創世の竪琴

創世の竪琴/その27・渚、山賊に誘拐される

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自分が作った?ゲームの世界の魔導師イルとともに、窮地にある世界を救うべく旅だったごく普通の女子高生・渚。はじめての旅にドキドキと不安が交差する。もちろん旅にはもれなく魔物や野生の獣との戦いもついてくる言わば、本物の冒険の旅。

その27・渚、山賊に誘拐される

このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の途中の展開です。
女子高生渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
(異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】お話の最初からのINDEXはこちら
(前の話、創世の竪琴その26は、ここをクリック

山賊

ニーグ村を発って1週間後、2人は途中猛獣や魔物の襲撃に合いながらも、無事ナセルの町に着いていた。

が、そこでの巡業はもう終わった後という事で、次の町『タタロス』へと2人は向かった。

急げばジプシーの一行に追いつくかもしれない。
2人は休む時間をなるべく少なくして歩き続けた。

「イルっ!あれっ!」
木々の間から、山道の先にジプシーらしい一行の姿を見つけ渚は大声を上げた。

「ああ・・・どうやらそうらしい。」
イルも渚に言われるまでもなく、見つけていた。

幌馬車が5台のあまり大きくない一団だが、間違いなかった。

が、どうも様子がおかしい。近づくにつれ、どうやら山賊の襲撃にあっている事が分かった。

「渚っ!」

「うん!」

2人は駆けつけた。
イルは呪文を唱えながら、渚は、イヤリングの剣を構えながら。

「わあー!わあー!」
「うわー!」「きゃあっ!」

そこは既に戦場になっていた。
辺りは剣を交える音や、叫び声、悲鳴が響きわたっている。

力無い者は、馬車を捨て森に逃げ込み、残った戦える者たちが必死に攻防を繰り返していた。

イルは透かさず攻撃に入る。

「渚っ、何をやってるんだ?」

イルは剣も交えず、突っ立っている渚に気づき、大声で叱咤した。

渚は勢い良く駆けつけたものの、戸惑っていた。
それまでの経験で、モンスター類との戦闘には慣れてきた、どうって事はない。

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しかし、今回は山賊とは言え、人間。
それも恐ろしい形相の男たち。
渚は怖くて身震いがし、動けなくなってしまっていた。
戦意がなくなったせいで、剣は既にイヤリングに戻ってしまっている。

「渚っ!」

イルの声ではっとした時だった、渚は後ろから大男に抱え上げられてしまった。

「きゃあっ!」

渚は驚いて、手足をばたつかせた。
が、そのくらいで男の手が解けるわけはない。

男は、渚という戦利品に満足したように山の奥へと入ろうと足を進める。

「イル!・・イルーーー!・・・・」

「くそっ、渚を返せっ!」
渚の方に駆け寄りながらイルが呪文を唱える。

「風龍ウィナーゼとの盟約に基づき、我、全てを切り裂かん・・・・『緑龍裂風!』

「氷に住まう精霊たちよ、我に力を・・・・『氷翔風壁!』」

別の方向から声がし、イルの攻撃は吹雪の壁で消されてしまった。

「な、何だっ?」

イルがその声の主の方を見たその一瞬の隙だった、後ろから山賊の1人が切りつけた。

「しまったっ!」

一太刀めはなんとか交わしたものの、次の一太刀が、イルの脇腹をえぐる。

「な・・渚・・・」

イルは渚が連れ去られた方向に片手を延ばしながらその場に倒れた。

ジプシーの馬車に揺られ…

「気がついたかの?」
気がついたイルの目に写ったのはジプシーの老婆。

「な、渚は?・・・痛っ!」

慌てて起き上がったイルは、脇腹に激しい痛みを覚え、そこに手を充て、再び倒れ込む。

「ほれほれ、急に動かんことじゃ。
脇腹を切られておるんじゃからの。また傷口が開いてしまうぞ。」

老婆が心配そうに動こうとしたイルを止めた。

「渚・・・渚は?」

イルは幌馬車に乗せられていた。
振動と幌馬車を引く馬の蹄の音がしていた。

老婆の他には荷物だけで、渚の姿はどこにもなかった。
イルは自分の事などどうでもよかった、ただ渚の事だけが心配だった。

「残念じゃが、お連れの娘さんは山賊共に連れ去られてしまっての・・・。」

「そ、そんな・・・。」

イルのその目は驚きと悔しさで大きく見開かれていた。
そして、思い出していた、自分の術が誰か別の術師によって遮られた事を。

「く、くっそぉ!こんな事していては!渚を助けなくては!」

老婆の制止を跳ねのけ、イルは起き上がろうともがいた。
が、極度の疲労感と虚脱感で眩暈がし、動けない。

「無理せんほうがいい。
お前さんは丸一日高熱を出して寝込んでおったんじゃからの。」

「ま、丸一日・・・・じゃ、じゃ渚は?」

「分からん・・・。わしらも荷物が半分になってしまった。
子供や年寄りは森やそこらに隠れて何とかなったが、男や女たちは傷だらけじゃ。
最も女たちにとっては、さらわれるよりはいいがの。
おお、こりゃ、すまん・・団の女たちはみな男装しておっての。
狙われやすいからの。
じゃから、お前さんのお連れさんは願ってもない獲物になってしまったんじゃろう。
・・奴らに術師さえおらなんだら、こんな事にもならなかったんじゃが。
いくら腕が立っても魔法には負けるでの・・・こんな事は始めてじゃ。」

