このページは、異世界スリップ冒険ファンタジー【創世の竪琴】の途中の展開です。
女子高生渚の異世界での冒険と恋のお話。お読みいただければ嬉しいです。
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(前の話、創世の竪琴その22は、ここをクリック)
自分の世界は、いたって平穏
「渚?渚っ!いいかげんに起きなさいっ!今日は部活があるんでしょっ?」
渚はベッドの中でまだ眠い目を擦りながら、ごそごそと起き上がった。
「渚っ!夏休みだからっていつまでも寝ててどうするのっ!早く起きなさいっ!」
階下ではまだ渚の母親が怒鳴っている。
相当ご機嫌が悪いようだと渚はまだ眠気でぼけている頭で思った。
「やっばぁ~・・・・低気圧だぁ・・・台風接近!暴風注意報発令!!」
「渚っ!」
階段を上がってくる足音がした。
「はああい!起きてます!」
渚の返事に母親は上ってくるのを止め、キッチンへと戻っていった。
これ以上怒らせると本当にやばい、そう思った渚は急いで着替え始めた。
「またおとうさんと喧嘩でもしたのかなぁ・・・・全く子供に八つ当たりしないでもらいたいわ!今は・・・今はそんな気分じゃないのに・・・。」
渚は独り言を言いながら机の引き出しを開けた。
そこにはあの銀のイヤリングが入れてあった。
「イル・・・・ギーム・・・・」
渚はイヤリングをじっと見て2人の事を考えていた。
・・・本当にあれでゼノーは死んだの?・・・イルは大丈夫なの?そして・・・ギームは・・・?
「あそこにギームはいなかった・・・という事は・・あそこに来る前にギームは・・」
「渚っ?」
返事は聞こえたものの、なかなか下りて来ない渚にしびれをきらした母親がまた怒鳴った。
「は、はあああい!」
渚は引き出しを閉めると慌てて階下へ下りて行く。
「おはよう、おかあさん。」
「おはよう、じゃないわよ。今何時だと思ってるの?」
「だって・・・部活だけだから9時までに行けばいいんだし・・・それに今日は休もうかと・・・・」
渚はちらっと時計を見た。まだ7時半少し過ぎたところ。
「だっても、さってもないでしょっ?
部活だからって、休むと評価が下がるのよ!
だいたいあなたは、休みだと言うと・・・」
・・ほーら、始まった・・・
渚はここは退散するに限ると判断し、再び部屋に駆け上がった。
「渚、ご飯は?」
「いらないっ!」
「9時までならまだ時間あるでしょ?食べてから行きなさい!」
ダイニングから母親の声が飛ぶ。
「はあああい!」
渚は大声で返事だけするとバッグに手をかける。
-ピョンッ-
何かがバッグの後ろから跳び出て渚の頭の上にとまった。
ベビースライム・ララ発見!
「えっ?な、何?」
ゴキブリにしては丸かったような・・と思いつつ、もしやと思った渚は頭に手を充てた。
その手にピョンと何かが乗り移る。
「チュララ?」
渚の目の前には、ブルースライムのララがいた。
「ララ?お前、お前一緒に来ちゃったの?」
「チュララッ!」
得意満面なララ。
「・・・・・・」
「ええーーーーーー?!」
一拍おいて、このあまりにものサプライズに大声を上げる。
耳に付いている女神のイヤリングといい、ララといい、もはやあの世界があることは決定的だった。
「何、1人で騒いでるの?学校へ行く時間なんでしょ?」
「わかってるー!」
階下からの母親の声に怒鳴るように答え、どうしようか?と渚は困り果てる。
ララを置いておくわけないはいかない。
もし見つかったら大騒ぎになる。
TV局とかが、どっと押しかけてきて・・挙げ句の果てには政府の研究所とやらが来て、ララを連れて行って・・解剖・・なんて事になったら。
それとも・・私を助けてくれた時みたいに、ララが巨大化したら・・・・それこそ、映画の『キングコング』だわ!自衛隊なんかが出て・・・
渚はぞっとした。
「いい?おとなしくしてるのよ?」
渚はララをバッグに入れて連れていく事にした。
「チュラッ!」
「行ってきまーす!」
慌ててパンとミルクで食事を終えると玄関を出た。
「イル・・・ギーム・・・・」
(黒の魔導士を倒すと同時に私は気を失って気がついた時には、自分の家に戻っていて、パソコンの前に座っていたのよね。)
「光が私を包んだ事は覚えているんだけど。イルは・・・それに、ギームはあそこにはいなかったし・・その前に倒されたって事・・なの・・・・?」
渚はバッグからララを出すと話しかけた。
「チュララァ・・・・。」
手の平のララは悲しげな顔をした。
「ふう・・・」
溜息をつくと渚は重い足取りで学校に向かった。
「おっはようっ!マッピング、どこまで進んでる?」
