月神の娘

続・創世の竪琴【月神の娘】24・姉貴はお姫様

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王宮の中庭に出てしまった洋一と優司。
兵士に取り囲まれて王子から尋問を受ける。
そして、投獄。2人を待っているのは拷問か、野獣との決闘か?

月神の娘/24・姉貴はお姫様

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら
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救世主現る

「いいから、おどきなさい!」

「し、しかし、このようなところへ…」

「このようなところというような場所に、弟を放っておくわけにはいかないでしょう?」

「し、しかし、本当に弟君なのか分からず…王子がまもなく参りますので、それから…」

「…私に命令するのですか?」

「あ、いえ、め、めっそうも……」

牢内で一夜明かした翌朝、洋一と優司は、なんだか騒がしい気配で目が開く。
なかなか寝付かれなかったため、まだ頭がぼーっとしている。

「優司!え?ぶ、部長も?」

聞きなれたその声に眠気も呆けも一気に覚め、2人はハッとして頭をあげる。

そこには、鉄格子を握りしめて立っている渚…と思える人物がいた。

「あ、姉…貴?」

そう、そこにいたのは確かに渚と思えるのだが、きらびやかな宝冠などのアクセサリーと豪奢なドレスを身に着けた、どこからどう見ても見知らぬ(?)王女様。

「優司!待って、今出してあげるから!」

コトの事実に呆然と突っ立っている牢番の方を向くと、渚は凛とした声で命じた。

「鍵を!早くここから2人をお出しなさい!」

慌てて牢のカギを開ける牢番。
と、そこへ王子が駆けつけてくる。

「月巫女殿…まさか彼は本当に?」

「間違いなく私の弟と…兄です。」

青ざめて駆けつけた王子の顔色が一段と青くなる。

「王子、なぜ私に確認もしないで牢へなど入れたのです?…いえ、王宮にいなかった私が悪いのですが、それにしても結論を出すのが早急すぎませんか?」

「も、申し訳ない。」

「湯あみと食事の用意をして、しばらく私たちだけにしてください。」

「は。」

片膝を折り、深々と頭を下げる王子。
…と、その後ろに控える兵士たち。

「姉貴!」

「か、桂木!」

(行くわよ!)と目くばせする渚の後、兵士の間を落ち着かない様子で2人はついて行った。

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貴賓の待遇

それから1時間ほどのち、王宮内の貴賓室で3人はずらりと王族の食事が並べられたテーブルに着いていた。

「部屋もすごいけど、…こんなごちそう見たこともない。」

「食器からして違うって!」

「ごめんね、優司。それから部長も。ケガはない?」

「ああ、ちょっと縄がきつかったくらいか?」

「え?見せて?やだ…あちこち血がにじんでるじゃない!」

慌てて洋一の両手を自分の手で取って見る渚。

「お、おう・・・」

洋一は自分の手を握られていることに思いっきり意識して顔を赤くしてどもる。

「優司は?」
一方傷の心配に気を取られている渚は無頓着に洋一の手を取ったまま、優司の方を見る。

「あ、うん…オレも縄がきつかったし、ちょっと槍の先が当たったとところがあってさ?」

「あーもう~~、勝手にこっちに来るから!」

「んなこと言ったって、事情を話してくれない姉貴だって悪いんだぜ?どんだけオレたちが心配したか?」

「それに、まさか本当に来れるとは思わなかったし。」

「あ……そ、そうよね、ごめん。」

「…にしても、そのお姫様ルックにその言葉遣いは似合わないっていうか?」

「優司だって!」

3人同時に苦笑する。

そう、渚だけでなく風呂上がりの優司と洋一もまた、王子様ルックと言える貴族の子息の服装に着替えさせられていた。

「なんでもいいから、ごちそう食べないか?オレ、もう腹減って。」

縄で縛られていた手首をさすりつつそう言った洋一を見て、渚はイヤリングの竪琴を手に取って等身大にする。

「その前にケガ治しちゃおうか?向こうじゃ使えないけど、こっちなら効くと思うわ。」

窓辺の椅子に腰を下ろし、竪琴を奏で始める渚。
心地よい音と、渚のその姿にうっとりする優司と洋一。

ポロロ……と弾き終わり、にっこりとほほ笑む渚のその笑顔は、この王宮の暮らしで培われ、無意識に浮かぶようになったいわゆるRoyalスマイル。

「なに2人ともぼ~っとしてるの?
お腹が空いてたんじゃないの?」

渚に言われハッとする2人。
傷も癒され、しかもすっかり心を奪われていたようだ。

「だけど、すげーな、完璧きれいに治ってる。」

