの温かい家もルチアもジャンも何もない。

「見つからないようにしないと・・・。」
幼いながらもゼノーは必死で考えていた。

何とかして無事にソマー城まで行き着く事、ただそれだけを考えていた。
それには先ず、何処かで夜を過ごさないと。
だが、普通に村に入るのは危険のようだ。

その時、後方から馬の蹄の音と荷馬車の音がした。

2人は慌てて道の側の窪地に身を伏せた。その馬車は農夫が1人乗っており、後ろは藁が山のように積んであった。

2人は目配せをするとその馬車が通り過ぎる直前、急いで後ろに飛び乗り藁の中に潜った。
幸運にも道が悪いせいで、ガラガラという荷馬車の輪の音と馬の蹄の音で、2人はどうにか見つからずにすんだ。

そして、無事村に入れた2人は、そのままその藁の中で寝入ってしまった。

翌日、まだ夜が明けないうちに2人はそっと起きだし、持っていたパンを食べると、納屋から見つからないように抜け出す。

そして、家々の影を縫うようにして、反対側にある村の出入口まで行く。

幸い見張りが寝ているのを確認した2人は、安心して村の外へと出ることができた。

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狼の母子

村を出るとしばらく森が続いていた為、2人は道に沿って森の中を行くことにした。

「兄様、本当の母様は僕たちを嫌わないでしょうか?」
リーは心配顔でゼノーに聞いた。

2人の脳裏にはあの優しかったルチアの変貌した姿が残っていた。

あれほど優しかったルチアでさえあんなふうだったのだ。
まだ一度も会ったことのない母親はどうだろう?今まで一緒でなかったと言うことはやはり嫌われていたからなのか・・2人はいつの間にか4歳児とは思えないほどの思考力をつけていた。

「多分・・何か理由があって・・だと思うけど。」
ゼノーは自分にも言い聞かすように言う。

とにかく、この村からはなるべく遠く離れなくては。誰も自分たちの事を知らない所まで行ってからソマー城の場所を聞こう、そう思った2人はひたすら歩きつづけた。

「わっ!」
リーが地面に這い出た木の根につまずいて転ぶ。

荒野育ちで足には自信があった2人だが、こんなに長くそしてこんなに早く歩き続けたことはなく、足の痛いのを我慢して歩いていたが、その疲れでもう足が上がらなくなってしまっていた。

