「桂木と奴とのハッピーエンドのエンディングなんて創れない!」
心の叫びをはき出したかのような洋一の言葉に、渚には返す言葉がない。
帰宅後、洋一が創ってくれたゲームを呆然と眺め見る渚だった。
月神の娘/17・玄関先のラブシーン
このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の続編、【MoonTear月神の娘】途中の展開です。
渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【続・創世の竪琴・MoonTear月神の娘】お話の最初からのINDEXはこちら)
(月神の娘のこの前のお話は、ここをクリック)
和解策は思いつかず
「待って・・・確かイルは月下蝶の花を使って向こうと行き来するって言ってたわよね?」
パソコンの画面を見つつ、イオルーシムとの再会の場面を思い浮かべていた渚は、ふとそんなことを思いついて呟く。
「確か月下蝶って、闇世界の花。」
ミノタウロスの言葉が渚の記憶にある。
それを思い出し、渚は首を傾げる。
「でも、イルは光の神殿にいるって言ってたわよね?」
闇そのものを異常なほどまでに嫌っている感じがした光の使徒。
その彼らが闇の花など使うのだろうか?ふと渚にそんな疑問が湧く。
思わずゲーム内のアイテム図鑑を開いて、月下蝶を確認してみる。
そして、地図帳を開き、光の神殿を探す。
「・・そうよね、私が知らないんだもん・・・あるわけないか。」
システム上、ダンジョンなどの追加はまだできるようになっている。
現在位置不明と記載されているだけの光の神殿も、あとで追加できる。
「できるけど・・・それって、私が現物を見てからのことよね?」
それは、ゲームがあってその世界があるのではなく、その世界があるからこそゲームが作れるという証拠?、と渚は、はっと思った。
偶然同じだったからゲーム通りになったと思ってしまったのかも知れない、と渚は考え直す。
世界があってほんのたまたま同じゲームが作られたその共通点から道ができてしまった?
だから、進行はゲームとは関係ない?
それにしても似たような展開でありすぎるが、ともかく、渚はイオルーシムとのことに、少し明るさが見えてきたと思った。
「それに、作り直したゲームは・・・性格設定も何もないし。
本当にどうなるか分からなくなってるから。」
先は分からない。それはプレイヤー次第。
「私がこのパーティーで進んで、闇世界も人間界も平和な関係を作ったら、向こうもそうなるのかしら?」
そして、イオルーシムとの関係は、以前のように戻るのか、と渚は考え込む。
つい今し方ゲームと実際の向こうの世界での展開は関係ないと思ったばかりなのだが、そこはやはり恋心というものだろうか。
イオルーシムはあの日以来、大学へは来ていなかった。
教授に住所を聞いて、理由を聞かれるのも渚は恥ずかしかった。
いや、会いに行って拒絶されるのが恐くて聞くことができないのかもしれなかった。
「でも・・そろそろまた向こうへ行く頃よね?」
渚はキャラクター作成画面を閉じ、ゲームを終了する。
「ミノタウロスたちが心配してるかも。」
イオルーシムと共に戻れたらどんなにいいだろう、と思いながら渚は沈んでいた。
「結局、イルは闇王にはなれないってこと?」
とすると、リーはどうなのだろう?前闇王の血を分けた実の弟、リー。
男女の関係はこの際別と考えて、そういう闇王と月巫女が存在することだってあってもいいはずだ、と思った渚は、イオルーシムのことはひとまず考えないようにし、異世界へ戻ったらリーを探してみようと思っていた。
リーの控えめなそしてやさしい笑顔を渚は思い出していた。
たとえ恋人ではなくても、リーとなら心を合わせ、闇世界を修復することも、守っていくことも可能だと思えた。
が、本当は誰よりも何よりもイオルーシムに会いたかった。
会って・・分かってもらいたかった。
できるなら、イオルーシムと闇世界を守っていきたかった。
人間と争いのない平和で静かな闇世界を2人で協力して。
金髪イケメンの訪問客
-コンコン!-
「あ、はーい」
「姉貴、お客さん。」
「え?お客さんって・・・私に?部長じゃなくって?」
こんな夜にだれだろう?と渚はパソコンの前に座ったまま、ドアを開けて立っている弟の優司を見る。
「うん、金髪の男の人だけど・・・」
「え?」
ガタッ!と立ち上がる渚。
「姉貴、あんなハンサムと知り合いだった?・・おっと・・・」
どん!と優司を押しのけ、部屋から飛び出す。
「イル・・」
階段の中断で、玄関に立つイオルーシムの姿が目に入り、渚は思わず涙ぐむ。
「渚。」
数日前のわだかまりなどまったくないようなイオルーシムのその微笑みに、渚は全てを忘れ、階段を駆け下り、イオルーシムの元へまっすぐに駆けていく。
闇の世界のことも、ゲームのことも、優司の目の前であることも、家の玄関先であることも、渚の頭から消え失せていた。
「げ・・・・あ、姉貴・・・?」
渚の慌て方に思わず後を追って階段を下りかけた優司は、胸に飛び込んできた渚を抱きとめ、キスをしようと唇を近づけているイオルーシムの姿に、思わず両手で目をふさぐ。
(あ、姉貴が・・あのおっちょこちょいのどたばたコメディー姉貴が・・・金髪のハンサムとラブシーン・・・・・?し、しかも玄関先でぇー?)