まじまじとつい少し前まで血がにじんでいて痛々しげだった自分の手首を見て洋一がつぶやく。そして、それは優司も同じ。

「ふふっ、すごいでしょ?」

「そこで自慢するとイメージダウンだぞ、姉貴?」

「いいじゃない、ホントのことだもん。」

「ま、王子様いないしな。
オレらだけなら地でOKだよな。」

「そういうこと♪」

「だけどさ、なんでオレが兄なんだよ?」

豪勢な食事に舌鼓を打ちながら、洋一が渚に聞く。

「そうでも言わなきゃ、どうなるか分からないじゃない?」

「どうなるかって?」

「向こうは救世の月巫女の利用価値を算段してるのよ。
兄弟でもない男が追いかけてくる理由って、普通一つでしょ?」

「あ・・・」

邪魔者は消せ・・・その文字が洋一と優司の頭に浮かぶ。

「あ!そうか!兄って言うより、優司の護衛にしておけばよかったかも?」

「か、桂木・・・・」

がくっと全身から力が抜ける洋一に、追い打ちをかける優司。

「だめだよ、山崎さんのどこが護衛に見えるんだよ?」

確かにそうだった。
身長の差はまだ少しあるにしても、現に、運動クラブに入っている優司の方がぐんといい体つきである。

「だけど、なんでオレたちがここにいることが分かったんだ?
携帯かけたときは出なかったくせに?」

「え?携帯なんてかけたの?やーねー、つながるわけないじゃない?」

「藁をもすがるってやつだって。」

「まー、そうよねー?矢を突き付けられて尋問されてちゃ。」

「だから、どうやって分かったんだ?」

「それはね…バッコスが、…えっと、闇世界の住人の一人なんだけど、私によく似た気を人間界で感じるって教えてくれて、急いで飛んできたの。」

「なんにしろ助かったよ、桂木。
あと少し遅かったら、オレら拷問受けてたか、闘技場でトラかなんかの餌になってたかも。」

「ごめんなさい。これでも急いで来たのよ。」

「で、これからどうする?」

「それがね、前ここを離れるとき、王子を眠らせて逃げちゃったから警戒されちゃってて、簡単に出られないのよ。」

「眠らせて逃げた?」

「そう。」

「ふ~~ん。で?あの金髪ハンサムとは?」

「あ……」

優司に聞かれ真っ赤になる渚。
自分のキスシーンを見られているのだから当然の反応だ。

「ま、まさか、桂木……?」

「ま、待って!誤解しないで!何もなかったから!私は潔白よ!」

慌てて早口で断言しながらますます赤くなる渚を見つつ、あったら向こうであんな展開にはならないだろうと、優司と洋一は顔を見合わせて、ひとまず渚の言葉を信じることにした。

「了解。姉貴の純潔は守られたままってわけだ。」

「優司!」

「王子さんとはどうなんだ?」

「部長まで、そんなにからかわないでくれる?」

「いや、だってさ、兵士が”殿下と婚儀”とか言ってたぞ?」

「そ、それは、向こうが月巫女の利用価値を考えての目論見よ。
私は承諾してないし、するつもりもないわ。」

「なるほど。だけど、桂木にとって、ここは、ある意味で危険がいっぱいには違いないということだよな?」

面白くないという面持ちでつぶやく洋一に優司も賛同する。

しかも簡単には出られないというおまけつき。

戸惑いに満ちた宮殿生活

それはともかく、渚の板に付いた月巫女(王女)ぶりに、2人は目を丸くし、そしていつしか憧れの目で見るようになっていた。

その威厳と尊厳に圧倒され、緊張してろくに話せない国王夫妻の前。
立ち並ぶ神官や武官たちの間。
優司と洋一とは異なり、渚は堂々とそして完璧にお姫様していた。
(もっとも王宮に来た頃の渚も2人と同じようなものだったのだが)

誰しも渚には平伏し、国王夫妻や王子までも貴人の礼をもって接し、それを当然のものとして受ける渚は、女神ディーゼの月巫女としての気品にあふれた礼節をもって返していた。

「オレって・・・シスコンだったんだーーーー!!」

憧れの目で渚を見るようになっていた事と、必要以上に渚の傍にいる王子にいらつく自分に気付いた優司は愕然とし、洋一はますます渚が遠くの人になってしまったような気を受け、気落ちする。

上品な笑顔っともにそっと渚の傍らに寄り添う王子や、ここにはいないが金髪ハンサムなイオルーシム・・・どうあがいてもその差は大きい。比べものにならないほど。

洋一ならいいというわけでもないが、ともかく、優司は洋一と共同戦線を組んで、渚を守ることにした。

傍目には、妹が可愛くて仕方がない兄と、姉が大好きな弟の必死の邪魔と写り、そして、王子も、部下でも臣民でもない2人を追い払うこともできず、いいところを邪魔されたとしても苦笑いをするしかなかった。

が・・・きらびやかな宮殿生活とは相反して、渚の心は沈んでいく一方だった。

 

▼月神の娘・その25へつづく

続・創世の竪琴【月神の娘】25・賑やかなパーティー

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