「じゃ、村に急ごう。」
「ええ。」
2人は、すっと立ち上がるとその歩を来た道へと進めた。
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グナルーシの葬儀も無事終え、渚は村長の家の居間で1人じっと考えていた。
本当にこれは夢ではないらしい事、ここに来た原因、これからすべき事など。
「ああ、もうっ!考えたってわからないわ!下手な考え休むに似たりだわっ!」
「何を1人でわめいているんだ?」
奥で村長と話していたイルが入って来た。
「ああ、イル、で、話は済んだの?黒の森にはいつ出発するの?」
「その事なんだけどな。」
「よっ!」
イルに続いて大剣を背に背負った男が入ってきた。
その男には渚は見覚えがあった。
「確か、あなた・・・ギーム。」
思い出したと同時に、『物』扱いされたことが鮮明に蘇り、ギームを見る渚の目は自然ときついものとなっていた。
「おい、おい、そんなに睨む事ないだろ?」
「何の用なの?」
「相変わらずきっつい性格でやんの。」
「悪かったわね、きつくて!」
ギームは肩をすくめるとイルを見た。
「渚、これから一緒に黒の森まで行くんだ。そんなに喧嘩腰じゃ・・・。」
「ええーっ!何故?私とイルだけでいいじゃない?」
「黒の森はモンスターばかりじゃなく、凶暴な野獣もいっぱいいるんだ。・・」
「で、この俺様が助っ人ってわけさ。
お前らじゃ、ろくな武器も扱えやしないからな。
まあ、バンバン倒してやるから安心しな。
食料とか重い荷物も持ってやるしさ。」
「ふ・・・ふ~ん。」
確かに戦士が必要なのかもしれない、と渚はゲームを想定して考えていた。
「まっ、仲良くいこうぜ。渚ちゃん!」
ギームが渚の肩を抱こうとした直前、イルが短剣をギームの目の前に突き出しそれを止めた。
「いいか、渚にちょっとでも触れてみろ!ただじゃおかないからな!」
「ちょ、ちょっと、イル、どっちが喧嘩腰なのよ?」
大男のギームに抱きすくめられなくてすんだのはいいが、少しやり過ぎだとも思えた。
もっとも悪い気はしないでもなかった・・・。
「腕はたつからな。
それに村長に言われた手前、断れなかったんだ。
それでなきゃ、頼むもんか、こんな女好き。」
「へ?」
「イル、渚ちゃんが警戒しちゃうだろ?
誤解を招くような事は言わないでくれよ。」
イルの言葉に目を丸くして彼を見た私に、多少焦りも見せながら、口を尖らせてギームはイルに抗議する。
「うるせーな!本当の事だろ?
いいか、渚、俺の側を離れるなよ!
こいつには気をつけろ!」
「え・・・・・え、ええ。」
「イルだってわかんねーぞ!」
(う・・・・こ、こいつらは!)
睨み会っている2人を見て渚は頭が痛くなってきた。
(とにかく、どっちも要注意ってわけね!
ああ、さっさと魔導士を倒して元の世界に帰ろう!
倒しちゃえば帰れるだろうから・・・多分そうよね、ロープレならそうだもん!)
自信は全くなかったが、そうでも思わなければ何も手につきそうもない。
「2人とも、渚さんが困ってしまってるでしょ!いいかげんになさい!」
村長と一緒に部屋に入ってきた夫人のカーラがそんな2人を諌めた。
「君達だけが頼りなんだ。頼んだぞ!」
「はい、村長、このギールム、渚と共に必ずや魔導士を倒してきます!」
村長の前に立つと、わざとらしくギームは直立不動の姿勢を取った。
「勝手に言ってろ!渚、行くぞ!」
イルはそんなギームをちらっと見、渚の腕をぐいっと掴むと、さっさと部屋をでた。
「ちょ、ちょっと待って・・・・そ、村長さん、カーラさん、行ってきます。」
カーラと少し話をしたかった渚だが、イルはそんな事はさせてくれないムード。
ぶすっと不機嫌極まりない顔をしてどんどん歩いていく。
渚は慌てて村長夫妻に挨拶をすると、引っ張られるようにして家を出た。
「ちょ、ちょっと、イル・・・そんなにきつく掴んでちゃ痛いわよ!」
「遅れるなよ!」
渚の腕を離したイルはぶっきらぼうにそう言うと歩を進めた。
「ねぇ、イル、どのくらいかかるの、黒の森まで?」
「そうだな・・・今日はイルの山小屋までで暗くなっちまうから、今晩は泊まって、明日の朝出掛けるとして・・・・
まぁ、夕方には黒の森の吊り橋には着くだろうな。
俺たちだけなら夜行で行っちまうが、渚ちゃんには、ちと無理だろうからな。」