目の前の展開が信じられなかった。
見てはいけないような気がしてとっさに自分の目を塞いだが、その手の指の感覚をそおっと広げて指と指の隙間から前方を覗き込む。
続きが見たいような気もするのは、年頃の男の子。
(え?・・・あ、姉貴?)
手で目を覆っていたのは一瞬だったと思った。
が、再び玄関を見たとき、そこにあるはずの金髪の青年もそして、渚の姿もない。
(ゆ、夢じゃないよな?)
まさか、白昼夢?と思いながらも、優司はダダダッと玄関まで一気に下りていく。
玄関のドアは開きっぱなし。
それは、確かに白昼夢ではなかった証拠とも言えた。
「姉貴?!」
そのままサンダルをつっかけ外に飛び出す。
渚の家の前は1本道、もしも外へ出たのならまだ姿は見えるはずだったが・・・人影は左右どちらもない。
「嘘だろ?」
優司はともかく全速力で右へと道を走り、次の角まで行ってみる。
がその先にも酔っぱらいの男の影が見えただけで、渚と青年らしき人影はない。反対側もそうしたが、人影はなかった。
「どうしたの、優司?」
バタバタしたせいか、優司が家へ戻ると母親が居間から顔を出して聞く。
「あ、べ、別に。」
「そう。」
それ以上何も聞かず、パタンとドアを閉めた母親にほっとしながら、優司は階段をあがっていく。
「いない・・よな・・・?」
半開きになったままの渚の部屋のドアを開け中を覗く。
つけっぱなしの電気とパソコンがあるのみ。
「け、警察に・・・・」
そう呟き、優司はふと気付く。
誰が目を覆っていた一瞬後、姿を消すというのだろう?
誰がそんなことを信じてくれるのだ?
言ってみたところで、多分、男と出ていったのだろう、それで終わるはずだと思えた。
(姉貴が男と?)
それまでそのような気配が全くなかった渚を思い出し、優司は首を振る。
確かに洋一がここのところ数回来たりしているが、渚にそれらしい態度はなかった事も思い出す。
(だけど・・・あれは・・普通じゃないよな?)
優司が全部言わないうちに部屋から飛び出していった渚。
そして、玄関先でのアツアツのラブシーン。
「姉貴だったよな・・・あれ?」
相手は金髪の青年、しかもかなりハンサムな部類に入る。
「いつ知り合ったんだよ、あんなハンサムと?」
どたばたコメディー姉貴には、似合わないと思ったが、ふと最近の渚ならそうでもないかもしれない、と優司は思う。
「やっぱ・・恋をしたから変わったのかな?」
優司はぶつぶつ独り言を言いながら自分の部屋に入る。
そして、渚がいつ戻ってくるかと待ちながらも、いつの間にか寝てしまい、その翌日・・・。
▼月神の娘・その18へつづく
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続・創世の竪琴【月神の娘】18・消えた渚
自宅の玄関先、しかも弟優司の目の前でイオルーシムの胸に飛び込んでいった渚。 その一瞬後、そこから消えた2人に、弟優司は焦って外へと飛び出すがどこにも2人の姿はない。 どういうことなんだ?どうなったんだ ...