「リー、大丈夫?」
慌てて先を歩いていたゼノーが駆け寄る。

「うん、ごめんね、兄様。」

「もう少し頑張れる?」

「うん。」

立ち上がりながら元気に返事をするリー。
が、明らかに疲れ切っている様子。
そしてそれはゼノーも又同じだった。

「じゃ、少し森の奥へ入ってから休もう。」

「うん。」
道に沿って歩いていた為、そこだと誰かに見つかる心配があった。
ゼノーとリーは手を取り合うと黙って森の奥へと入って行った。

樫の大木を見つけると2人はその根元に座る。

「ほら、リー、干し肉。」
ゼノーは、自分の袋から干し肉を取り出し、リーに渡す。リーは水筒をゼノーに差し出す。

「ふふふっ」
どちらからともなく2人は笑った。
そして少しずつ食べはじめる。
お腹はぺこぺこ、身体はくたくた。
そうしていつの間にか2人はそこで寝てしまった。

「キュ~ン、キュン、キュン」

どのくらい寝ていたのだろう、ふと子犬の鳴き声で2人は目が開いた。

「・・今の犬・・・?」

「リーも聞こえた?」
眠い目を擦りながらゼノーは立ち上がり声のした茂みを探る。

「リー!狼の子だよ、ほら!」
大きさは2人の半分くらいだが、ゼノーが抱き上げたのは確かに狼の子供だった。

その可愛らしさにリーも思わず駆け寄り、その頭を撫でる。

「うわあ、かっわいいっ!」

「キュン、キュン・・・」
子狼はゼノーに抱かれたままじっとおとなしくしている。

「でもどうしたんだろ?母さん狼はどうしたんだろう?子供だけほかっておくはずないんだけど・・・」

「ん・・餌でも探しててはぐれたのかなぁ?」

「キュ~ン・・・・」

「あっ!」

子狼はゼノーの腕からするりと抜けると茂みのなかへ走って行った。

「キュン、キュン・・・」

茂みの向こうで自分たちを呼んでいるのだと感じた2人はガサガサと茂みの中へ分け入りその後をついて行く。

「待って、待ってよぉ!」

2人は子狼の後を木の枝や草で手足が傷つくのも構わず、必死で追いかけた。
結構早く走っていく子狼は、時々そんな2人を振り返りながら森の奥へ、奥へと走り続けた。

「キュンキュン!」

「あっ!」
そこには母狼と思われる狼が、その後ろ足を罠に取られて動けなくなっていた。

「ガルルルル・・・」
2人が近づくと母狼は動けないながらもその頭をもたげ、2人を睨むと唸った。

「もうだいぶ経つのかな?随分弱ってるよ。」

「うん。」

「キュンキュン・・・」

子狼はそこに立ち止まってどうしようか迷っている2人に、助けてくれと懇願するかのように鼻を鳴らした。

2人は顔を見合わせて戸惑っていた。
助けてはやりたいが、母狼に噛まれるかもしれない。

「よ・・よ~し!」
勇気を出して母狼に近づいたのはリーだった。

「リー!」
慌ててゼノーも近づく。

「ガルルル・・・」
まだ唸り声を上げ睨む母狼にリーはやさしく声を掛ける。

「大丈夫だよ。僕たちは何にもしないよ。今外してあげるからね。」

「キュンキュン」

2人がしゃがみこんでそっと足に触れると母狼は一瞬噛もうと頭を上げたが、子狼がさっと彼女に近寄りその鼻を舐めた。

母狼はどうやら2人が敵ではない事を理解したらしく、それからは、2人のなすがままになった。

そんな母狼を確認すると2人はその足を挟んでいる罠を力を合わせて広げた。

「もう少しだ・・・」

罠の歯に触らないように持ったつもりだったが、力を入れているうちに2人の手にも食い込んできた。
が、それを我慢して2人は渾身の力を込めて引っ張り合った。

-ガチャリ-

「ふ~・・・・」
ようやく罠が完全に広がり、母狼の足は自由になった。

「クンクン」
起き上がった母狼と子狼は血が出ている2人の手を舐める。

「はははっ。くすぐったいよ!」

「キュンキュン」
2人は傷ついた母狼の後ろ足にハンカチを裂いて巻くと、持っていた干し肉と水を狼の親子に少しあげ一緒に食べた。

そして、もう夕暮れ近くになっていた為、母狼の案内でそこからまた少し奥に行った洞窟の中でお互いに温め合いながら眠りについた。

昼間は暖かいと言っても、木枯らしが吹く夜は到底野宿するのは無理だった。

翌日、いくら追い払おうとしても離れない狼の親子に根負けし、が、2人にとってはこの上もなく幸運な事のだが、一緒に旅をする事になった。

母狼は小柄な2人をその背に乗せると子狼を従えて森の中を駆け抜けた。
すぐに街道沿いまで出た一行は、その道に沿って森の中を次の村へと向かう。

2人は母狼にリリー、そして子狼にゼノアと名付け、頼もしい道連れができたことを心から喜んだ。

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2人と2匹の旅

2人と2匹の旅は続いた。

昼間は走れるだけ走り、夜はなんとか場所を見つけてその寒さを防ぐため2人と2匹はお互い寄り添って寝た。

もはや、2人にとって狼の親子はなくてはならない仲間となっていた。

が、村までは入れないため、村の近くまでくると森などで隠れる場所を見つけておき、1人は狼たちと残り、もう1人が様子を見てくるという感じで何とか旅は続けられた。

時々は狼の親子のみ残し、2人で様子を見に行ったこともあったが、ほとんどはゼノーが1人で村へ行っていた。

それは、リーは完全に狼と理解し合っていたのだが、ゼノーは今一歩入り込めないという感情を抱いていたからだった。

昔からリーには自然や虫や動物たちは自分の友達なのだという意識があった。

だから、狼の親子の事も自然に受け入れる事ができたのだと思えた。

狼の親子もリーのその気持ちが分かるのか、リーには同じような感じを持っているらしかった。

セル村から村3つ離れたところで、もういいだろうと判断したゼノーはようやく村人と口を利きソマー城の場所を聞き出す事ができた。

それと、水は手に入るのだが食料はそうもいかず、困りきったゼノーがリーに内緒で初めて他人の物に手をだしたのもその村だった。

が、森の中で待っていたリーにはゼノーがあまりにも緊張していたのだろうか、その感情が伝わってきて、何をしたのか全て分かっていた。

それも仕方のない事だと思ったリーは、食料を手に入れてきたゼノーに、何も言わずに受け取る。

ゼノーにばかりいやな目に合わせて、とすまない気持ちで一杯になりながら。

次の村で今度は自分がと思い、村へ行ったリーだが、どうしても上手く行かず、結局食料を手に入れるのはいつもゼノーの役目となってしまう。

そうやって2人と2匹の旅は続いた。

幼い2人の足だと永遠に続くかとも思われた道のりが、母狼の協力によって明るいものとなった。

母狼は走る、野を越え、山を越え、森の中を荒れ地を駆け抜けた。

ゼノーとリーをその背に乗せ、横に子狼を従えて、ひたすらソマー城を目指して。

▼その4につづく…

闇の紫玉/その4・旅の終着点、母のいるソマー城

母親(と信じていた女性)から拒絶された双子は、その絶望感中、ほんのわずか残っていた希望を求め、実の母親のいるソマー城へと向かう。 その途中、母子狼とひょんなことから仲良くなった双子は、狼のおかげで一気 ...

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