自分の世界に戻った翌日、イオルーシムのことが気になる渚は、教授に住所を聞こうと急ぐと、キャンパスでばったり会ったのは、女の子に取り囲まれてにやけているイオルーシム…(らしい青年?)。
月神の娘/21・記憶喪失の遊び人
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら)
(月神の娘のこの前のお話は、ここをクリック)
遊び人は本質?
優司と洋一からの説明要求のチャンスを作らないようしたおかげで、無事(笑)その翌日を迎えた渚は大学に来ていた。
それは勿論教授にイオルーシムの住所を聞くためである。
が大学に着く早々、戻ってからというもの、心配でいてもたってもいられなかった渚の気持ちは微塵にも粉砕された。
大学のキャンパス、群がる女の子に笑顔を振りまいて歩く金髪の留学生・・それは、確かにイオルーシムだったからである。
「イ、イル?」
教授の部屋へ行く前、渚はその様子に唖然として立ちつくす。
渚の声にイオルーシムと周りの女の子たちが渚を見る。
知ってる女(こ)?まさかこの女とつきあってる?というような女の子たちの視線に、イオルーシムは肩をすくめて否定する。
「きゃっ、きゃっ・・・それからねー・・・」
ガキは引っ込め、と言わんばかりに色気のない(一般的評価)渚に蔑視を飛ばすと、彼女たちはイオルーシムと共に去っていく。
「イル?」
が、そこで引っ込む渚ではない。
どれほど心配していたか、無視するのならこっちもそれなりに対応するんだから!と呆気にとられて立っていた一瞬後、イオルーシムの後を追う。
「イル!昨日はどうしたのよ、いきなりいなくなって!」
女の子達をかきわけ、渚はイルに顔をつきあわせて抗議する。
「昨日?」
が、イオルーシムは訳分からないといった顔つきで周囲の女の子達を眺め回す。
「ちょっと、あなた、そんな言葉でイルの気を引こうと思ったって無駄よ!」
「そうよ!そうよ!後から来たくせにずうずうしい女ね!」
「後からって・・私は・・」
「ごめん、人違いじゃないかな?ぼくは君を知らないんだけど。」
「え?」
「人違いって・・イルみたいな素敵な人がどこにいるのぉ?」
イオルーシムの右腕をしっかり掴んでいる女が、上目遣いで言った。
「だけど、ホントに、知らないから。」
「イル?」
「ほらほら、嘘だって事バレバレなのよ?」
どん!渚を押しのけ、女の子達はイオルーシムを連れて渚の視野から姿を消した。
後に残された渚は、今起こった事が信じられず、しばらくその場に呆然と立っていた。
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「やあ。」
「・・・イル?」
あまりにもショックで家へ帰る気にもならず、時間外で無人のキャンパス内の軽食コーナーの片隅で一人ぼんやり座っていた渚にイオルーシムが声をかけてくる。
当然、その瞬間渚の顔が嬉しさで輝く。さっきの態度はごまかすためだったのかと思う。
「君、渚さんって言うんだって?」
「え?」
が、イオルーシムの口から出た言葉は、渚の耳を素通りした。
「教授に聞いたんだ。成績優秀な模範生だって。」
「え?」
それは、確かにイオルーシムだが、渚の知っているイオルーシムではなかった。
すっと渚の横に座ると同時に肩に手をかけてきた。
「日本の逸話や神話に興味があってこっちに来たんだけど、渚はそういったことに詳しいんだって?」
「あ、あの・・イ、イル・・でしょ?」
「そうだよ。」
にっこりと笑うその笑みは、いつもの温かい笑みと違っていた。
それは、俗に言う女たらしの笑み?エサを狙う狼の微笑み。
「君に教えてもらえば、レポートもすぐ書けそうだよ。後はゆっくりと日本を満喫。」
(日本の女をでしょ?)
思わず渚はそう思った。
「君もまんざらじゃないんだろ?」
逃げ腰になった渚の肩をぐっと力を入れて掴み、イオルーシムはぴったりと身体を寄せる。
「さっきだって、ぼくの気を引こうとしたんだろ?日本の女の子も結構積極的なんだね?」
-ビッターーーン!-
のぞき込むように顔を近づけてきたイオルーシムの頬に、渚のスペシャルビンタが入っていた。
と同時にすっくと立ち上がり、渚は叫ぶ。
「あなたなんか・・・・あなたなんか、私の知ってるイルじゃないわっ!」
怒りは収まらず
「ばかーー!イルなんて死んじゃえーーーー!」
-ボスッ!ドカッ!-
帰宅した渚は部屋に入るなり、枕をベッドへ投げつけたり拳で思いっきり叩いたりして悪態をついていた。
イオルーシムに違いないその人物は、記憶でも失ったのかまるっきり渚の事は覚えていない。
「イルがあんなに女たらしだったなんて知らなかったわよ!」
確かに普通なら自分など相手にされそうもないほど美形だ、と渚は思う。
そして今一つ思い出したこと、それは、異世界、つまりシセーラは極端に女性が不足しているのである。
だからこそであり、女性などわんさといる(しかも渚より色気もルックスもいい)こっちの世界では、渚の影など薄くなる?という事実。
「記憶が戻ればそんなこともないわよね?」
散々悪態をついたあと、渚は小さく呟く。女たらしのイオルーシムには寒気がしたが、やはりイオルーシムのことが好きというのは事実。
消そうと思ってもそう簡単に消えるものではない。
「でも・・記憶がない時って、その人の本性が現れるって聞いた覚えが・・・」
ということは、今のイオルーシムが本当の性格?と渚は青くなって落ち込み、投げた枕を抱え込む。
(も、もういいわ・・・それより向こうへ行かないと。今度はきちんと。)
気がかりではあるが、今日のようなイオルーシムとは話したくなかった。
偶然名前もそして顔つきも似ている(似すぎてはいるが)人物がこっちの世界にいたということかもしれない、と渚は自分に言い聞かせていた。
「そうよ!イルはあんな人じゃないわ!まるっきりの別人よ!」
本当の、渚の知ってるイオルーシムは、闇世界のどこかに飛ばされたのかも知れない、と渚は思いつつ、そしてそうであってほしい、そこで無事であってほしいと願いながらパソコンの前でバッコスの迎えを待っていた。
▼月神の娘・その22へつづく
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続・創世の竪琴【月神の娘】22・怒りのストーカー
女の子に取り囲まれてにやけているばかりでなく、軽い気持ちで渚に声をかけたイオルーシム。…とりもなおさずそれは渚を落ち込ませたのだが、その一部始終を見ていたストーカーが2人いた。 渚よりも大激怒。怒りを ...