部室に入ると同時に親友の結城千恵美が話しかけてきた。
「お、おはよう、ちーちゃん。ん、まだあんまり・・・」
「どうしたの、渚?元気ないじゃない?」
千恵美は心配そうな顔で渚を覗き込む。
「何、何・・・桂木が沈んでるって?・・・それはおかしい・・天変地異の前触れだ!」
部長の山崎洋一がからかうように言った。
「な、何よぉ・・その言い方?」
怒った顔をして部長を睨みつける祀恵。
「ちーちゃん・・・」
どうでもいいんだから、と言ったように、渚は祀恵を止めると、自分の席についた。
「な、渚?・・・・」
思いがけない渚の行動に千恵美は驚いて、渚の席に近寄る。
「本当にどうしたの?いつもなら食ってかかるのに・・・・。」
「いいの。そんな気分じゃないの。」
渚はそう言うと、パソコンを持って来たソフトで立ち上げた。
パソコンの画面が明るくなりメニュー画面がでる。
「・・・・・・・」
渚はそれを見て頬づえをついたままじっとしている。
「渚・・・・?」
「桂木、ゲームのしすぎでぼけたのか?徹夜でやってたんだろ?」
「もうっ!部長は向こうで自分の事をやってればっ?!」
あくまでからかう部長を追いやると千恵美は渚の横に座り、声を小さくして言った。
「渚、ひょっとして・・恋煩い?」
「へ?」
思いもかけない事を言われ、渚は驚いて千恵美を見つめなおした。
「な・・・なんで?」
「なんでも!女の第六感!・・・ね、ね、相手は誰?」
興味深々の顔をして覗き込む千恵美に、渚は怒りを覚え、がたっと立ち上がった。
「私・・・・帰る!・・・頭が痛い。」
パソコンの電源をばちっと切ると渚は驚いている千恵美を無視して部室を後にした。
頭が痛いのは本当だった。
向こうの世界から帰って来てからほとんど眠れなかったから。
(こんな事話したって・・・誰も信じてくれるはずない。笑われるだけ・・・。)
でも千恵美が言う通りかもしれないとも思った。
私、恋してる?
(口を利けば喧嘩してたけど・・でも私・・イルの事が・・やっぱり好きになってたのかもしれない・・・でも・・イルは・・・。)
そんな事を考えていると涙まで出そうになり、渚は走って帰ると、自分の部屋に駆け込み、頭から布団をかぶって丸まった。
「渚?どうしたの?」
母親が心配して様子を見に来た。
「な、なんでもない・・少し頭が痛いだけ。」
「そぉお?それならいいんだけど。酷いようならお医者さんへ・・」
「それほどじゃないから、いい。」
「そう。じゃ、薬だけでも飲んで寝なさい。」
「うん。・・後、飲みに行く。」
母親が部屋を出ていくと、ララはバッグから出て布団にもぐり込むと心配そうに渚を見つめた。
「ナギ、・・チュラ~・・・・」
「ララ・・・・」
渚はララを撫でると自嘲するように、にこっと笑った。
「そうよね、こんな事しててもどうにもならないのよね!
元気なだけが取り柄なのにこんなんじゃ!・・・よ~し!」
渚は自分に言い聞かせるようにララに言った。
「チュララ、チュラッ!」
「渚、ファイトォ~っ!おーっ!」
渚はベッドから出ると、応援団のようにポーズを取り、自分に掛け声をかけた。
じっとしていては、気が滅入るばかり。
そして、渚は机の引き出しを開けると、イヤリングを取り出し、耳に着けた。
「ちょっと、実験・・女神ディーゼの名のもと、我は願う・・・竪琴よ、本来の姿に!」
が、その小さな銀色の竪琴に変化はない。
「駄目かぁ・・・こっちの世界じゃ駄目なんだ、やっぱり。」
渚は諦めると居間に置いてあるパソコンの前に座った。
渚の家では、パソコンはデスクトップが1台のみ。
自室に置くと一晩中パソコンをしているからという懸念から、居間に置かれている。
「う~ん・・・見れば見るほど同じよ。」
渚が作成したゲームのマップは、イルに見せてもらった物とまるっきり同じ。
「チュラ?」
ララはその画面の前で嬉しそうにピョンピョン跳ねている。
「またここから行けるのかしら?・・・・・そうだっ!今晩実験してみようっ!」
そう決めた渚は、ララと一緒にしばらく横になることにし、部屋に戻った。
(昨夜はほとんど寝てないから、今のうちに寝ておかないと。)
あれこれ考えが頭の中で踊っていてなかなか寝付けなかったが、それでも、疲れと睡眠不足が、いつしか渚を眠りの中に引き込んでいった。
▼その23につづく…
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創世の竪琴/その23・闇の呼び声
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