部のみんなで作成中のゲームの世界が実在する・・・それでさえ信じられない事なのに・・その上、どうして自分だけここへ来れたのか。
夢だったら良かったのに・・・でも、これは確かに夢なんかじゃない・・。
いろいろな考えが渚の頭の中で渦巻いていた。
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『チチチチチ・・・』
次の日の朝、渚は小鳥の鳴き声で目が覚めた。
「う~~ん・・」
大きく伸びをすると渚は身支度をし始めた。未だにあれこれ考えながら。
「渚、起きてるか?」
部屋の外からイルの声がした。
「は、はい・・今行きます。」
イルとギームはもうすっかり準備ができているようだった。
渚が起きてくるのを待っていたらしい。
「おはよう。」
「おはよう、渚。」
「よう、いい天気だぜ。絶好の旅立ち日和だぞ!」
「あっ、イル、ご飯は?」
「テーブルの上にパンと干し肉がある。
俺たちはもう食べたから、全部食べてもいいぞ。
残ったら自分の袋に入れておけ。」
「はーい。」
渚はパンと干し肉を少し食べると、言われたとおり残りをくるんで自分の袋に入れる。
「さあて、行くか。」
渚はちょうどナップサックのような袋、イルはもう少し大きめのを、そしてギームは登山バッグのような大きなものにそれぞれ荷物を入れ背負った。
もちろん魔法の玉のようなアイテムはそれぞれの腰袋に入れてある。
渚は女神ディーゼのイヤリングをつけ、イルは今やグナルーシの形見となった杖を持ち、ギームは村の宝刀である大剣を背に括り付けていた。
その日の夕方、一行は予定通り黒の森の入口である吊り橋の手前に来ていた。
目の前には不気味な雰囲気の暗黒の森が広がっていた。吊り橋は風に吹かれて左右に揺れ、ギイギイと不気味な音を立てている。
「イ、イル・・・この吊り橋大丈夫なの?」
百メートル程の長さのその吊り橋は、真ん中に道板が渡してあるだけで、真下の渓谷が丸見え。遥か下のほうに川があるらしい。
この高さなら、まず、落ちたら命はないだろうことが分かる。
「イ、イル・・・・」
一歩渡りかけた渚だが、その揺れと景観に足がすくみ、動けなくなってしまった。
「大丈夫だって・・・・しょうがないな・・ほら・・」
先頭を行くイルが手を差し出した。
が、その手が渚の手を掴む前に渚は体を捕まれ、ふわっと宙に浮いた。
「えっ、えっ?」
「あんまり暴れるんじゃねーぜ。
バランスを崩すとひとたまりもねーからな!」
渚のへっぴり腰を見るに見かねてひょいと渚を抱き上げたギーム。
「ギ、ギーム・・・だ、大丈夫よ、私歩いて・・・・」
赤くなりながら慌てて下りようとする渚だったが、ギームの太い腕は既にしっかりと渚の体を抱き留めていて、彼の意思がなければそうする事は無理のようだ。
「ほらほら、暴れると落っこちるぜ!」
「きゃあ!」ギームはわざと吊り橋を揺すった。
ギームの巨体で揺すられたのでは、たまったものではない。
橋はそれまでにも増して左右に激しく揺れ、渚は恐怖に駆られギームの首にしっかりと巻きついた。
「ギ、ギーム!ガキのやる事だぞ!」
「早く行けよ、イル。もっとも、そこにずっと突っ立っていてくれてもいいがな。」
ギームをものすごい勢いで睨んだイルだったが、そうしている事がその態勢を持続させることになると気づき、仕方なく向きを変えて小走りに吊り橋を渡った。
が、イルが渡りきってもギームはのんびりと渡っていた。
「あ、ありがとう。もう大丈夫。」
渡りきってもなかなか下ろしてくれようとしないギームにしびれを切らし、渚は彼の腕から下りようともがいた。
騒いでしまった恥ずかしさとくやしさで顔だけでなく耳たぶまで真っ赤になっている。
その真っ赤な耳に銀のイヤリングが踊り、何とも言えぬ色香をかもしだしていた。
ギームはその色香に誘われ、思わず耳に口づけをした。
「!」
-バッシーーーーンッ!-
その瞬間、渚は思い切りギームの頬を叩くと、少し緩んだ彼の腕を振りほどき下へ降りる。
そして、その耳を抑え、きっとギームを睨んだ。
「今度こんなことしたら・・・・」
「丸焦げにしてやるぞっっ!」
「えっ?」
自分の台詞の後半を取られ渚はその声の主、イルの方を見た。
イルの手には火球が渦巻いている。