いつのまにか追いついたのか、ギームがすぐ後ろから口を挟んだ。
「全くよりによって俺たちの村の近くになんかに現れやがって・・・ったく!」
ぶつぶつ独り言を言うギームをちらっと見ただけで、イルは何も言わずさっさと歩き、渚は遅れないように急ぎ足でイルについて行った。
ギームよりは幾分イルの方が安全と渚は判断した。
家に着いた渚たちはまず食事を取ると、明日のため武器や食料の点検をし、それからそれぞれの部屋に行って寝ることにした。
「渚、鍵はしっかりかけて寝るんだぞ!」
「分かってます!」
部屋に入ろうとする渚にイルがきつい口調で言った。
その夜、渚はなかなか眠れなかった。ギームやイルの事が気になったというのもあるが、いよいよ本番、黒の森の魔導士との対決に向けて出発ということで興奮していた。
枕元に置いた女神ディーゼのイヤリングを見ながら、そして、あの魔導士、ゼノーを思い出しながら・・・・。
(千年前の予言に添って物事が起きている・・・・どういう事だろ?・・・分からないなぁ・・・。『闇王』に代わり、『闇の女王』・・・・ゼノーの言葉・・・・)
いろいろ考えているうちにいつしか深い眠りについていた。
ふと気がつくと渚はまた暗闇の中にいた。
遠くで前と同じように四角い明かりが見える。
渚は訳が分からなかったが、とにかくそこへ行かなくてはならない気がして走った。
「部、部長?」
そこには渚が入っているパソコン部の部長の顔が、どアップされていた!
「げろげろ~・・・・何、これ?」
圧倒された渚は棒立ちになった。
「洋ちゃん、いい加減にもう寝なさい!」
(あっ、おばさんの声だ。)
「うるせぇなぁ・・・くそばばぁ・・・。」
部長は小声でそう言うと手を延ばしてきた。
「あっ、部長、切らないで!」
聞こえるとは思わなかったが、渚は思わずそう叫んでいた。
-プッツ~ン!-
やはり無駄だったようだ。期待虚しく渚の周りは再び闇に包まれる。
(何、これ?やっぱり私、パソコンの中に入っちゃってるの?何で?どうして?)
暗闇の中、別の方向に明かりがあるのに気づき、慌てて渚は走って行く。
「ああーっ!ちーちゃん!」
今度の画面(?)には、やはり同じパソコン部に入っている同級生の結城千恵美の顔が写っていた。
「眠れない時はこれが一番なのよね。眠くなるまでやってようっと!
え~と・・・どこまで設定したかなぁ?今度のイベントは何にしよう?」
「ちーちゃん!ちーちゃんっ!」
勿論、渚の声は聞こえるはずがない。
-カチャカチャカチャ・・・・-
タイピングの音がしている。
「でも渚も調子いいわよね。最初の設定だけでイベントはよろしく、なんて。
そのイベントを考えるのが大変なのに・・・・。
でも面白いからいいけどね。
みんなでいろいろ案を持ち寄って作るんだし。
う~ん・・・でもこの先どうしよう?
黒の魔導士を倒して終わりだと短かすぎるし・・・う~ん・・・。」
祀恵の思案する顔が画面一杯に見える。
「ちーちゃんってば!」
渚はドンドン叩いてみた。
どうも友達の顔を叩いてるようで気が引けたが。
「だ~めだ・・・・ネタ切れ・・・・今日はもう寝ようっと。」
「ああ~っ、だめぇ!ちーちゃんっ!」
-プッツ~ン!-
周りは再び真っ暗になった。
「ちょっと、ちょっと・・・・マジにここって私たちが作ってるRPGの世界なの?
・・・な、何でそんなのがあるわけ?
・・・何で私が引き込まれなくっちゃならないのよぉ?
そ、そりゃ私が発案したんだけど・・・でも・・・」
う~ん・・
渚はそこへ座り込む。
部のみんなで作成中のゲームの世界が実在する・・・それでさえ信じられない事なのに・・その上、どうして自分だけここへ来れたのか。
夢だったら良かったのに・・・でも、これは確かに夢なんかじゃない・・。
いろいろな考えが渚の頭の中で渦巻いていた。
▼その18につづく…
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創世の竪琴/その18・黒の森、冒険本編?への旅立ち
部のみんなで作成中のゲームの世界が実在する・・・それでさえ信じられない事なのに・・その上、どうして自分だけここへ来れたのか。 夢だったら良かったのに・・・でも、これは確かに夢なんかじゃない・・。 いろ ...