創世の竪琴

創世の竪琴/その24・再びゲームの世界へ

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このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の途中の展開です。
女子高生渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
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ゲームの世界が実在するなんて、信じなくて当たり前

『渚・・・』
渚はイルの声を聞いたような気がして、目が覚めた。

「う、うん・・イ、イル?」
渚は慌てて辺りを見回し、イルの姿を探した。

「・・・空耳・・だったの?・・横になってて、いつの間にか寝ちゃってたのね。」

『ぐきゅるるる・・・・』
時計を見るともう3時過ぎていた。

「チュラ?」

渚がごそごそベッドから降りた気配でララも目を覚ました。
おいていかれると思ったのか慌てて渚に飛びついた。

「あん、ララ。くすぐったい。」

「渚、千恵美ちゃんよ!」
階下で母親の呼ぶ声がした。

「おじゃましまーす。」
千恵美の声がし、トントントンと階段を上がってくる音がした。

「いい?ララ、じっとしてるのよ。」
渚は慌ててララを布団の中に戻すと、イスに腰掛けた。

-カチャ-

ドアが開き千恵美が入って来た。

「ちわっ、渚!」

「ちわっ、ちーちゃん。」

渚はイスに座ったまま千恵美を振り返り、千恵美は入ってくると、ベッドに腰掛けた。

(ララ、大丈夫かな?)
渚はララの事が心配で落ちつかなかった。

「渚、頭痛はもういいの?」
心配そうな顔をして千恵美が聞く。

「うん、ちょっと寝たから治った。」

「よかった。あの・・さ・・」

「何?」

「さっきは・・ごめんね。」
千恵美はすまなそうな顔をして謝った。

「面白半分に言っちゃって。」

「ううん、別にいいよ。気にしてない。」

「でもさ、ホントに元気ないよ。どうしたの?渚らしくもない。」

「うん・・・あ、あのさ・・・ゲームの世界に入っちゃうなんて事・・・あると思う?」

渚は決心して千恵美にある程度の事を話してみた。

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「ぷっ、きゃははははっ!」
いきなり千恵美は笑いだした。

「なんで沈んでいるのかと思ったら、そんな事考えてるなんて。
さすが『ゲームおたく』の渚ねっ!考える事が違う!」

千恵美は涙まで溜めて笑っている。

「そ、そんなに笑うことないでしょ?それにその『おたく』って言い方止めてくれる?」

「ごめん、ごめん・・もう笑わないから。」
千恵美は必死で笑いを堪えた。

「渚はその言い方気に入らないんだったわね。
でも、ロープレ・ジャンキーも同じようなもんだと思うけど。」

「いいじゃない!私がそっちの方がいいんだから!」

「どっちでも私は同じだと思うけど。だいたい、ゲームのキャラに自分の名前をつけるくらいだから・・・」

「悪い?」

「悪くはないけど。だからそんな事、思いつけるんだって。
・・でもこの手の話って、今は掃いて捨てるほどあるのよ。」

「ただの話だけじゃないんだって!」
千恵美は完全に呆れ返って渚を見た。

「夢を現実だと言いたい気持ちは分かるけどさ。
でもいいかげんゲームの中の勇者様に憧れるのは卒業しなさい?!
昨日の事なんでしょ?時間は経ってないんでしょ?」

「ん・・・でも、いなくなった時にまた帰るって事だってあるんじゃない?」

「そうかもしれないけど。」

結局、千恵美は最後まで渚の夢だと信じて疑わず、家へ帰って行き、渚は一人机に頬づえをついて考え込んでいた。

「でも・・・ララがいるのよね。」
渚には証拠物件までは見せる勇気はなかった。

「渚、ちょっと手伝ってちょうだい。」
階下で母親の呼ぶ声がした。

「はーい。」

「いい?ララ、ここで待ってるのよ。後で食べれそうな物持ってきてあげるから。」

「ちゅら!」
渚はララを机の上に乗せると部屋を出て行った。

「チュララ・・・チュラ~~」
ララは退屈しのぎに部屋中飛び回り始めた。

「お姉、おらのビー玉、知らないか?」
突然、ドアが開き、渚の弟、優司が入ってきた。

ベビースライムのララ、弟に見つかる?!

