イオルーシムとは意見は決裂。それでも説得を試みようとする渚の目の前で頭をかかえ苦しみ始めるイオルーシム。
その苦しみを取ろうと女神の竪琴を奏でると、光の神殿もイオルーシムも消え、そこには光一筋もない真っ暗な闇が広がっていた。
月神の娘/20・堪忍袋の緒
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら)
(月神の娘のこの前のお話は、ここをクリック)
闇の女王、ブチ切れる
(いいかげんにしてよね・・・)
何処まで行っても暗闇の中、ついに渚はブチ切れた。
(私が誰だと思ってるのよ?闇の女王なのよ?・・闇の女王といえば、この闇だって、私の支配下よ!でなかったら、もう一度竪琴を弾いてこんな闇、消滅させてやるから!)
竪琴を握りしめ、そういえば、と渚は思いつく。
イオルーシムが光の神殿だといったそこに満ちていた眩い輝き、光の粒子。
それに竪琴から出た光との異質さを感じた。
女神ディーゼの竪琴、それは創世の竪琴であり、そこから輝きを放つ光は清らかで荘厳なる聖なる光。それと光の神殿の輝きは違っていた。
(ということは・・・)
竪琴を弾くと同時にまるでその輝きに飲み込まれてしまったかのように消え失せた光の神殿。
そして辺りは闇に包まれた。
(騙されてた?私も・・そして、イルも?)
イオルーシムが光の神殿だと思っていたところは、実はそうではなく、闇世界のどこか。
何者かが何らかの為にイオルーシムを騙して連れて来、そして渚を連れてこさせた。
そう考えるのがスジだと渚は思った。
「そう・・・つまりはそういうことだったのね。
誰か知らないけど、闇の女王に上等な事してくれたじゃない?!」
力無く座り込んでいた渚がすっくと勢いよく立ち上がる。
「せっかく会えたのに、イルをどこかへやっちゃうし・・・。」
そして、激しい頭痛に苦しむイオルーシムを思い出す。
「まさか・・殺したなんてこと・・ない・・わよね?」
自分の言葉に、渚はぞくっとする。
「ううん!そんなこと!!」
あってはならないことだった。
その可能性がないわけではなかったが、もしそうなら、自分の目でイオルーシムの死体を見なければ信じられない、渚はそう思っていた。
「で?・・・・ここが闇世界のどこかだとしたら~・・・・」
きっと暗闇を睨み、渚は続ける。
「バッコスに届いてもいいわよね?」
バッコスとは、渚に何かと世話をやいてくれ闇世界のことも親切丁寧に話してくれたあのミノタウロスである。
そのあきれ返るほどの酒豪さに、名前はないといった彼に渚がつけた名前だ。
本来神の名前なのだが、そんなことはどうでもいいし、ここはギリシャ神話の世界ではないからかまわないだろう、と渚は判断した。
-パン!-
気合いを入れるため、顔の前で勢いよく両手を合わせた。
それから合わせた指先を眉間につけ、渚は目を閉じて意識を集中する。
「バッコス!聞こえる?
ここがどこか私では分からないけど闇世界のどこかにいるの。
そっちからなら分かる?」
闇世界なら隅から隅まで知っていると言っていたバッコス。
それに彼なら王宮でのときのように渚の波長を辿ってこれるはずだ、と思う。
果たして、しばらく後、バッコスはにこやかな笑顔(恐いけど)で姿を現した。
「どうされたのです、月姫様?このようなところにおいでとは?」
「・・・バッコス・・酔ってるの?」
やっぱり闇世界だった、とその点は安心しながらも、お酒の匂いをぷんぷん漂わせているバッコスを思わず睨む。
「い、いや・・・ほんの少しいただいただけです。
ご命令に支障はございませぬぞ。・・で、月姫様はどうやってここへ?」
「え?そ、それはつまりその・・・・あ、それはどうでもいいから、ここがどこか分かる?」
闇王と望む人に連れられ、そしてその人物は闇世界の崩壊を願ってるなどと言えるはずもなく、渚はごまかした。
「ここは、闇世界の最下層でございますぞ、月姫様?」
「最下層?」
「魔族でも相当な魔力がなければ、闇の圧で死してしまうエリアです。」
「圧死?」
「しかし、さすが月姫様。
ぴんぴんしておられますなー・・。がっはっは!」
「バッコス!」
「あ、いや・・失礼。
ともかく浮遊城へお連れしましょう。
私もここにはそう長く居られませんので。」
ともかく渚はバッコスの腕に抱かれ浮遊城へ戻った。
そして、しばらく滞在してくださるのでは?と言うバッコスに、そのつもりではないのに来てしまったことを告げ、当座に必要な月神のパワーだけ取り入れると、改めて来るからといって、渚は自分の世界へ返してもらった。
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戻れば翌日の夕方
が・・・・
「な、なによ、バッコス?
酔ってないなんていって、やっぱり酔ってたんじゃない?」
どこをどう間違えたのか、急いで帰ってきたはずなのに、いつもより時間が過ぎていた。
時の接点を間違えたのか、翌朝ではなく、すでに夕方・・・・。
つまり完全に一夜明けすでに翌日の夕方。
-カチャ・・-
渚は、そおっと部屋のドアを開けてみる。
そろそろ夕方の6時。
行方不明だと大騒ぎになっていないだろうか、と渚の心臓はどくんどくん!
「あ、姉貴?!」
「え?」
廊下へ出たとたんに、同じく部屋から出てきた優司と目が会った。
「どこ行ってたんだよ、姉貴!」
「ど、どこって・・・あ、あの・・・」
「で、でも良かった・・・帰ってこなかったらどうしようかと思って・・オレ・・」
「ゆ、優司?」
信じられなかった。
顔を合わせれば喧嘩ばかりの生意気な弟が涙ぐんでいた。
「桂木・・」
「え?」
そして、優司の部屋から出てきた洋一に、渚はその事がどういうことなのか咄嗟に判断する。
洋一の表情もかなり沈んだ面もちである。
渚が消えたことを話し、2人で心配していたのだろうと容易に分かる。
「あ、あのね・・な、なんでもなかったから、誤解しないでね・・・・ほ、ホントになんでも・・・」
「渚?帰ってるの?」
真っ赤になって焦っているところに、階下から母親の声がした。
「あ、は~~い!」
母親の口調はいつものものであり、それは、行方不明などという大事にはなっていないことだと分かる。
「帰ってるなら夕食の支度手伝ってちょうだい!」
「は~~い。」
まさに助け船とはこのこと?と思いながら、渚は優司の顔も洋一の顔も振り返らず、勢いよく階段を下りていった。
(それはいいけど、このあと、どう説明しよう?・・・・)
イオルーシムのことも心配だが、こっちはこっちでどう説明しようかと気をもみながら、ひとまず安全地帯?のキッチンで手伝い続けていた。
▼月神の娘・その21へつづく
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続・創世の竪琴【月神の娘】21・記憶喪失の遊び人
自分の世界に戻った翌日、イオルーシムのことが気になる渚は、教授に住所を聞こうと急ぐと、キャンパスでばったり会ったのは、女の子に取り囲まれてにやけているイオルーシム…(らしい青年?)。 月神の娘/21・ ...