「ここには術師は、いないんですか?」

「いたが、先月亡くなっての。
わしの連れ合いじゃった。
孫が少しは使えるんじゃが、あいにくと今はおらんのじゃ。
あの娘にとっては良かったと言えるじゃろうがのぉ。」

イルは焦った。あれから丸一日たっているということは・・・。

「渚を助けないと!」
痛みを堪えなんとか起き上がったイルはそのまま馬車を下りようとした。

「無理するのではない。
急いだ所でどうなるのじゃ?場所は分かっておるのか?」

はっとしたようにイルはその場に止まり、座り込んだ。

どうしていいか分からなかった。

「もうすぐタタロスの町じゃ。わしの孫が先に来ておるでの。
回復魔法くらいできる。もう少しの辛抱じゃ。
折角わしらを助けてくれようとしたのに・・・気の毒な事になってしもうて・・・・。」

イルは老婆のうなだれた姿に言うことがなくなってしまっていた。

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妖艶なジプシー・ファラシーナ

「おばば!山賊に襲われたって?」

タタロスの町に入ると、まだ馬車が止まらないうちに、1人の女が顔色を変えて駆け込んできた。
赤毛だが柔らかそうな長い髪、大粒な緑の瞳でイルより5つくらい年上に見えた。

「おお、ファラシーナ・・・」
老婆は嬉しそうな顔をしてファラシーナを迎えた。

「さっそくじゃが、この人を治してくれないかの?
わしらを助けようとして大怪我をされたんじゃ。」

「ああ、いいよ。」
ファラシーナは横たわるイルを見ると、すぐ回復呪文を唱えた。

「ありがとうございます。」

起き上がり礼を言うイルを見てファラシーナは薔薇の大輪のような微笑みを投げかける。

「どきっ!」

その艶めかしさにイルは焦った。
ファラシーナは、そのジプシー団の舞姫として名を馳せていた。
美人の上、その豊満な肉体から匂いたつ色香に、今までどれほどの男たちが虜になったであろう。
それに加えて、彼女は部類の男好きだった。
ここタタロスに先に来ていたのも、男を追いかけての事だった。

「ふ~ん・・・あんた、なかなかいけるじゃないか・・・ちょいと年下みたいだけど、あたい好みだよ・・どうだい、ぼうや、今晩?」

「あ・・あの・・」

「かっわいいねぇ~・・・・」

戸惑っているイルにファラシーナはますますその気になった。

「ファラシーナ!」
老婆がそばに置いてあった杖で彼女の頭を叩いた。

「いったぁ・・・」
ファラシーナは叩かれた頭を押さえ、老婆を見る。

「まったく、この子は!この人にはもういい娘がいるんだよ!」

「なんだい、もういるのかい?」

がっかりしたように言うファラシーナだったがすぐに何か閃いたように目を輝かせてイルを見た。

「でもここにいないんだろ?じゃ、いいじゃないか・・・あんた、名前は?」

おばばが怒っていることも無視してイルに詰め寄ってきた。

「イ、イオルーシム・・・。」

「へぇ、イオルーシムって言うの?」

「ファラシーナっっ!!」

「はいはい・・・・。」

ファラシーナは邪魔者がいては仕方ないと諦めたのか、馬車を下りて行った。馬車はいつの間にか彼らが逗留地に予定していた町外れにある広場の一角に着いていた。

「イオルーシムとか言ったの。
わしはシュメと言うこのジプシー団の占い師じゃ。
で・・どうなさるおつもりじゃの?ジプシーが襲われたくらいじゃ、町の人間はなかなか動いてはくれんからの。」

シュメは悲しそうに、すまなそうに言う。

「勿論、渚を助けに行きます。身体さえ治れば、どうって事ないです。
俺1人でも大丈夫です。」

「そうか・・行きなさるか・・じゃ、ちょっとお待ちなされ・・・」

老婆は後ろの荷物から水晶玉を取り出した。
ようやくイルはこの老婆こそがニーグの村長が言っていた占い師だと気づいた。

「水晶の精よ・・・」
老婆はその水晶の上に両手をかざすと精神を集中し始めた。

「水晶の精よ、我が呼びかけに応えよ、我が願いを聞き届けよ・・・娘の居場所を、我に示せ・・・渚という名の娘の居場所を・・」

ゴクリ…イルはつばを飲み込んで水晶球を見つめていた。

 

▼その28につづく…

創世の竪琴/その28・すれ違う2人

自分が作った?ゲームの世界で山賊に襲われている旅人を助けようと駆け寄ったものの、イルは重傷、渚は山賊にさらわれ、旅立ち早々早くものバラバラ&窮地に陥る2人。 彼らは無事、元気な顔で再会できるのだろうか ...

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