創世の竪琴

創世の竪琴/その34・炎龍ファイラ

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転移中に邪魔が入り荒野に飛ばされた渚、イル、ファラシーナ、リーの一行。空家で一泊したその夜闇王ゼノーが双子の弟であるリーに憑依して渚を遅う!
だが、リーの意思の強さに渚は、その危機から逃れられた。「私はいない方が」というリーの言葉を遮り、渚は変わらず同行を求め、今度こそ炎龍の元へと意気込む!

その35・炎龍ファイラ

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の途中の展開です。
女子高生渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
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吹雪の山

-ヒュゥゥゥゥゥ・・・-

数瞬後、一行は激しい吹雪の中に立っていた。

「ここが、炎龍のいるフリーアス山・・。」
渚は一歩先も見えない吹雪の中で緊張していた。

「今度は大丈夫だったみたいだね!」
ファラシーナが嬉しそうに言った。

「洞窟へ入るぞ!」

しっかり重ね着してきたとはいえ、この猛吹雪の中ではすぐ凍えてしまう。
イルの掛け声で、周囲を見渡していた渚たちは、はっとしてイルの指し示す洞窟に入った。

「滑るぞ、気をつけろ!」

クリスタルで周囲を明るくすると、静まり返ったその洞窟の中を一行は慎重に歩いて行く。

奥へ奥へと進んでいく・・・この洞窟を守っていると思われる氷狼や氷人の襲撃に合いながら・・・。

どれほど進んだだろう・・いつまでも続くかと思われた洞窟がようやく終わった。

一行は一面氷に覆われた広い空間に出た。

「まるで、氷の宮殿ね・・・」

渚はその美しさに見とれて歩いていた。

宮殿の内部のような造りだった。
氷の柱、氷の壁、氷の床、そして、氷の台座。
その上には巨大な真紅の龍が眠っていた。

「こ・・これが、炎龍、ファイラ・・・?」

あまりにもの巨大さに一行は呆然とその前に立ち尽くしていた。

『何者だ。お前たちは?』
人の気配に気づき、炎龍はゆっくりと目を開け、低く辺りに響く声で言った。
その目は燃え盛る炎のよう。

「あ・・あの・・・」

渚はその目に見つめられ、うろたえるばかりで、用意していた言葉が出なかった。

「神龍、ファイラよ・・世界の崩壊を止める為、あなたの龍玉を貸してもらいたい。」
イルがゆっくり言った。

『龍玉を・・とな?世界の崩壊を止める為だと?』

「はい。どうか、お願いです。
男神ラーゼスに世界を無に帰すことを思い止まるようお願いする為に必要なのです。
あなたの龍玉をお貸し下さい。」

『男神がお怒りになったのは、お前たち人間の行いのせいなのだ。
我等もまた、然り。我が心臓を渡すつもりはない。』

「し、心臓?」
渚は驚いた。

いや他の仲間もその言葉に目を見張った。

『さよう。龍玉とは我等神龍の心臓の事なのだ。』

「・・・で、ですが、それがないと男神の神殿には行けないのです・・世界は・・・」

イルは炎龍をきっと見つめ言った。

『よかろう・・・見事私を倒して、手に入れるがよい・・・。』

炎龍は目を細め、笑ったように見えた。
次の瞬間、その口から業火が燃え出た。

「きゃああっ!」

「ぐっ!」

「ヒーリングっ!」
後ろからファラシーナが叫んだ。

「あ、ありがとう、ファラシーナ。」

「そんな事言ってる場合じゃないよ、渚!」
後ろを振り返り、礼を言う渚をファラシーナは叱咤した。

(そ、そうだ、そんな場合じゃないっ!)
そう思うと渚は炎龍を見直した。

倒さなければ何も始まらない。世界は崩壊する・・・・。

最後の戦いになるか、何とか倒し、龍玉を手に入れる事ができるか、神龍との戦いが始まった。

今までのように魔物ではない、強さは桁違い。心してかからなければならない。

決死の攻防が始まっていた。

「駄目だ、氷の呪文も効かないよっ!」

ファラシーナが叫ぶ。炎龍だから火炎系は駄目としても氷や水の呪文なら多少は効き目があると思ったから。だが・・どの魔法も効かない。

「ど、どうして?」
リーの精霊魔法も魔法玉も効かない。

全員、疲れ切っていた。
炎龍の業火とその翼による疾風の攻撃を防ぐだけで魔法力は使いきっていた。
回復魔法も、もはや尽きかけていた。

『私は炎龍、しかし、この宮殿は本来、水龍の物。
その守りは当然水龍の力に寄る。』

その攻撃を中断すると、台座に座ったままの炎龍は悠然と答えた。
ダメージは少しも受けていない。

「し、しかし、風術も効かない・・・」

その場に倒れたリーの苦しそうな言葉に、炎龍は目を細めて答えた。

『風は場所を選ばぬ。何処でも吹いておる。』

-ヒュォォォォ~・・・・・-

炎龍がそう言った瞬間、一行と炎龍の間に一陣の風が渦を巻きながら吹き抜けた。

一行はその中に、確かに龍の顔を見たような気がした。

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『それ故、私たちは、1頭で3頭であり3頭で1頭なのだ。』