飛び跳ねていたララと優司の目が会う・・・。優司の目は点になった。

「ス・・スライムが、うちで跳ねてるぅ?」

「・・・・・」

「お、お姉ぇっ!」
だだだだだっと階段を駆け下りると、ダイニングに飛び込んだ。

「どうしたの?優君?」

「お、お姉・・・部屋に・・・」

途中まで聞いただけで渚は優司が何を言いたいのかはっきりと分かった。
が、ここは、とぼけるしないと判断した。

「部屋に・・・何?」

内心どきどきし、渚は優司に引っ張られるように部屋へ上がって行く。

-ガチャ-

2人でそおっとドアの隙間から中を覗いた。

ララは、優司が下に来る間に隠れたのか、姿は見えなかった。

「別にどおって事ないじゃない!優司、あんた、頭がぼけてたんじゃないの?
またTVゲームでもやってたんでしょ?
やりすぎで見たような気がしたのよ、きっと!」

ほっとした渚は、わざと少し馬鹿にしたように言う。

「そうかなぁ・・・?」

「そうに決まってるって!だいたい、いるわけないんだから!」

ここは言い切るに限る、と思った渚は投げ捨てるように言うと、ダイニングに戻る。

「どうしたの、優司は?」
母親が心配そうに渚に聞いた。

「あっ、何でもないの。ゲームのしすぎ!」

「渚のお手本が悪いから。」

ぐっ、やぶ蛇だ、と思いながら渚は食事の支度を手伝い、食べ終わるとすぐ部屋に入った。

「ララ・・・・ララ・・・?」
部屋中探したのだが、ララの姿はない。

「ふう、何処へ行っちゃったのかしら?小さいから・・分かんない・・ララぁ?何処?」

渚は声を低くして呼び、ララを探した。

「お姉!」

いきなりドアが開き、床にかがんでいた渚は、驚いて上体を起こした。

「い、痛~・・・。」

机の角で思いきり頭をぶってしまった。

「な、何よ、優司?」

痛みを堪え、優司の方を振り返るとわざとぶっきらぼうに聞いた。

「だから、スライム・・・じゃなくって、ビー玉・・・知らないか、お姉?1つもないんだ。」

「ビー玉?・・・そんな物、私が知るわけないでしょ?」

「ホントに?パソコンの横に置いといたんだけど・・・?」

「あんたがどこか他の所にしまい忘れたんじゃないの?他を探してみなさいって!」

「う・・うん。」

優司がドアを閉め出ていくと、ほっとしてまたララを探そうと振り返った。

-コロロロロ・・・・-

ベッドの下からビー玉が1つ転がり出てきた。

「え?」

渚は慌ててそれを拾う。

「チュララ~・・・」

「ララ?」

ビー玉を追いかけるようにしてララもベッドの下から出てきた。

「チュラッ」

渚が不思議に思っていると、ララは大きくジャンプすると渚の持っていたビー玉をぱくっと飲み込んだ。

「ラ・・ララ?」
犯人はララだったのだ。

「だ・・・だけど・・・」
ララの身体自体がビー玉と同じくらいの大きさだ。
中は無限の異次元空間にでもなってるのだろうか、と渚は思っていた。

「ふう・・・・。」

いくら渚がビー玉を出すようにララに言ってもララは頑として言うことを聞かなかった。

「仕方ない・・優司には今度買ってやればいいか・・・。」

真夜中の転移実験

その夜、10時過ぎ、渚は居間にあるパソコンの前に座った。

弟の優司はもう寝ている時間だ。覗かれる心配もない。

ゲーム作成ソフトのメニュー画面を出すと、じっと見つめていた。
勿論、イヤリングを着け、ララと共に。

「ふぁーあ・・・眠くなっちゃった。全然そんな気配ないもんねー。」

時間は12時過ぎていた。昼間少し寝たとはいえ、少し眠くなってきた。

「チュララ~・・・・」

ララも眠くなったのか、大きなあくびをし、渚の手の中で丸くなった。
が、どうも寝づらいのかキョロキョロし始める。

「何?ララ?」

「チュウラッ!」

ぴん!と閃いたようにララは叫ぶと渚の胸元に飛び込んだ。

「ち、ちょっと・・・ララっ!」

慌てた渚がララを胸元から出そうとした時だった。

『渚・・・我が闇の女王・・・』

ゼノーのその心が凍てつくような低い声を聞いたような気がして、渚はその瞬間ゾクッとした。

渚がその声のした方、パソコンを見たその時、画面から手の形をしたような黒い靄が現れた。

「きゃあっ!」
その靄は渚を包み込むと渚と共にふっと消えた。

後の部屋には、いつものように真夜中の静寂の中、電源の入りっぱなしのパソコンのモニターが光っていた。

 

▼その25につづく…

創世の竪琴/その25・姫巫女の預言が示す運命

現実…というより自分の世界に一時戻ることができた渚。 夢としか思えない異世界、しかも自分が作っているゲームの世界。 だが、それが夢ではない証拠に、向こうで自分になついたベビースライムが渚の元にいた。 ...

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