創世の竪琴

創世の竪琴/その23・闇の呼び声

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このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の途中の展開です。
女子高生渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
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闇の声

「渚・・・?」

塔が崩壊していく中、イルは身動きできないまま、自分が温かい光のようなものに包まれているのを感じていた。

傷つき精神力も使い切り、目も開けられない状態だったが、それが渚の、女神ディーゼの剣から発せられるものだと不思議にも確信していた。

「ん?」

「気がついたの、イル?」

「ここは・・・・」
イルの目の前には心配そうに覗き込んだニーグ村村長夫人のカーラの顔があった。

イルは全身がまるで鉛の様に重く感じた。自分の身体ではないように感覚がない。

「お、俺・・・村に戻って・・・。」

「黒の森が消えた後、すぐ村の男たちが見に行ってあなたを見つけて来たの。
1週間も目を覚まさないものだから、心配したわ。」

「な、渚は?」
イルは慌てたように回りを見た。

「・・見つかったのはあなただけだったの。」

「ギームは?」
返事の代わりにカーラは力なく首を振った。

「そ、そんな・・・俺だけ・・俺だけ助かるなんて・・・お、俺はまた・・また、俺だけ助かったのか・・・。」

カーラには慰める言葉がなかった。
それは、グナルーシからイルの事を聞いていたから。

イルは、モンスターに襲われたルタ村のたった1人の生き残り。
気絶したイルの上に覆いかぶさるようにして母親は死んでいた。

その母親は遠くにディーゼ神殿の姫巫女の血を引く、最後の1人だった。
黒髪と黒い目の、どこか渚に似ている女性だった。

「ギームに持たせた村の宝剣だけは・・あったのだけど。」

カーラは部屋の片隅に立てかけてあった剣を持ってくると悲しそうに言った。

「ギーム・・・・・」

ベッドの上に起き上がったイルはその剣を手に持ち、じっと眺めた。

カーラはそんなイルを1人にしておいた方がいいと思い、そっと部屋を出た。

宝刀をベッドの上に置いたまま、イルは思いついたように傍らに置いてあった自分の腰袋を取ると、中を探した。小指程の長さの渚の剣を。

「あった・・・・。」
底の方にあったその剣を取り出すと、じっと見つめると小さく呟いた。

「渚・・・」
イルの両手に包まれた剣は、一瞬その銀色の輝きを増したかに見えた。

が、それ以上変化もなく、イルは溜息をつくと再び剣をしまった。

「渚・・・どこにいるんだ?・・お前が死んだとは思えない・・・・。」

『ここへ呼べばいい・・』

「誰だ?」

イルは耳元で囁かれたような気がして振り向いた。
が、部屋には誰もいない。その代わり自分の耳に何かついているような気がして手を充てた。

「な・・・・ま、まさか・・・」
イルは慌てて剣の刃に自分を写してみた。

「こ・・これは・・・・。」

もしや渚のイヤリングが自分の耳に、と思ったイルだったが、剣の刃に写っているのは、銀色ではなく、あの、ゼノーが着けていた黒銀のイヤリング。

「な・・・何故だ・・・?」
『召喚するがいい・・・娘を・・月の娘を。』

低く囁くような声がイルの頭の中に響く。

(これは・・・ゼノーの声?・・・)

『召喚せよ・・・ディーゼの力を手に入れし娘を・・・』

「くそっ!」
イヤリングを外そうと思っても外れそうもない。

『会いたいのであろう?・・・・手に入れたいのであろう・・・渚を。』

「う、うるさいっ!お前の事など聞くもんかっ!」

イルは耳に手を充て、必死でその声を聞くまいとした。
が、いつしか頭に響き渡るゼノーの声に自分自信を失っていった。

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闇の召喚術

黒の森の跡、オーブのあった場所の近くに洞窟がある。
イルは操られるように1人その洞窟に入って行く。

細長い洞窟を奥へと進んで行くと少し広い空洞がある。
そこには巨大な魔方陣が描かれてあった。真紅の魔方陣、乙女の血で描かれた闇の魔方陣が。

イルはその中央に進み、ゆっくりと両手をあげると呪文を唱え始めた。
そのイルの声に重なるようにゼノーの声が洞窟に響いた。

『暗き闇に住まう者よ、我、汝らの主、ここに迎えん。
血の盟約に基づき、閉ざされた重き扉開け、我が前に連れ来たらん。』

黒い靄が中心から出、徐々に魔方陣全体へと広がっていく。

(く・・くそっ!)
イルは心の底でゼノーの束縛と戦っていた。
自由を奪われた自分の身体を取り戻そうと必死だった。

が、いくらあがいてもぴくりとも動かない。
イルは、焦りながら、ほぼ魔法陣一杯に広がった靄の中に立っていた。

まるでイルの生気を吸い取るかのような靄。
それは、まちがいなく闇の気。

張り付くかのように、しっとりとイルの全身を包み込んでいるそれは、生きているような気もした。

しばらくすると、その靄は魔法陣の中心に集まり、ゆっくりと渚の形を作っていった。
明らかに渚を召喚しようとしていた。

(・・・ディーゼ、女神ディーゼよ、こ、この闇を払ってくれ・・お、俺は・・奴などに負けたくないっ!・・な、渚っ!)

その心の奥底から絞り出すかのようなイルの叫びに呼応して、急に腰袋が光り始めた。

(ふ、袋が?い、いや、剣だ、渚の、女神ディーゼの剣が光ってるんだ!)

まだ自由が利かないままイルは心のなかで叫んだ。

「女神ディーゼ!」

イルのその叫びとも思える声を受け、靄は徐々に大きくなっていくその輝きに押され、そして消えていった。

(た・・助かった・・女神ディーゼよ、感謝します・・・・)

ようやく束縛から自由になったイルは、極度の精神的疲労の為、その場に崩れるように倒れ込んだ。

「う・・・」
しばらくして気がついたイルは、それまでの事を思い出すと同時にイヤリングを外そうとした。

「く、くっそう!取れないのか!」
イヤリングはどうやっても取れそうもなかった。
イルは悔しかった。
自分がゼノーの思いのまま操られ、闇魔法を使ってしまった事が。

「そ、そうだ、渚は?」
辺りを見渡したが、それらしき人影はない。

・・・召喚が途中だったので、失敗したのか、それともどこか他の場所に・・・

イルは立ち上がると、ゆっくりと出口に向かった。

「渚を探さないと。近くに来てるはずだ。」

渚が近くに来ている、不思議とそんな気がし、ゼノーの手に落ちないうちに自分が見つけなければと、まだ他人のもののように動かせない自分の身体をひきずるようにして、渚を探し始めた。

 

▼その24につづく…

創世の竪琴/その24・再びゲームの世界へ

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