「じゃ、じゃ、どんな魔法も効かない・・・」

『その通り。諦めて帰るがよい、人間よ。
ここまで来たことだけでも褒めてやろう。』

「そ、そんな訳にはいかないわっ!ここまで来たのに・・・みんなが・・待っててくれてるのに!」

それまで炎龍に圧倒され、動くこともできなかった渚。

が、自分を守るようにしてイルが、そしてファラシーナがリーが倒れるのをその目にし、このままではいけないと思ったその心が渚を振るい立たせた。

「女神、ディーゼの名のもと、我は願う、出でよ、ムーンソード!」

『な・・何だと?!』
驚いた炎龍の叫び声が響いた。

「行くわよぉっ!」
渚のムーンソードを握る手に力が入る。

渚の心の中にはグナルーシの、ギームの励ます声が聞こえてきた。
村長夫妻の、村人の、ジプシー団の、山賊たちの声が。

「渚、行くぞっ!」
イルの声が渚の心に響く。

炎龍の吐く業火の中を突進する渚にイルの姿が重なる。

そして、渚の手にイルの手が重なる。

「やあああああああっ!」

炎龍に今正に切りつけんとするその瞬間、ムーンソードが光りその長さは炎龍の身体を両断するのに十分な長さとなった。

『おおおおおお・・・』

「渚・・・」
倒れた炎龍の前に呆然と立つ渚に、倒れていたイルが身体を引きずり近づいて来た。

「イル?!」
渚はその時初めてさっき一緒に剣を握っていたのはイルの精神だった事に気づいた。

「イルっ!」
渚はイルを抱き起こす。

「渚、やったな・・・・。」

「う・・うん。・・待ってて。」
すうっと息を吸うと、渚は竪琴を取り出し、回復の音を奏でた。

が、リーとファラシーナは立ち上がる気配を見せない。
回復したイルが駆け寄り2人を見る。

「渚・・・・」
イルは悲しそうに首を振った。

「そ・・・そんな・・・」

渚は泣いた。
つい先程まで一緒に戦ってきた仲間の死に。

「渚、泣いても始まらないぞ。
俺たちは・・俺たちは進むしかないんだ!」
イルが渚の肩を抱き自分にも言い聞かすように言った。

「う、うん。」

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3つの龍玉

イルは倒れた炎龍に近づくと、その心臓である龍玉を取り出す為、渚のムーンソードを突きつけた。

「駄目ーっ!」
それに気づいた渚は、咄嗟に駆け寄ると炎龍を庇った。

「な、何でだ?龍玉を手に入れないと。」

イルはムーンソードを構えたまま、渚に炎龍から離れるように目で示した。

「だって・・だって、まだ息をしてるわ!・・・炎龍が悪いんじゃないんだもん!」

渚の目からは大粒な涙がこぼれ落ちていた。

「だ、だけど、こうしなくっちゃ・・・」

「イル・・・ね、イル、もう一度頼んでみましょ。
心臓を取り出さなくても、何かいい方法があるかもしれないじゃない?」

あくまで炎龍から離れようとしない渚に、イルは諦め、剣を下ろすとそれを渚に渡した。

「今、楽にしてあげるからね。」

渚は剣をイヤリングに戻すと竪琴を取り出した。

「渚。」

「えっ?」

ふいに声をかけられ、渚は何だろうと思ってイルの方を見る。

「渚・・『楽にしてあげる』って事は、瀕死の者に止めを刺すって事なんだぞ。」

はっ、そうだった、と気づいた渚は、顔が火照っていくのを感じた。

「こ、こんな時に突っ込まないでくれる?
わ・・私は、回復させて楽にっていう意味で・・。」

くくっくっくっと笑うイルを背に、真っ赤になったままの渚は、それでも気を取り直し大きく息を吸うと、竪琴を奏でた。回復の調べを。

『何故私を助けた?龍玉を手にする事ができたというのに?』
立ち上がった炎龍は、静かに渚に尋ねた。

「何か別のいい方法はないんですか?何か?」
渚のその必死な、訴えるような目を見て、炎龍は目を瞑った。

静かな時が過ぎた。

イルも渚も身動き一つせず、じっと炎龍を見ていた。

『他に手だてはない。
我が心臓を、そして、水龍、風龍の心臓を共に持つがよい!』

再び目を開けた炎龍は、眩い光と共にその姿を消した。
あとには、美しく輝く3つの龍玉があった。

拳大の赤、青、緑の玉が。

イルと渚はそっとそれらを両手に乗せた。
その3つの玉は鼓動しているかのように、2人の手の中で光を放っている。

「イル・・・」

「渚・・・」

イルは渚の手から龍玉を取るとそっと用意しきた箱の中に入れ、袋にしまった。

「こんな、こんな結果になるなんて・・・こんな・・・・」
わあっ!と渚はイルの胸に泣き崩れた。

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仲間とともに

「ホントにあんたはまだネンネなんだね。
まぁ、それだけまだ世間に汚されてないって事だけどさ。
とにかく、仕方ないだろ?全ては決まった事さね。」

ファラシーナの声に2人は驚いて、その方を向いた。

「いいところを邪魔するようで、悪いんだけどね。
・・先を急いだ方がいいんじゃないのかい?」

「えっ?で、でも確かに・・・・。」

2人とも訳が分からなかった。確かにあの時心臓が止まっていたのに、ファラシーナだけでなく、リーまで起き上がっている。

「多分・・・死んだんだと思うよ。
真っ暗な所にいたことを覚えてるんだ。
そしたら、急に何かが光って・・気がついたらそこに倒れてたんだ。

「私もそうです。」
ファラシーナが思い出すように言うと、リーもそれに頷いた。

「じゃ、じゃ、神龍が助けて・・・。」
そう、そうに違いない。渚は確信していた。

「さあて、龍玉が手に入ったんなら、行こうよ、太陽神殿へ!」

ファラシーナはその大輪の薔薇ような笑みを渚たちに向けた。

 

▼その35につづく…

創世の竪琴/その35・イルとの戦い

炎龍がいるだろう氷山に無事転移した4人は、見つけた洞窟の入口からおそってくるモノたちを倒しつつ奥へ奥へと進み、ついに炎龍を、いや、炎龍とともにいる風龍、水龍の3体と出会う。 が、彼らが必要としている龍 ...

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