「じょ、冗談はよせって、イル・・・・。」
ギームは慌てた。イルの魔法の強力さは十分知っていたからだ。
「すまん、すまん。もうしないって!いやぁ・・・・あんまり渚ちゃんが色っぽかったもんだから・・・・つい・・・な、イル、やる気じゃなかったんだ。な・・な。」
ギームは頭をかきながら何度も謝り、なかなか消えなかったイルの手の火球もしばらくしてようやく消えた。
渚はそんな2人に怒りも忘れ、呆然と見ていた。
「チュララ!」
しばらく姿を現さなかったララが渚の肩の袋から飛び出た。
その叫び方で、一行は何か危険が迫ってきていることを察した。
『グルルルル・・・・ガオーッ!』
茂みの中から狼の集団が襲ってきた。
「まかせろっ!」
言うが早いかギームは大剣を抜くと狼の集団に向かっていく。
「ウイナーゼとの盟約に基づき、我、全てを切り裂かん・・・『緑龍裂風!』」
イルの手から放たれた透明な緑の球は龍の形の烈風となり、ギームを避け、狼に向かっていく。
『ギャン、ギャワン、キュン・・・』
「女神ディーゼの名のもと、我は願う、出でよ、ムーンソード!」
渚は三日月を思わせる細く婉曲した銀の長剣ムーンソードで2人の攻撃を避け、襲いかかってくる狼を倒していく。
狼は、ムーンソードの刃に触るか触らないかの瞬時で、倒れていく。
「はあ、はあ、はあ・・・」
数分後、周囲は何十匹という狼の死骸で埋まっていた。
「よく頑張ったな、渚。」
「イル・・・・もう手がくたくた・・。」
「ムーンソードか・・・・なるほど。」
ギームも渚に感心したようだ。
「俺もそれでたたっきられないように気をつけるとするよ。」
「そうよ、そうした方がいいわよ、ギーム。」
「チュチュラ!」
「ははははっ、ララがその通りだって言ってる。」
「あっはっはっはっはっ!」
なんとか吊り橋での件も水に流され、一行は少し場所を移ると野営することにした。
夜、黒の森を歩くのは、危険極まりないからだ。
『リーンリーン、リロリロリン・・』
焚き火を囲み3人は食事をしながら話をしていた。
黒の森やこの辺りの国のこと、神殿での戦いのこと、などを。
「きれいな虫の声ね。こうしてると魔導士が悪事を企んでるなんて事信じられないわね。」
「そうだな。けど、事実、そうなんだ。」
「ええ、そうね、イル。」
「そろそろ寝たらどうだ、渚ちゃん。明日はまた夜明けと共に森の奥へ進むんだからな。」
「え・・・ええ。」
「俺たちが交代で見張ってるから大丈夫だって。なっ、イル。」
「ああ、渚はさっきので疲れているだろう。
明日も何があるか分からないからな。
よく寝ておいた方がいいぞ。」
イルがそう言ってもなかなか寝ようとしない渚にギームが言った。
「あっ、俺が襲うとでも思ってるんじゃ・・・・?」
渚はぎくっとした。
「そ・・・そんな事・・・・」
「思ってないってか?」
少し意地悪そうな目をして言うギームに渚は何も言えなかった。
「・・・・・・・・。」
「思ってるんだな。」
「当たり前だろ?ついさっきの事なんだからな。
大丈夫だって、俺がいるから。」
イルが一人納得したような顔で渚を見る。
「それも・・・心配だぜ。」
ギームがぼそっと言う。
「ギーム・・・お前なあ!」
渚の方を向いていたイルが立ち上がりギームを睨む。
「チュラ、チュララ!」
とその時、ララが渚の手の上に躍り出た。
「そうだったわね、ララが守ってくれるのよね。」
「チュララ!」
「よろしくね、ララ。
じゃ、お休みなさい、イル、ギーム。」
「あ、ああ、お休み・・・・。」
小さなスライムのララにしてやられて面白くないイルとギームは、むすっとしてお互い目を背けた。
渚は毛布に体をくるむと横になったが、火の燃え盛る音や虫の音、これからのことなどが頭から離れず、なかなか寝つけれなかった。
▼その19につづく…
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創世の竪琴/その19・ゾンビの宴会
渚は毛布に体をくるむと横になったが、火の燃え盛る音や虫の音、これからのことなどが頭から離れず、なかなか寝つけれなかった。 (前の話、創世の竪琴その18は、ここをクリック) 翌朝、夜明けと共に起き、食事 ...